第152話 謎


 レーリアに帰還して屋敷に戻った俺達は、すぐに来客に対応することになった。


 急いで応接間に向かうとそこにいたのは。


「よお! 元気にしてたか!」


 上等な上着やズボン、首にはフリルをつけた衣装。正装をしたアイガーク王という奇妙な存在が、椅子に座って俺達を待っていた。


「相変わらず軍人にしか見えませんねー。戦場で剣を振り回すほうがお似合いですよー?」

「うるせぇな。こちとらお前に頼まれた調べもののせいで、危険を察して逃げてきた身だぞ。ちっとはねぎらえ」

「アリガトウゴザイマスー」

「そこまで空虚な礼を聞いたのは初めてだよおい!」


 アイガーク王とレイラスがまた喧嘩し始めてしまった。


 この二人、本当に犬猿の仲なんだよなぁ。肉体派と頭脳派というか、文官と軍人の争いみたいだ。アイガーク王が筋肉やガタイがあって、普通の貴族服なのに軍人に見えてしまうのも原因だが。


「そもそもですー。私たちがエルフに負けたら困るのは、あなたでしょうー? 利害の一致で協力するのですからー、礼を言っただけでも上等でしょうー?」

「チッ、そりゃそうだがよ。お前、絶対友人少ないだろ」

「…………」


 アイガーク王の獰猛な笑みと、レイラスの凍てつくような笑いがぶつかり合う。いつからここは王同士の権力争いの場になったんだ? 応接間が顔合わせて五秒で議会場になったぞ。


 この二人、双方カリスマは持っているのだが方向性が逆だよな……。


 アイガーク王はワイルドで頼りになる魅力、腕力と人柄で引っ張っていくタイプ。対してレイラスは頭のよさなどで、周囲を自由自在に操って結果で魅せる。


 ぶっちゃけこの二人が組むことができれば弱点ないんだけどなぁ……同じ国に生まれなかったのが不幸か。


「いつも自信満々なら、エルフくらい倒してきてほしかったですねー?」

「は? むしろエルフ二人がかり相手に逃げれる奴なんざ、そうそういないだろうが」

「あなたの強みは力だけでしょうー?」

「ぬかせ女狐」

「黙りなさい犬」


 訂正しよう。同じ国に生まれたとしても絶対に組んでないなこれは。


 能力的には完璧な相性だが性格があまりに相性悪すぎる。水と油とはこのことか……そろそろ俺が仲介したほうがよさそうだ。


「それくらいにしておこうぜ。わざわざやって来てくれたんだから、飲みつつ話をするのがよいと思うんだが」

「おっ! わかってるじゃねぇか! 酒がないとうまく喋れねぇからなぁ!」


 アイガーク王が機嫌よさそうに声をあげた。


 こいつは一応は賓客だし食堂でご馳走でも振る舞うべきだろう。忘れがちだがアイガーク『王』である。


「はぁ。仕方ありません、食堂の用意をさせています」

「なんだかんだ言って用意してるじゃねぇか。なに? お前、俺のこと好きなの?」

「……塵芥になりますか?」


 ドスをきかせた声でつぶやくレイラス。彼女の周囲に風が巻き起こり始めて、部屋のカーテンなどが揺れる。


 忘れがちだがレイラスは優れた風魔法使いだ。


「ははは! 風程度で塵芥になんかできるかよ!」

「なら試してみましょうか」

「腹減ったから食堂で飯が食べたいなぁ!」


 俺はなんとか二人の間に入り込んで争いの仲介に成功。無事にアイガーク王を食堂に招待するのだった。なんですぐに一触即発の状態になるんだこの二人は。


 俺達三人は食堂につくと、各自席に座る。俺とレイラスが隣り合って座って、俺たちの正面にアイガーク王が対面する。


「おお、これはよい酒じゃねぇか。冷えてるのがいい」

「ベギラのアイスゴーレムの力ですー」

「いいな、一体くれ。ただで」

「三十年後なら考えますよー?」

「いや喧嘩しなくていいから本題に進もう?」


 このままレイラスとアイガーク王の口争いを見ても、いつもと違う嫁の目新しさしか見えない。それはそれで嫌いじゃないけど。


「あー、まあそろそろいいだろ。これだけくだらねぇ口争いしてれば、まさか重要な話してるとは誰も思わねぇだろうし」

「ですねー。間者が屋敷のメイドなどに尋ねて情報収集してもー、私たちは仲が悪くて同盟に亀裂がーみたいな話になるでしょうー」


 ……いままでの喧嘩、演技だったのか。


 情報収集されるのを前提で喧嘩するなんて、やはりこの二人はちゃんと王様をやっている。


「でもさっきの全部本音だけどな!」

「奇遇ですねー、私もですー」

「「ははは」」


 笑顔をぶつける二人だが目が笑ってない。前言撤回、絶対に演技じゃない。


「それで本題だ。城の古い文献を確認してたらよ。レーリア国とエルフの戦いの一部始終が記されていた。端的に言うとレーリア国の軍が惨敗したようだ」

「そうでしょうねー。そんな予想はしていました。肝心なのは何故惨敗したかです。私の予想ではその時点ならレーリア国が勝てそうなので」

「過去ならレーリア国が勝てるってなんでそう思うんだ?」


 よくわからない。なんで昔ならレーリア国が勝てるのだろうか。


 エルフはあれでも強い種族だ。個人の質が極めて高い上に風魔法まで扱える。それが集団でやってくるとなれば、兵士が吹き飛ばされて負けても全然おかしくないと思うのだが。


「レーリア国のゴーレム技術が失われたのは、おそらくエルフに敗北したからです。なら逆に言えば負けるまではゴーレムを扱っていたはず。ゴーレムならエルフに勝てる」

「あっ、確かに……」


 ゴーレム魔法はエルフにとって天敵だ。


 風魔法でいくら表面を切り裂いても出血しないのでダメージにならず、彼らの得意武器であるナイフや弓では決して倒せない。


 エルフの強みがすべて消されてしまうのだから。ここまでメタと言える関係はなかなかない。


「それでな。女狐の予想は当たっていた。レーリア国はゴーレム兵を扱っていた」

「なら勝てるはずじゃないのか? エルフはゴーレムに勝てないし」


 エルフはゴーレムに勝てない。それはこれまでのエルフの醜態が証明している。


 だがアイガーク王は首を横に振った。


「その上で文献を見たかぎりだと、エルフはゴーレムたちを打ち破っているぜ。しかも五百を超えるゴーレムをな」

「なっ……」

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