第161話 出陣前夜


 着々と戦の準備は整っていった。


 俺も巨人ゴーレム一体、そしてドリルゴーレムを百体弱ほど作成させる。そうして兵士たちも集結させて、とうとうエルフ公国への出陣前日となった。


 屋敷の食堂で久々に全員が集合して、家族水入らずで晩餐を行っているところだ。


 メイルにミレスにレイラス。そして俺がそれぞれテーブルの席に着いた。


「とうとう明日、エルフ公国に出兵するんだね……」


 ミレスが暗い顔で告げてくる。


 彼女も少しお腹が大きくなり始めているので、この屋敷で待機してもらうことになっていた。


「頑張ってくださいです。無事に帰って来て欲しいです」


 メイルも心配そうだ。彼女はもうすぐ出産予定なので当然ながら居残りである。


「大丈夫ですー。必ず勝ちますからー」


 レイラスはワインの入ったグラスに口をつけると、ニッコリと微笑んだ。その様子にメイルもミレスも少しだけ安心する。


 やはりレイラスにはカリスマ性がある。アイガーク王は少し疑っているようだが、俺はレイラスに王の器があると思っている。少し冷酷な面もあるけど、越えてはいけない一線は越えない。


「ですが勘違いしてはいけませんよー。エルフたちはあくまで障害のひとつでしかありませんー。彼らに勝ったあともレーリア国を安定させるため、色々と頑張らなければいけませんからー」

「確かにレイラスちゃんの言う通りなのです」

「そうだね。勝ったら終わりじゃなくて、その後も国の統治は続くわけだし。ところでエルフ公国に勝ったあとの、その土地はどう扱うつもりなの?」


 それは俺も気になっていた。


 エルフたちの国は基本的に森林で、領土的には占領してもあまり旨味はない。でも土地はあるので開拓していけば、手間こそかかるが農業地域にしたりもできる。


 そして開拓と言えばゴーレム。ゴーレムと言えば開拓だ。


 やはりゴーレムの使い方は力仕事だ。いまは仕方がないから諦めているが、戦争の兵士よりもこういった平和的なことに扱って欲しい。


「色々と考えてますよー。もちろん農業地域にするのもですしー」

「都市や街をいっぱい作るのとかはどう? 儲かるよ!」


 目を輝かせるミレス。レイラスは俺にチラリと視線を向けたあと。


「ミレスさん、よい考えですがー。それだとエルフの反発が大きすぎますねー。エルフは自然を愛するのでー。人のような街は彼らにとって、唾棄すべきものらしいのですー」

「あー……統治したからって、エルフたちのことを完全無視は無理か……うまくやればすごく儲かりそうなのに」

「残念ながらー。自然と共生できる畑くらいが限度でしょうねー」


 レイラスは笑いながら告げてくる。


 流石はレイラスだ。エルフ公国統治後のことも完璧に考えている。


 アイガーク王はレイラスがやり過ぎると心配していた。俺もちょっと気になっていたが……あのオッサンが心配しすぎただけだったな。


 やはり彼女は優しい人だ。滅茶苦茶なことはしない。


「ところでエルフの切り札に関しては、なんとかなりそうなの?」

「私も気になってたです!」


 ミレスとメイルが食い気味に聞いて来る。きっと俺達を心配してくれているのだろう。


「ドリルゴーレムで地中から攻める。風である以上、どれだけ強くても地中には無力だ」

「うわぁ……また頓珍漢なものを作ったんだねぇ……」

「いつものことなのです」

「待て。その流れだと俺が頓珍漢なことに」

「ベギラ、貴方は予想できないのでいつも大変ですよー」

「レイラス! そこは否定するところだろ!」


 まったく誰が頓珍漢だ! 


「俺はもっとこう……ゴーレムの天才とか呼ばれたいのに!」

「奇才か変態の間違いなのです」

「そっちは師匠に譲ろう」


 俺がゴーレム魔法の天才ならば、師匠はもはや人の言葉で言い表せる限界を超えている。ゴーレム魔法の救世主にしてパイオニア、失った技術を取り戻した伝説。


 もはや天が与えた才程度では成し得ぬことを、現実に成し遂げているのだ。俺はその技術のおこぼれに預かったに過ぎない。


「しかしエルフも可哀そうにな」

「なにがです?」

「師匠が生まれてしまったことが」


 エルフたちからすれば上手くゴーレム技術を失わせていたのだ。


 それを稀代の奇才が一人生まれてしまったせいで、すべて虚無にされているのだから。正直理不尽さを感じていると予想する。


 まさに師匠はレーリア国の救世主にして、エルフ公国にとっての死神だろうな。本人はゴーレムに本当の意味で身命を注いだのだが。


「ふふふ、確かにそうですねー。エルフにとって計算外だったでしょうねー。ちなみに私も日々計算を狂わされているのですがー。まさか私が貴族以外と結婚するなんて、数年前には思いもしませんでしたー」

「計算は外れるものだしな。いくらレイラスでも未来を見通すまでは無理だろ?」

「そうですねー。でも……私は計算が外れてうれしいと思ってますよー? おかげで私はいまここにいますのでー」


 レイラスはほのかに微笑んだ。それがすごく可愛い。


「じゃあそろそろお開きにしましょうかー。明日は出陣ですのでー。しっかりと寝てくださいねー」


 名残惜しそうに告げてくるレイラス。確かに明日から大変なので、今日はあまり夜更かしはできない。


「そうだな。寝不足で倒れたら困るし」


 こうして晩餐は終了した。またエルフ公国に勝利したら、この四人で仲良く食べたいな。


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師匠「(´・ω・`)」

食べられないからね、仕方ないね。

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