第165話 地中からの不意打ち


 俺は馬車から飛び出した後、軍の後方まで急いで走った。


 そして軍に帯同させていたドリルゴーレムに指示を出す。


「ドリルゴーレムたちよ! ここから地面に穴を掘れ! あの台風の中心まで穴をつなげろ!」


 ドリルゴーレムたちを両腕のドリルを回転させて、俺の命令に従うように地面を掘り始めた。


 まるで坑道のような穴を、五体のドリルゴーレムが掘り進んでいく。残りのゴーレムと俺達は後ろからついていく形になった。


 九十五体のドリルゴーレムと、普通の石のゴーレム三百。それに俺達が四列で坑道を進軍していく。ちなみに俺だけは火をつけた松明を持っていた。


 地中は真っ暗なので明かりがないと俺はなにも見えない。


『やはり狭いのう』


 俺の横を歩く師匠が嫌そうな声を出す。師匠はたまに天井に頭をぶつけそうになっていた。


 なお師匠はたまに地中から穴を掘って顔を出し、現在の位置を把握している。そうでないと見当違いに掘り進めてしまうからな。


「師匠は普通の人より身体が大きいですからね。でも土の天井に頭をぶつけても、特にダメージはないですよね?」

『そうじゃがのう。なんとなく狭い部屋に入ると嫌じゃろ』

「気持ちはわかります」


 俺達はわざと少しだけ他愛ない会話をしながら進む。


 この暗い地中でひたすら歩くのだ、少しくらい雑談をしないと気分が参ってしまう。今から戦いに行くとは言えども、多少のリラックスは必要だろう。


 正直に言うとこれまでのどの戦いよりも、俺はかなり緊張していた。あのエルフの巨大竜巻は正直度肝を抜かれたのだ。


 それにあの台風はおそらく外側からでは打ち破れず、あのまま竜巻が進んでいけばレーリア軍は飲み込まれて壊滅する。つまり内部にいる俺達の活躍に戦の勝敗がかかっている。


『のう弟子よ。せっかく他人の耳がない場所じゃ。なので聞きたいことがある』


 すると師匠が俺にそんなことを告げてきた。


「なんですか?」

『ワシについてどう思う?』

「天才鬼才変人ゴーレム師匠です」

『いや人柄ではなくてな。今のワシという存在をどう思うかじゃ。気を使う必要もない、というか使うな。ワシの弟子として、ゴーレム魔法使いとして、ワシという存在の是非について述べよ』


 師匠は真剣な声だ。どうやら茶化すのはダメらしい。


 俺は師匠の全身を見る。松明の明かりに照らされた鉄の身体は、見るだけでも強そうだ。実際に反則じみた強さを持っていて、かつ人の優れた頭脳を兼ね揃えた存在。だからこそ……。


「…………是非で言うならば、非ですね」


 是とは言えない。ゴーレム魔法使いとして本音を言うならば、師匠の存在は認められない。


 師匠ゴーレムの在り方は、ゴーレム魔法において現状では生まれてはいけなかった存在だろう。


 考えて欲しい。人の頭脳を持っている上に、超優れた性能を持つゴーレム……例えば王の視点からすれば、これほど駒として有用な存在はない。


 永遠に疲れず死なない素晴らしい奴隷にできる。それこそ……奴隷をそのまま人として扱うよりも、ゴーレム化してしまった方がよほど優れている。


『うむ、ワシの生まれた方法は絶対に秘匿せねばならない。じゃからワシはお主にすら、この秘術は教えなかった。ちゃんと分かっておるようで何よりじゃ』


 師匠は俺の言葉に大きくうなずいた。


 以前に師匠がゴーレム化した時、彼は徹底的にその方法を隠した。そして俺も詳しくは聞かなかった。


 それはこの力はあまりに危ういからだ。もし師匠の存在が明るみに出れば、世界中が目の色を変えてゴーレム魔法を研究するだろう。


 もちろんそこらの奴隷をゴーレム化しても、師匠ほどの性能のゴーレムにはなれない。だが普通のゴーレムの性能だとしても、人の知能を持つというだけで極めて有用だ。


 いずれは多くの人の奴隷がゴーレムとなって……というディストピアの誕生が容易に想像つく。


『ベギラよ。忘れるな、ゴーレムは人に役立つ存在じゃ。その前提が壊すことなかれ。ゴーレムは人殺しのためだけの道具ではない』

「もちろんです。そうじゃないとエルフの言葉を否定できませんからね」


 師匠の言葉に強く首を縦に振った。


 俺もゴーレムを兵士に使っている。だがそれはあくまで戦わざるを得ないからだ。


 率先して人を殺したくはないし、なるべく敵に降伏を迫っている。降伏させるためにゴーレムを使っているのだ、そうしなければただの殺戮人形でしかない。


 エルフはゴーレムを禁忌の魔法と言っていた。それは彼らがゴーレムに弱いことを隠すためだが、使い方次第では本当にそんな存在になりかねない。


 物は使い方次第だ。それこそ地球の核だって殺戮兵器の核爆弾にも、大量の電気を発電する便利な力にもなるのだから。


『ゴーレム魔法が優れているからこそ、エルフとの戦いも降伏させて終わらせられるのじゃからな』

「そうですね。もしゴーレム魔法が微妙だったら、エルフを壊滅させる選択肢をレイラスに強いるところでした」


 そしてゴーレム魔法は今後も発展していく。だからエルフをここで降伏させれば、もう数年後には負ける要素はない。そうすれば圧倒的戦力差によって勝ち目がなくなり、エルフたちはもう戦争を仕掛けてこない。


 勝てない相手と戦う者はそうはいないからな。


 ゴーレム魔法が強いからエルフとの戦いを終わらせられる。つまりゴーレム魔法の発展が平和に導くということになる。


 レイラスなら当然それを分かっているので、さっきの俺の言葉に同意したのだから。


「……そろそろですかね」


 俺は真上の天井を見つめる。


 穴に入るまでのエルフ軍との距離を考えると、そろそろ真上に近い位置なはずだ。


『見てくるか。とうっ!』


 師匠は跳躍して天井の土を突き破り、地上へと到達した。すると……。


「な、何者だ!?」

「て、て、て、敵襲!!!!!」


 外からエルフたちの声が鳴り響く。どうやらこれは……!


『弟子よ! ドンピシャじゃ! エルフ本陣じゃ!』

「よし! ドリルゴーレムたち! すぐに地上への穴を掘れ!」


 さあエルフとの最終決戦だ! こいつらを倒せばもう敵はいないんだ!


 絶対に勝って終わらせてやる!

 


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圧倒的な力があれば、逆らう敵はいなくなりますからね。

天下統一直前の信長や秀吉とか、勝てないと判断した大名がどんどん従属していきましたし。

絶対に勝てないなら降伏する勢力が大半でしょう。半端に力が拮抗するから大戦になる。

北条? 小田原征伐? 知らんな(

まあ勝てなくても戦わざるを得ない時もありますか。

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