第155話 違和感
レイラスに巨人ゴーレムなどをお願いされてから二ヶ月が経った。
俺は屋敷地下室――師匠の作業部屋(元処刑部屋)でゴーレムを造っていると。
『うーむ。解せぬ』
師匠が立ちながら腕を組んで何やら悩んでいた。そ、そんなバカな……!??
「し、師匠!? 作業部屋にいてゴーレムを造らないなんてどうしたんですか!? とうとう頭までゴーレムに!?」
『ちがわい! いやエルフについて少しな……奴ら、本当にバカなのか?』
「散々バカを披露してきたじゃないですか」
エルフたちはバカである。
散々俺達の暗殺などに失敗しているし、人を見下す酷い奴らだ。それは師匠も見てきたはずなのだが。
『うむ。ワシもたしかに見てきた。じゃがなぁ……エルフって長い歴史を持つ小国じゃろ? あそこまでバカじゃとな、いくら個が優秀でもとっくに滅んでいると思うのじゃが。なのに周辺諸国に恐れられておる』
「なんか運よくやってきたんじゃないですか?」
『ワシも最初はそう思ったのじゃがな。エルフ国は周辺諸国から過剰に恐れられてるじゃろ? そんな立ち回りを、バカがやれるかと思ってのう。運だけで長き時を生き残れるかのう』
師匠はどうやらエルフ有能説を提唱しているようだ。
確かに言わんとしていることはわかる。小国が生き残るのは難しいのは世の常だ。
よほどうまく立ち回らなければいずれは他の国に飲み込まれる。類まれなる知略をもってなければ……普通は国は滅ぶ。ましてやエルフは代替わりをしないので、あの無能がずっと統治してよく成り立っているなと。
というかあれだけバカでどうやって国を成り立ててるの? と言われると答えづらい。
「……言わんとしていることはわかります。でもエルフたちが無能なのは、嫌というほど見てきたじゃないですか」
『演技という可能性が』
「あれが演技とか、どれだけ名演者なんですか……バカなまま死んだ奴までいるのに」
死してなお演技とかどんな怪演だと思ってしまう。とはいえ……。
「……いやまあ。俺もエルフがここまでバカだと、師匠の言葉にも少し説得力あるなとは思いますけど」
『そうじゃろ? もしや奴らは今までワシらを欺くために、わざとバカなフリをしていたのかと』
「ははは……そんなはずは……念のためにレイラスに言っておきますね」
師匠の意見を否定しきれないのが辛いところだ。
言われてみれば優秀な魔法使いだとしても、五千人程度の国なら滅んでそうだよな。それこそよほどうまく動かないと。じゃあエルフは大うつけと言われた織田信長みたいにバカな演技を……いや信じがたいな。
まさかとは思うが、万が一があっても困るのでレイラスに伝えておくことにしよう。そう思って地上への階段を登って、屋敷の中へと戻る。
そして執務室に向かうと、彼女は椅子に座って書類仕事をしていた。
「おやー? ベギラ、どうかしましたかー?」
レイラスは仕事の手を止めて、いつものように笑いかけてくる。相変わらず可愛い。
「ああ、いや。ちょっとだけ、こうちょっとだけ。ぶっちゃけほぼ妄想というか、あり得ない可能性に近いんだけど」
ヤバイ。実際に報告しようとすると、ものすごく荒唐無稽な話にしか思えなくなってきた。やっぱり言うのやめたくなってきた。
「随分と前振りが長いですねー、なんですかー?」
「冗談半分で聞いてくれ。エルフたちがもしかしたら、頭がよいかもしれない」
俺はレイラスにたいして、さっきの師匠との話をすべて伝えた。
エルフがいくらなんでもバカすぎて違和感があること。彼らの国としての生き残り戦術はかなり上手なことなどだ。
「……なるほどー。話はわかりましたー」
「ま、まあバカげた話の可能性は高いだろうけど……」
「そうですねー。もしこの話が本当ならー、エルフは私たちをずっと欺くほどの恐ろしい知謀を持ってることになりますねー」
レイラスの声が間延びしている。つまりこの話を真面目に聞いておらず、あり得ないと考えているのだろう。
そうだよな……うん、そうだよな。冷静に考えればエルフが実は知将でした! なんてそんなバカなことあってたまるか。
「いや悪かったよ、レイラス。こんなくだらない話をしてしまって」
「いえいえー。大変面白い話でしたよー。またなにか思いついたらお願いしますー」
俺は執務室から出て行くのだった。さてゴーレムを造らないとな。
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ベギラが去ったあとの執務室では、レイラスが真剣な顔で思案していた。
「……考慮しなかったわけではありませんよ。ですがベギラ、わかっているのですか? エルフがもし本当にそこまで優秀ならより……」
暗い顔でため息をついたあと、レイラスは小さく呪文を唱えた。
「メフィラス、調べて欲しいことがあります。いままで捕縛したエルフの年齢を確認して欲しいのです。正確な年齢ではなくて大雑把で構いません」
風の魔法でメフィラスに伝言を送ったあと、彼女は椅子から立ち上がる。
「ベギラ。私はこの戦いが終わったあと、貴方に嫌われるのかもしれませんね……あれだけ望まれていたのに、抱いてもらえなくなるほどに」
ほんの少しだけ辛そうな表情を見せたが、すぐに無表情へと戻った。
「ですが絶対にやらねばなりません。私は王として、私心を抜きにしても民のために動かなければ」
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