第162話 いざ出陣


 出陣の朝。王都リテーナの広場には、大勢の兵士が集まっていた。


 おおよそその数は五千。もちろん全軍ではなくて、あくまでこのリテーナに集まった数だ。


 他の兵士たちは各領主軍が率いてくる。エルフ公国に進軍するまでの間に、合流していく予定である。内緒だが各領主の力を削ぐために、かなりの兵士の数を要求したらしい。


 自分達が出陣している間に、国内で反乱を起こされるのを避けるため。そして今後の統治を考えても、各領主の力が弱い方が言うことが聞かせやすい。


 レイラスは相変わらず隙がないというかなんというか……本当に頼もしすぎる味方だ。


 そんな彼女は木でつくられた檀上へと上がっている。綺麗なドレスを着たその姿は、まるで絵画の女神のようだ。


『皆さん。これより私たちはエルフ公国にします』


 風魔法で広場中にレイラスの美しい声が響く。


『エルフたちは我らの国に何度も破壊工作を行い、街や城壁を破壊しようとしていました。それに王家を誑かして、裏から操っていたのです』


 ……あれ? 破壊はともかく裏から操ってたっけ? むしろ王家がエルフを頼っていた雰囲気だったような気も。


『彼らの目的はひとつ。レーリア国を乗っ取り、民を皆殺しにすること。エルフは人間を憎悪していて、その存在を認めていないのです。彼らとは絶対に分かり合えない』


 …………んー? エルフの目的はゴーレム魔法を滅ぼすことであって、皆殺しにするのはゴーレム魔法使いだけなような。脚色というやつかな。


 エルフたちを徹底的に悪にして、俺達の軍を正義にすることで兵士の士気を上げるという。


『エルフたちとは滅ぼすか、滅ぼされるかしかありません。貴方達の愛する妻や子、親を守るため、どうかその剣を私に貸してください!』

「「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」


 レイラスの言葉に兵士たちが雄たけびをあげた。


 少し話を盛っているが嘘というほどでもないからいいのかな。兵士たちの士気は高いし。


『またエルフに味方する人間の国もいるようです。人を裏切った国もまた、我らを滅ぼすつもりです。私たちは絶対に負けられません!』


 さらにレイラスは叫び、それと共にドレスを脱いだ!?


 な、なにを!? と思ったが、下に薄手の軍服に近いデザインの戦装束を着ていた。


『私も皆さんと共に戦います! この一戦にて、レーリア国の平和をもたらすために!』

「レイラス様万歳!」

「女王様が一緒に戦ってくださるんだ! 俺達もやるぞ!」


 兵士たちはレイラスの恰好を見てさらに盛り上がる。


 総大将が戦場に立つかどうか。それは軍に極めて大きな影響を与える。


 考えて欲しい。自分達に戦えと命じる者が、もし戦場にも出ずにヌクヌクと指示して来たらどう思うか。そんな奴に従いたくはないだろう。


 逆に自ら剣を振るって戦に立てば、兵士たちも大将に続けとなる。ましてや女神のよう見えた少女が、戦装束に着替えたとなれば完璧な演出だ。


 あんなか弱く美しい少女が戦うのだ。ならば俺達が臆するわけにいかぬと思わせている。


(やっぱりレイラスすごいな……あれが人の上に立つカリスマか)


 檀上で美しく立つ少女を俺は自慢げに見ていた。


『これより出陣します。この戦いを最後に、レーリア国に平和をもたらさんことを!』


 こうしてレーリア軍は街から出て進軍し始めた。俺はレイラスと共に特注のゴーレム馬車に乗って軍に帯同している。


 街道を進み、北へ北へと移動する。後方にはゴーレム馬車やドリルゴーレムがゆっくりと、兵士に守られながら追随していた。


 いやむしろ兵士を守りながらかもしれない。ゴーレムたちはそこらの兵士よりもよほど強いからな。


 特にゴーレム馬車は兵糧を運んでいるので、本来なら補給部隊。つまりは護衛しなければならない対象だ。


 それがむしろ強いのだから敵からすれば厄介極まりないだろう。兵法において敵の兵糧を運ぶ部隊を狙うのは定石だが、我が軍相手にそれをすれば愚策になりかねない。


 だってそこらの兵士よりもゴーレムのほうがよほど強いし。


 そして何より……軍の最後尾には、巨人ゴーレムがゆっくりと歩いてついて来ているのだ。あいつを見て迂闊に軍の背後を取る奴はいないだろう。

 

「ベギラ。エルフたちの戦いでは、絶対に勝たないとですね」


 俺の横に座っているレイラスが微笑みかけてきた。


「当然だ、絶対に負けない。ゴーレムでエルフ軍を崩壊させれば俺達の勝ちだ。そのままエルフ公国に進軍すれば、エルフたちも俺達に降伏するだろう」

「…………そうですね」


 レイラスは俺の言葉に小さく頷いた。


 ん? 少し返事のキレが悪かったような……それにいつもに比べて顔色が悪い気がする。戦前で緊張しているのかな?


「レイラス、緊張してるのか?」

「……そうですね。この戦で負けたら終わりですから」

「大丈夫、俺が絶対に勝たせてやるから」


 俺はレイラスの両手を握る。


 彼女の腕は小さく細く白い。この両腕だけ見れば、か弱い少女でしかなかった。


 アイガーク王の言う通り、俺がレイラスを支えてやるつもりだ。


「……ありがとうございます。期待していますよ、あなた」

「任せろ!」

『少し先でエルフが軍を率いておるぞ! このまま行けば半日ほどでぶつかる!』


 馬車の外から師匠の声が聞こえる。どうやら最終決戦が始まるようだ。


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次はエルフ視点。

最終決戦なのでゆっくりやります。

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