第153話 勝たなければ
エルフが五百を超えるゴーレムを打ち破った。
とても信じられない。だってエルフたちはゴーレムにいつも無惨に負けていて、だからこそ俺も正直あいつらのこと怖くなかった。
いざとなればゴーレム大量に並べたら負けない、と確信していたからだ。
だが奴らにゴーレムを倒す術があるならば話は大きく変わる。エルフは人よりも個としては強いのだ。
優秀な風魔法に身体能力は、そこらの人間では歯がたたない。そんなエルフが大軍率いてきたら……もしゴーレムで圧勝できないなら、最悪戦争で負ける恐れまであった。
「書物にこう書いてあったぜ。エルフの軍勢を包み込むように風の防壁が作成される。その風は無敵でレーリア国は王都までエルフに進軍されて、完全降伏せざるを得なかった。あれはもはや災害だと」
「その書物の信ぴょう性は?」
レイラスが真面目な顔で問い詰める。たいしてアイガーク王は腕を組んで悩み始めた。
「……微妙なところだ。俺がこの書物を手に入れたのは最近だからな。なにせお前らみたいに王家がずっと持ってたとかじゃない」
アイガーク王は成り上がりだ。レーリア王家のように歴史がないので、あの書物もアイガーク王が誰かからもらったものに過ぎない。
そもそも古い書物の信ぴょう性の確認など不可能に近いのだ。現代日本ですら未だに新たな文献が出てきて、歴史の通説が変わるくらいだし。
当時の著者も歴史書ではなくて小説に近い形で書いてたりするので、演出を盛ったりとかは容易に想像つく。
「エルフって言えば風魔法だよな。おい女狐、お前は風魔法得意だろ。ゴーレムの大軍を吹っ飛ばす風魔法ってのは可能なのか?」
アイガーク王はレイラスを睨む。たいしてレイラスは少し考え込んだあとに。
「……理屈の上なら可能です。凄まじい技量の風魔法使いが、大軍を率いて巨大竜巻を起こすとか。風魔法はその性質上、うまく合わせればいくらでも大きく強くなります」
「そういえばエルフたちも五人がかりくらいで魔法使ってたな……」
俺達の屋敷に襲撃を仕掛けてきたときも、五人くらいのエルフで竜巻を起こしていたと聞いている。あのときはゴーレム屋敷だったので、屋敷はビクともしなかった。
だがあの風の千倍となると……さすがに厳しそうだな。
「本来ならあり得ないことです。魔法を合わせるというのは簡単なことではありません。ましてやそれを軍規模での連携を行うなど、各国の王宮魔術師レベル……国の最高位の魔法使いを集めても可能かどうか。ですが……」
「エルフは超優秀で、かつ長生きだから可能かもと?」
レイラスは小さく頷いた。
エルフたちは魔法に優れている。そして長寿だ。
それはつまり経験が多いということであり、かつ他のエルフたちとも顔なじみな可能性が高い。息がピッタリな上に超人的な魔法の腕前、そして裏付けされた経験が揃えば……あるいは可能なのかもしれないな。
「理論は分からねぇからどうでもいい。それよりもしエルフ共がその連携ができたら、いったいどれくらいヤバイんだ?」
アイガーク王が不機嫌そうに告げてくる。どうやら彼は魔法のことはさっぱりなようだ。
「文献通りです」
「というと?」
「対策しなければ王都まで巨大な竜巻が進んで、レーリア国は壊滅するでしょう。もはや天災を相手にするようなものですから」
「まじかよ……」
さすがのアイガーク王も目を見開いて驚いている。
それこそハリケーンが大陸を横断するようなものだ。天災相手に逆らうのは本来バカげている。問題はそのハリケーンが意思を持って、俺達を攻撃してくるところだが。
本来ならあり得ない想定。だがレイラスの言葉には納得してしまう。何故なら……。
「……俺はエルフが竜巻を起こせてもおかしくないと思う。レーリア国においてゴーレム魔法が恐ろしく評価が低かった理由。それがエルフに負けたせいだったとしたら納得できる」
そう考えるといままで抱いていた疑問へのピースがはまるのだ。
ゴーレム魔法は優秀にもかかわらず、レーリア国では恐ろしく評価が低かった。いや他国においてもあまり発展していない。まるでなにかの意思が働いているかのように。
その意思がエルフの力だったとするならば納得がいく。ゴーレムを嫌悪するエルフたちが強大な魔法をもって、レーリア国に勝利してゴーレム魔法の技術を棄てさせた。そして他国は次の標的になることを恐れて、ゴーレム魔法を発展させなかった。
レーリア国がゴーレムでエルフに立ち向かったという情報。それもかつてこの国がゴーレム技術を持っていたことになるので、俺の仮説を補強することになるのだ。
「まあな。俺もそう違和感はねぇよ」
「ですね」
アイガーク王もレイラスもうなずいた。
やはり二人とも優秀なようで、すべて言わなくても俺の考えを理解してくれている。
「じゃあついでだから文献の続きをこのまま言うぜ。エルフどもはレーリア国に勝利したあと、レーリア国のゴーレム魔法を滅ぼした。ゴーレム魔法の使い手はもちろん、その一族郎党いやさ知り合いまで全てを殺し尽くしてな」
「……だろうな」
そして発展していたゴーレム魔法を喪失させるのならば、技術者をすべて消すくらいしなければならない。エルフどもからすればゴーレム魔法は、放置しておけば自分の身を亡ぼす種だ。
その再来が起こされようとしている。つまりレーリア国がエルフに負けたら終わりだ。俺だけではなく、メイルもミレスもレイラスもフレイアも、生まれるはずの子も……いや兄貴に両親なども含めて、全員殺される。
エルフのくそ身勝手な理由で、すべてを。
俺の大切な人たちが殺される光景が想像できて、思わず拳を握っていた。
「元から負けるつもりはないが、絶対に負けられない理由ができたな」
あんな奴らに俺のすべてを奪われてたまるか。もう対話なんて不可能なのだから、戦争に勝利するしかないのだ。
負けたら終わりだ。俺達が仮に亡命したとしても、奴らは絶対に追ってくるだろう。ゴーレム魔法を鍛えればどうなるかの見せしめのために……!
必勝する。どんな手段をつかっても必ず。
「……ところで気になるんだが、なんでエルフはレーリア国を統治しなかったんだろう」
「そりゃ簡単だ。あいつら人口、いやエルフ口が少ないからな。五千人じゃ占領できる人員なんていないだろ」
「なるほど、確かにな」
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