第156話 試しにドリル
レイラスにエルフ有能説を伝えた翌日。俺はふたたび屋敷の地下室で、師匠とフレイアを呼んで話し合っていた。
「やはりドリルゴーレムの肝は高速回転、それとドリル部分の丈夫さです。そこをより強化して地中を自在に動けるようにしたい」
エルフはゴーレム魔法使いとその関係者、全員の抹殺を狙っているのだ。万が一にも絶対に負けるわけにはいかない。
なので負ける可能性を失くすために、ゴーレムをさらに強化したい。
『ふぅむ。やはりまずはひとつ造ってみるべきじゃな。ワシらはドリルのことを伝聞でしか聞いておらん』
「わ、私もそこまでイメージがついてなくて……」
「確かにそうですね。じゃあ試しに製造してみます」
俺は師匠とフレイアの言葉にうなずいたあと、魔力を圧縮してゴーレムコアを作成した。とりあえずの見本なので寿命は五分程度でよいだろう。
「よし。おりゃ!」
室内のゴーレム用の土山や岩の素材置き場ににコアを投げた。だが、
「きゃあっ!?」
「あっごめん!?」
クソコントロールで山の隣にいたフレイアに当ててしまった。なんで俺の制球力はこんなにひどいのだろうか……。そう思いながら地面に転がったコアを拾って、今度は山に手で埋めた。
土が光って形状を変化させていき、人型へと変わっていく。ただし右腕だけが尖った円形岩の三角錐――ドリルの形状であった。
もはやいまの俺ならば、ゴーレムをあっさり造るのくらいはわけはない。昔ならこのゴーレムを作成するまでに、二週間はかかっていただろうが。
俺も成長してるんだなぁ……おっといかんいかん。
「ゴーレム、地面に向けてドリルを回転させろ!」
俺の命令に従って土ゴーレムは右腕のドリルを回転させる。ガガガガと音がして、岩床に少し穴があいた。岩のドリルなので鉄に比べて性能は低いが、あくまでイメージを教えるだけなのでこれでよいだろう。
「ほほう。とがった先端を回転させることで、削り取っていくみたいな感じかのう」
「み、耳が痛いです……」
師匠が感心しながら観察して、フレイアは耳を抑えている。削り取る感じの音ってなんか嫌だよな、わかる。
「えっと。このドリルって武器なんですか?」
「えーっとだな。基本は地面を掘るためのものではあるが、武器としてもかなり強いと思う」
フレイアの疑問に答える。ドリルはロマン武装というが、それは銃や大砲があるのが前提の話だろう。
剣よりは強いだろうから、剣や槍が主武装の世界ならすごく実用的な武器になり得る。つまりドリルゴーレムは普通に戦っても強い可能性がある。
というか間違いなく強い。ドリルを下手に剣や盾で受けても、回転で弾き飛ばされる恐れもあるし。
『ふむ。音じゃな』
「そうですね。この音がうるさいのがネックです」
岩盤とかホルトドリルの音の存在感が強すぎて、不意打ちなどが難しいんだよな。
『いやそうではない。ワシはこの音を強化するべきと思っておる』
「ええええぇぇぇ!? こ、こんな嫌な音を大きくしてどうするんですか!?」
悲鳴をあげるフレイア。ドリル音が想像以上にお気に召さなかったようだ。
しかし……なるほど。なんとなく師匠の言いたいことがわかったぞ。
「音で敵を威圧するってことですね?」
『そうじゃ。戦場では相手を驚かせて、ビビらせれば勝ちじゃからな』
銃は発砲時の音までもが、敵を威圧する武器になったと聞く。つまりドリルの回転で発生する音も、奇怪なノイズとして相手に恐怖を与えるかもしれない。
なんとも言えない嫌な音だしな、あの削り取る音。
『やはりこのドリルを大きくすれば、音も大きくなるのかのう』
「なるとは思いますが、戦場中に響かせるとなるとなかなか。削る用の物も用意する必要が」
「あの……ドリルゴーレムが多くいたらそれだけでうるさいと思います……」
『「それだ」』
ドリルの数を揃えればきっとうるさいだろう。楽器だっていっぱいあったほうが音が大きくなるし。大きな鉄板でも用意させて、削らせればいいだろ。
結論、数を増やすなので特に工夫は必要ないが。
「とりあえずボディは鉄で造りましょう。やはり鉄です」
『一部は岩にするべきじゃ。その方が軽くて量産が効く』
「でもエルフは風攻撃ですよね? 風をぶつけられる可能性を考慮して、重くした方がよいのでは?」
ドリルゴーレムで地中から攻める予定だが、地上に出ればエルフとの交戦になる。その時は風魔法を使ってくるだろうから、ある程度の対策は必要だ。
『しかし重いと量産が難しいぞ。ましてや巨人ゴーレムも造るとなるとのう』
「風に飛ばされにくい仕組みを造るとか……? 具体的な案は思いつきませんけどっ」
フレイアの言葉に少し思考が引っ張られる。
風に飛ばされにくい仕組み……衣服なら洗濯バサミとかだけどなぁ。ゴーレムにハンガーなんてつけたところでだし。
いや待て。ハンガーは無理だが……アンカーならいけるのでは!?
風魔法撃たれた時にアンカーを地面に刺せば、元々の重さも含めてかなり吹き飛ばされにくくなるはず!
「よしその案採用! あとはそうだな。相手が風魔法を使いづらくする仕組みも考えよう」
こうして俺達はドリルゴーレムを考案していくのだった。
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キュイイイン(幻聴
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