第154話 潜る


 アイガーク王が帰還したあと、俺は私室に戻って師匠と相談をしていた。


「なのでエルフには絶対に勝たないとダメなんです」

『そうか。ゴーレム魔法を皆殺すと……あんの耳長どもめが! 絶対許さん!』


 師匠は激怒して咆哮している。


 当然だ、彼はゴーレムに文字通りに全てを捧げた賢者。ゴーレム魔法の発展を願う者なのだから。


「幸いにもゴーレムがエルフの天敵なのは変わりません。奴らが風の障壁なりを張っても、防げないゴーレムを造ればよいのです」

『ふむ、たしかにその通りじゃな。そこまで明言するということはすでに案があるのじゃろう?』

「ええ」


 流石は師匠だ。俺のことをすごくわかっている。


 アイガーク王の言葉を信じるならば、エルフの切り札とやらはゴーレムをも吹き飛ばす。吹き飛ばされたゴーレムがどんな種類か分からない、土ゴーレム五百体くらいなら大した脅威ではない。


 だがどれほど強いかは分からないが用心にこしたことはない。負けたら終わりなのだから。確実に言えることはエルフは風使いであることだ。ならば……。


「地中を掘りすすむゴーレムを作成します。それでエルフの風の障壁を無視して、直接エルフに襲い掛からせます」


 地中から攻めればよいのだ。どれだけ強風を地上で吹きあらしたとしても、地下までは行き届かせることは無理だろう。


 そうしてエルフたちにゴーレムを肉薄させれば、あとは蹂躙できるはずだ。奴らの風魔法が強大ならばこそ、自分達のすぐそばでの発動はできないはずだ。エルフ自身が吹き飛ばされてしまうからな。


 かといって弱い風魔法ならばゴーレムには効果がない。


『地中か。たしかに風相手ならばよい策じゃな。しかしどうやって地面を掘る?』

「回転技術を使えば高速で地中を掘れる手段があるんですよ。ドリルって言うんですけどね……」


 地中を高速回転して移動できる掘削機。そう、ドリルである。男のロマンである。


 師匠と俺は車輪を回転させて移動するゴーレムも作成できるのだ。ならば車輪をドリルに変えれば……というわけだ。


 ドリルについて簡単に説明すると、師匠は面白そうに手を叩いた。


『ほほう、面白い考えじゃな。ゴーレムが地中からいきなり出てくるとなれば驚くじゃろうな』

「ええ。実は昔にも地中からの不意打ちはやったことがあるんですよ。前回はゴーレムを地中に埋めて、待ち伏せさせただけですがその時も効果てきめんでした」


 俺が成り上がるきっかけとなった戦。アイガーク国に対する防衛戦の話だ。


 あの時はゴーレムを地中に埋めて、敵をおびき寄せてから地上に出現させて包囲したのだ。十面埋没の計だったな。


 今回は前よりもさらに発展形だ。ゴーレムを地中で移動させて、むしろこちらから敵の足もとに向かうのだから。待ち伏せする必要がないのが大きい。待ち伏せはどうしても敵の動きありきの受け身になってしまうからな。


『ふむ。じゃがドリルゴーレムを作成できるのは、ワシとお主だけじゃのう。あまり数は用意できぬが』

「そこはちょっとネックですが……エルフの数を減らしてしまえば、風魔法も弱体化するので」


 奴らの切り札の風魔法はおそらく、発動者全員の力を合わせるもの。ならば発動できるエルフの数が減れば弱くなるはずだ。


 それに数を減らさなくても、奴らを混乱させるだけで魔法の維持は難しくなる。完璧な策だと思っていると、扉がコンコンとノックされた。


「ベギラー、入ってもよいですかー?」


 レイラスの声だ。いったいどうしたのだろうか。


「いいぞ」


 返事をすると扉が開いて、レイラスが入ってきた。


「何の用だ?」

「お願いがあるのですー。実はエルフと戦う時に、巨人ゴーレムが欲しいのですー」


 レイラスは可愛く笑いながらお願いして来る。


 巨人ゴーレムは俺がスクラプ領を乗っ取ったり、王都攻略で用意したやつだ。


「巨人ゴーレム? でもあれは準備するのにかなり魔力がいるんだよな。それよりも地中を移動するドリルゴーレムを考えてな……」


 俺はレイラスにドリルゴーレムの概要を説明する。彼女は聞き終えたあとに小さくうなずいた。


「なるほどー。それはよいですねー。以前に貴方が手柄を立てた策ですかー」

「ああ、効果のほども信用できる。だから巨人ゴーレムを用意する魔力で、ドリルゴーレムをその分造った方が」

「素晴らしいですねー。ですが巨人ゴーレムが欲しいのですー」

「いやでも」

「欲しいのですー」


 レイラスはじっと俺を見つめてくる。顔は笑っているが目は笑っていない。ダメだ、これは説得が無理なやつー……。


「わ、わかったよ……」

「ありがとうございますー。素晴らしい旦那を持って幸せですー」

「ははは……それならそろそろ抱かせて欲しいんだけど」


 未だにレイラスとは一緒に寝れていないのだ。なんとも歯がゆいことだ。


 まあどうせ今回もはぐらかされるのだろうが……。


「そうですねー……次のエルフの戦いで勝ったら、よいですよ」

「知ってた。いったいいつになったら……えっ?」


 いまなんて言った? いまなんて言った!? よいですよって言わなかったか!?


「よいですよ。エルフに勝った暁には、私を好きにして。エルフを潰せばもう逆らう勢力はいませんからね。なので巨人ゴーレムを絶対に作ってください。」

「よっしゃ任せろ! エルフ絶対ぶっ潰す!」


 よ、よ、よ、よっしゃあああああああ! 絶対に負けられない理由が増えたな!?!?


「あ、それと巨人ゴーレムの命令権は私にください。ベギラよりも私の命令に従うように」

「任せろ!」

『ふぅむ……』


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