第160話 民の視線
レーリア国の王都の路地。そこでは民たちが不安そうに話をしていた。
「続々と物資が王都に集まってるそうよ。ゴーレム馬車や荷台ゴーレムが毎日動き回ってるって」
「積み荷はおそらくパンなど。つまり戦争が始まるってことか」
兵糧。それは軍を率いるのに必須のもの。
兵糧なくしてはどんな大軍も戦に勝つことはできない。むしろ大軍を率いるには大量の兵糧を用意する力がいる、と言った方がよいかもしれない。
国にどれだけの人口がいようとも、兵隊がいようとも、兵糧が不足していては戦わせられない。
逆に言えば兵糧の集約具合を見れば、いつどれだけの軍を率いるつもりかがある程度予想できる。
「それがな。なんかすさまじい量を王都に集めてるらしいぞ。いくら大量の兵士を集めるとしても、隣国のエルフを攻めるだけとは思えないほどに」
「でもエルフ国への反撃をするんでしょう? レイラス陛下はそう仰っていたはず」
レイラスはすでに国民に布告をしていた。
それはエルフがレーリア国に頻繁にちょっかいを出し、かつ攻め滅ぼそうとしているということを。そしてレーリア国はエルフ国に反撃を行うと。
この反撃というのが肝だ。相手から攻めてきたのでこちらは仕方なく反撃、つまり義はこちらにあるというアピール。レーリア国の民たちに告げているのだ、自分達は正義であると。
「正直、ゴーレム荷台と馬車のせいで物資の量が読めないんだよな」
「確かにな。あれだけ高速で動くとなると、元来の戦の準備とは全然違うもんな」
「大量に集めてる、くらいしか分からんよ」
そしてレーリア国はゴーレム荷台たちの力によって、これまでよりも遥かに多くの物資を集めることに成功していた。さらに本来なら物資の類は軍に帯同させるのだがそれも不要。
必要な量だけ王都から都度運べばよい。しかも高速で動くゴーレムなので妨害も難しく護衛もいらない。
つまり軍の物資運搬時の護衛要員が不要になる。それだけでも兵糧がかなり浮く、その上でこれまでに見ない量の物資を集約しているのだ。
「まさかレイラス様、エルフ国以外にも攻めたりして」
「ははは、流石にそれはないだろ。攻める大義もないし」
「エルフに絶対に勝つために、集められるだけ兵を集めてるんだろうな。他国に対してのレーリア国の力を誇示できるし」
レーリア国はもはや超強大な国家になっていたのだ。経済も軍事もゴーレム魔法の発展によって、著しい進化を遂げていた。周辺国家を同時に相手にしても負けないほどに。
「なんにしてもだ。レイラス様だからきっとレーリア国をよく導いてくれるさ」
「そうだな。あのお方ならば間違いない!」
民たちはレイラスを信用していて、また彼女もそれに裏切らずに答える。ただしひとつだけ付け加えるとしたら――レーリア国にとってはよいことを引き起こすのだが。
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アイガーク王は自国の王城に戻ったあと、玉座に座って手紙を読んでいた。
「やっぱりこうなるか。嬉しさ半分、悲しさ半分か」
「いったいどのような内容が……」
玉座の側に立つ側近の男が口を開く。たいしてアイガーク王はニヤリと笑うと。
「エルフ公国を滅ぼしたあと、アイガーク国も西側の諸国に攻めていけと。滅ぼした国は切り取り次第で、俺らのモノにしていいとさ。従属してる国家に随分とサービスしてくれるなぁおい。心が躍るぜ」
「よい話ですが……その割には機嫌が悪そうですが」
言葉に比べてしかめっ面のアイガーク王に、側近の男は訝し気な顔をする。
アイガーク王は戦いが好きな男だ。レイラスの申し出に対してはむしろ嬉々として攻め込みそう。なんなら指示がなくても隙をついて侵略を仕掛けそうなものだ。
「……あいつの狙いは簡単だ。レーリア国が敵国を攻めて疲弊したときに、俺らの軍を万全な状態にしておきたくねぇんだよ」
「なるほど。エルフ国に仕掛けて大きな被害を受けたあと、我らが勝てると踏んで攻めてきたら困ると」
「いや違う。あいつはエルフ国だけを見てねぇ」
「…………まさか」
側近の男は顔を青くし、アイガーク王はそれにうなずいた。
「な、なんと……!? レーリア王は侵略によって、この大陸を掌握するおつもりなのか!?」
「全てを滅ぼしはしないだろうが、見せしめにいくつもの国を滅ぼすだろうなぁ」
「バカな!? レーリア王は慈愛に満ちたお方だと評判で……」
「満ちてるぜ。大陸の大半をレーリア国が掌握すれば、もう誰も逆らえなくなる。つまり今後はもう戦が起きないからな」
アイガーク王は小さく笑った。だがその目だけは違う感情を宿している。
彼からすればレイラスの行動は読めていて、だからこそ面白くなかった。
(レーリア国のゴーレム技術が最も突出している時、それは間違いなく今この時だ。他ならぬあいつがゴーレムの通用性を示し過ぎた。今後は他の国も研究して、差は無くなっていく可能性が高い)
つまらなさそうな顔をするアイガーク王。彼の胸中にあるのは、レイラスへの哀れみだった。
「大陸の覇王になるか。やれやれ……お前にそこまでの器はねぇだろうに。過ぎた水を器にいれたら、漏れて酷い目に合うぜ」
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敵を全て滅ぼせば平和になる理論。
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