第157話 まだいたのか


「エルフとレーリア国の因縁かぁ……俺は巻き込まれただけじゃねぇか!?」


 ライラス領の屋敷で借りた一室で、アイガーク王はベッドに寝転がって叫んでいた。


 彼は気づいてしまったのだ。アイガーク国はエルフとの関わり合いがないことに。


「かーっ……レーリア国が負けたら、エルフとはことを構えないようにするかぁ。流石にあいつらを相手にするのは割に合わん」


 彼はアイガークの王であり、レーリア国の関係者ではない。


 アイガーク国はレーリア国に従属しているので、ある程度の協力は惜しまない。だがある程度以上は惜しむ。


 レーリア国が亡ぶのならば、即座に切り捨てるくらいは平気でやる。それができずに泥船と一緒に沈むのは王ではない。


「とはいえあの女狐がそうそう負けるとも思えねぇか。だが……ふむ」


 アイガーク王は顎を手で触れて考え始めたあと。


「……少しはアイガーク国に得になるように動くとするかぁ。ずっと従属の関係ってのも困るしな」


 ベッドから勢いよく立ち上がると、ピクピクと耳を動かしながら部屋から出て廊下を歩いていく。


 そうして廊下のなにもない壁を叩く。すると壁がガコンとへこんで、地下室への隠し階段に繋がる部屋が出現した。この隠し壁はゴーレムで造られている。


(やっぱりここかぁ。なんとなく風の音がおかしかったから、空洞っぽいのがあると思ったが)


 アイガーク王はさらに地下へと歩いていく。


 そうしてたどり着いた先は……ゴーレムの研究部屋だった。ベギラと師匠の二人でゴーレムを造っているのを見て、アイガーク王は僅かに笑みを浮かべた。


(ここならあの女狐もやってこないだろ)




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「やはり回転力が……」

『じゃがそれだと硬度が……』

「しかし回転が遅いと……」

「よお。邪魔するぜ」


 師匠とドリルゴーレム改修案を考えていると男の声がする。視線を向けるとアイガーク王がなぜかいた。


 まあいい、誰だろうと答えはひとつだ。


「『邪魔するな帰れ』」

「……俺、これでも一国の王なんだがなぁ」

「『邪魔しないでお帰り遊ばせ』」

「丁寧に言えって意味じゃねぇよ」


 アイガーク王はぼりぼりと顔をかいている。


 わがままだ、流石は王様だな。勝手に俺達の研究室に入ってきておいて偉そうに。


「それで何の用だ? というかここがよくわかったな」

「俺には耳があるからな。しかし仮にもレーリア国の最大機密の技術だろうに、俺が来ても欠片も警戒しねぇな」

『ワシらの技量と技術の両方がなければできぬことばかりじゃ。知識だけでは無理じゃが、盗めるものなら盗んでみよ』

「……技量が必須で技術盗めねぇのタチ悪い」


 アイガーク王は苦虫をかみつぶしたような顔をする。


 師匠の言葉は当然だ。ここはこれでも世界最新鋭のゴーレム魔法研究所である。


 多少覗いた程度で盗めるものなどない。ましてや魔法使いでもないアイガーク王など、いくら見たところで何も得れないだろう。


 いやそこらのゴーレム魔法使いでも、たぶんちんぷんかんぷんで終わると思う。


「チッ、まあいい。ベギラ、お前に言いたいことがあるんだ」

「なんだよ? ゴーレム買いたいならレイラスに相談してくれ」


 俺は以前に口車に乗せられてやらかしたからな。国関係の交易になりかねないので、俺個人だけで判断は危険だ。迂闊に言質は取らせない!


「いやそうじゃねぇ。俺はお前を買っている。だから少しだけ助言しておいてやろう」

「助言?」

「そうだ。俺は以前にお前とレイラスは相性がよいと思った。互いにないものを持っているとな。だからお前はあの女狐をフォローしてやれ」

「なにを言ってるんだ、またふざけて……」


 茶化そうとしてやめた。アイガーク王は真剣な顔でこちらを睨んできている。


 普段とは違って王の風貌を醸し出していた。


「あの女狐は合理的で厳し過ぎる、自他ともにな。凄まじく有能なくせに、驚くほどに不器用な奴だ。だからお前みたいな奴が支えてやらないと……いつかへし折れるぞ」

「レイラスが折れるイメージはつかないけどな」

「そうだな、あくまで比喩だ。だがあいつはおそらくやり過ぎる、だからお前が止めてやれ。俺の予想が正しければあいつは……」


 アイガーク王は少し逡巡したあと、おちゃらけた笑い顔になってしまった。


「ダメだな。これ以上言ったら国際問題に発展しかねん」

「ここまで意味深なら最後まで言えよ!? 気になるだろ!?」

「いーやダメだ! これ以上はマジでアイガークとレーリアの関係に関わる! そもそもだ! これでも大サービスだぞぼけ! 俺からすれば言わないほうが都合がよいんだからな!」


 普段のように高らかに笑うアイガーク王。


 さっきまでの威厳は完全に消え去って、そこらの荒くれ者にしか見えなくなってしまった!?


「いいか! エルフどもに絶対に勝てよ! お前らがあいつらに負けたら、俺の立場も微妙になってくるからな! なんであんな弱い国に従属したんだってな!」

「誰が負けるかよ! エルフには絶対に勝つ!」

「任せたぞ! ついでにゴーレムの技術よこせ!」

「断る!」


 こうして何故かやって来たアイガーク王と、しばらく口論をすることになってしまった。


 こいつはいったい何のためにやって来たんだ……。


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