第159話 周辺諸国の葛藤
レーリア国の急激な強国化は他国からすれば脅威の的だった。
いままで無能王家で楽勝だと思っていた国が、僅か数年で自らを平らげるほどにまで発展したのだ。恐れないわけがない。
ましてやレーリア国のトップはレイラス。彼女が手心を加えない厳しい者であるのは、当然ながら知れ渡っている。
レーリア国は強くなりすぎてしまったのだ。周辺国家が手を組んで対抗を考えるほどに。
レーリア国の東側に位置する国の王たちが、とある密閉された場所で会談を行うくらいには。三人の男たちが狭いが豪華な装飾のある部屋で、椅子に背を預けて相談を行っていた。
そう王たちが直々に話し合っているのだ。本来ならば暗殺などの危険もあり、そうそうあり得ない。相当の大事であろうとも片側は有力者を代表にすべきだろう。
だがもはやこれは相当の大事以上であった。彼らがどれだけエルフ公国とレーリア国について、警戒しているかが見て取れる。
「レーリア国をこのままのさばらせては、必ずや我らに牙を剥く。そうエルフ公国からの手紙が着た」
「ふん、そんなこと言われずとも分かっておる。奴らは自分らに援軍を欲しているだけだ」
「だがそれを理解した上でも、エルフ公国に支援を送るという案はアリだ」
王たちはグラスに入った水で喉を潤しながら、さらに口論を続けて行く。
「しかしレーリア国が勝利したとき、エルフ公国に支援していたら言い訳が効かぬ。あの女帝なら我ら王族を一族郎党滅ぼしかねんぞ」
「確かにそうだが……ここで戦力を出し惜しんで、エルフが負けたらレーリア国の覇権が決まるぞ」
「ならばやはりエルフの提案通り、表立っての支援はなしでどうですかな? 在野の者から選りすぐりを集めて、エルフが雇ったことにして派兵する」
各国の王たちの本音は簡単だ。リスクは負いたくない、でもレーリア国の不利になることはしたい。
なのでエルフの女王はその心理をついて、エルフが各国の強者を雇うことの許可を求めたのだ。これならば各国は言い訳ができる。
――エルフが勝手にしたことであり、我らはそれに気づけなかった。レーリア国とてエルフの間諜を完全には防げていないだろう、と。
「それが無難でしょうな。派兵した者たちもずっとエルフ国に居つきはしないだろう」
「エルフ公国では傭兵の仕事はないですからな」
「侵略欲のない国というのはありがたい」
エルフ公国はゴーレム魔法の理由以外では攻めてこない。それは長い歴史が証明していた、だからこそ彼らもそれだけは安心しきっている。
なのでエルフ公国がレーリア国に勝てば、危険がなくなって万々歳というわけだ。いやむしろボロボロになったレーリアの国土を奪える可能性まである。
「しかし……ゴーレム魔法。まさかここまで恐ろしい存在だったとはな」
「うむ。あれは危険だ」
「そうだな。捨てるべき技術だ」
ここまではエルフにとって望ましい結果だ。
王たちはそれぞれ頷く。だがそれぞれ似た思惑を持っていた。
(内密に研究しておかねば、いずれ我が国が不利になるやもしれん)
(エルフ公国がレーリア国に勝ったとしてもだ。もし苦戦するようならば、我が国でも秘密裡に研究を考慮せねば)
(エルフ公国に攻められるリスクと、ゴーレム技術を得るメリット。さてどちらのほうが大きいか……?)
エルフたちはレーリア国に完勝せねばならない。
そうでなければゴーレム技術の有用性を自ら示すことになりかねない。つまり結局ゴーレム魔法の歯止めが効かなくなるのだから。
だからこそ女王はレーリア国を滅ぼし、ゴーレム魔法使いは全員凄惨に皆殺すと決めている。そうすることで世界に見せしめなければ、もはやゴーレム魔法が広まるのは止まらない。
レーリア国にとってもエルフ公国にとっても、次の戦は絶対に負けられない。負ければ終わり、次はない。
「さあエルフ公国のために力を貸さなくてはな」
「レーリア国に言い訳がつく程度にしておけよ」
「さもありなん。しかしどちらが勝つのか、今回ばかりは予想がつかんな」
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「……三国会談が行われたそうです。おそらく、エルフへの支援かと」
「そうですかー。ありがとうございますー」
レイラス屋敷執務室。そこでメフィラスがレイラスに、秘密裡に三国の会談が行われたことを報告していた。
いくらコッソリと行おうとも、間者を完全にシャットダウンすることは難しい。三国での話し合いがあったことはとても隠せるものではないからだ。
どうしてもメイドや従者などから漏れてしまう。
「すべて私の予想通りにコトが進んでますねー。三国がエルフに協力した証拠を用意しなさい。ああ、言い間違えましたー。作り出しなさいー」
「ははっ」
「おそらく三国はー、我々がエルフ公国を統治するためー、余裕がないと考えているのでしょうねー」
三国の王に計算外があるとすれば、レイラスを甘く見たことだろう。
エルフ公国に勝ったならばもはやレーリア国は覇権を握る。そのあと三国の王は従属を申し出るつもりで、普通ならばそれが認められるだろうと踏んでいた。
三国を無理やり潰しても統治が難しく、またレーリアはエルフ公国の支配もあるのだから無理だろうと。そんな中で表立っては逆らってない国を、わざわざ敵に回す愚は犯さぬと。
だがレイラスは敵対者を許さない。邪魔をしてきた国を見逃すほど、彼女は甘くはなかった。
「甘く見られたものですね、私も」
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