第164話 タイフーン
前方にエルフ軍確認の報告を受けてすぐのことだった。
「た、大変です! た、竜巻が出現しました! そ、外をご覧ください!」
馬車の外から兵士の焦った報告が届いた。
レイラスは急いで窓を開き外の景色が見える……信じられない事態が発生していた。
俺達の軍の前方に超巨大な竜巻が出現し、森の木々などを空に吹き飛ばしていたのだ。
「……なるほど。あれがエルフの切り札ですか」
レイラスが少し目を細めて巨大竜巻を睨む。
すごい大きさだ。巨人ゴーレムすら凌駕するその巨大さは、昔にニュースで見たハリケーンとしか思えない。
しかも竜巻は雷雨なども纏っているのか、たまに雷がピシャリと光って輝きながらゆっくりとこちらに向けて進んでいる。
……いやあんなのアリかよ。もはや魔法じゃなくてただの大災害じゃないか!?
「エルフ総出、全員で発動する大魔法。確かにこれは厄介ですね」
レイラスは竜巻を見ながら少し悩んだあと、俺の方に視線を投げかけてきた。
「あの竜巻は巨人ゴーレムでも削られて負ける可能性がありますね。ベギラ、やはりここはあなたのドリルゴーレムにお願いしたいです。あの猛烈な風も、地下から潜れば無風のはず。」
「ああ。地面に潜ったドリルゴーレムなら大丈夫なはずだ」
レイラスの言葉にうなずいた。
巨人ゴーレムはたしかに我が軍の切り札だ。その巨体が出せる出力はなんと師匠に匹敵するのだから。
なので繰り出される攻撃は、質量の関係で師匠すらも超える。重さは正義である。
いやそもそも人サイズでありながら、巨人ゴーレムに劣らない出力の師匠がおかしいのだが……まあそれはよいとする。
そんな巨人ゴーレムでもあの災害には勝てないだろう。俺の推測では丈夫さが足りずに、あの台風に上半身が徐々に吹き飛ばされていくと思う。
そしてどんどん削られて最終的に負けると。巨人ゴーレムは土で作られているので、身体自体は頑丈ではないのだ。まさか巨人ゴーレムとタメをはれるような、そんな大きさの存在が出てくるとは思わなかった。
「さてと……じゃあ俺は出るよ。おい、馬車を止めてくれ!」
俺は馬車の席から立ち上がり、外にいる馬車の御者に向けて叫ぶ。
この状況でドリルゴーレム部隊を動かすとなれば、俺が直接指揮する必要がある。レイラスの婿である俺が最前線に出る……危険だがやむを得ないだろう。
なにせドリルゴーレムでなければ、あの竜巻の中にいるエルフに攻撃できない。そんな要の軍を動かすのだから。
もちろん命令だけならそこらの兵士でも可能だが、彼らはドリルゴーレムのスペックを把握していない。つまり俺が指揮するのが最もうまく運用できる。
「気を付けてください。それとあの風魔法はエルフ全員で集中して発動しているからこそ、あれほどの力を出せています。なのでエルフの三割程度を魔法に集中できなくれば……」
「巨人ゴーレムで破れるってことだな?」
俺の言葉にレイラスは小さくうなずいた。
あんな大災害みたいな魔法、エルフであろうがそう簡単に発動できるものではない。ほぼ間違いなくエルフ全軍で魔法の発動に集中しているのだろう。
そして全員の力を使うこの戦術は間違っていない。なにせ周囲にあの竜巻があれば、何人もエルフに近づけないのだ。なので無敵に思えるような風の壁が、常に奴らを守っているようなものだ。
竜巻さえ発生させておけば負けないのだから、それに全力を費やすのはおかしな話ではない。
ただし風の及ばない地下からの攻撃を除く、が。
「わかった。ドリルゴーレムでエルフ軍を混乱させて、巨人ゴーレムであの竜巻を破る。あとは普通のゴーレム部隊で勝てると」
「そうですね。あの竜巻には少し驚きましたが、やはりエルフがゴーレムに弱いのは間違いないです。私も風魔法の使い手ですからわかります」
レイラスはいつものように笑った。
やはり彼女は頼もしい。あの災害の化身みたいな竜巻を前にして、こうも落ち着いていられるのだから。
エルフには同情する。彼らがもしレイラスの有能さを知れば、なんでよりにもよってレーリア国にレイラスが生まれた!? となるだろうな。
もしレイラスがいなければこの戦いは起きてなかっただろう。いまもレーリア国はエルフによってゴーレム魔法が禁じられて、あのクソ王が統治していた可能性が高い。
ゴーレムがエルフの天敵というが、本当の天敵は目の前の恐ろしい少女なのではなかろうか。
「なにか言いたいことがあるなら聞きますが?」
「いやなんでもない! 行ってくる!」
俺は余計な考えがバレる前に、急いで馬車の扉のドアノブに手をかける。
「ベギラ、貴方はこの戦いの勝利条件はなんだと思いますか?」
するとレイラスが俺を止めるように声をかけてきた。
「勝利条件? そんなの決まってるだろ、エルフを降伏させて戦いを終わらせる」
巨人ゴーレムであの竜巻を引き裂けば、エルフたちももはや勝てるとは思わずに降伏するだろう。これまでにスクラプ領や王家を倒した時と同じように。
「……そうですね。頑張りましょう。よろしくお願いしますね」
「ああ任せておけ!」
俺は勢いよく扉を開いて馬車の外へと出るのだった。
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報告です。
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