第149話 嫌な予感
エルフたちを撃墜した翌日。俺と師匠はツェペリア領主屋敷の個室で、レイラスと話をしていた。
「エルフを撃退しましたか。流石はベギラですー」
「エルフが油断していたのも大きかったけどな」
エルフたちは飛行できるのは自分達だけだと思っていたのだ。
だからこそあっさりと空を飛んだので簡単に撃墜できたが、今後は迂闊には飛ばなくなる気がする。相手から飛行という移動手段を制限しただけでもすごく大きいが。
「さてベギラ、それにベギラの師様。今日は内密のお話があります。部屋の外には見張りを置いてますので、漏れる心配はないですが小声で話してください」
「内密?」
レイラスは真剣な顔でうなずいた後、小さい声でつぶやきはじめた。
「率直に言います。エルフと戦を仕掛けて勝てると思いますか?」
「あー……個人戦ならフルボッコだけど、戦争となるとどうだろ……」
俺達はエルフを現状だとフルボッコにしている。
だがそれはあくまで少数での戦いであって、軍を率いての戦争ではない。俺や師匠は自分で言うのもなんだが優秀なゴーレム魔法使いなので、エルフ相手でも圧勝は出来ている。
しかし戦争となると話は別だ。俺達が相手できるエルフの数は、せいぜい百や千程度だ。エルフ国の戦力は四千以上はあるわけで、しかも忘れがちだがあいつらは全員が優秀な戦士兼魔法使いだ。
一般兵同士の戦いとなればエルフが圧勝してしまう。もちろん俺達も戦争となればゴーレムを用意するが、その数にも限りがあるのだから。
『ワシ個人の予想に過ぎぬことじゃが、エルフはなにか切り札を持っているように思える』
師匠が腕を組んでいる。切り札?
「……貴方もそうお考えですか?」
『うむ』
「え? どういうことですか?」
俺には二人の考えがよく分からない。なんでエルフが切り札を持っていると予想しているんだ?
「エルフ国はすごく少数の国家です。いくら個人個人が優れていたとしても、普通に考えればとっくの昔に滅んでいると思います。ですがいままで存続している」
『であればなにかあるのではと思うのじゃよ』
「二人の言うことはなんとなくはわかりますが、あまりに悪く考えすぎな気も」
たしかにエルフが本当にバカで弱いなら、とっくの昔にあの国は滅んでいただろう。だがだからと言って、そんな状況証拠だけでエルフを過剰評価も違う気がする。
「もちろん予想だけではありません。実は王家が保管していた書庫の本にとある記載がありました。過去のレーリア国がエルフ国に負けたと」
レイラスはため息をついた。少し困ったような顔がなんか色っぽいのだが。
王家が保管していた書庫に関しては、俺達が勝利したあとに色々と書物を確認していたのだろう。
「え? そうなのか? でもそんな話なんて聞いたことがないけど」
レーリア国がエルフ国に負けた歴史なんて初耳だ。すくなくとも俺は聞いたことがないのだが……。
「数百年前のことらしいです。それとエルフ国がレーリア国の占領をした、などはないようです。小規模の小競り合いのあと、レーリア国が降伏したらしいので。負けたことが国民に知れ渡らなかったのかもです」
「いやそれもおかしくないか? 小規模の小競り合いだけして、国が降伏するなんて思えないけど」
仮にも国同士の戦だ。小規模の衝突なら和睦はあっても、それで降伏はさすがにないだろ。
レイラスは俺の言葉に小さくうなずいた。
「私もおかしいと思っています。その書物が大嘘を記載しているならよいです。ですが……そのときの降伏を認める条件が少々気になりまして」
「条件?」
珍しく端切れの悪い言葉のレイラスに問いかける。降伏を認める条件と言われると、例えば賠償金とかが思いつく。無条件降伏とかもあるがあり得ないだろうし。
「えっとですね。降伏の条件がですね。ゴーレム魔法の放棄だったのです。レーリア国は金輪際、ゴーレム魔法の研究を行わないようにと」
俺はその言葉に眉をひそめる。ゴーレム魔法の放棄だと?
……たしかにレーリア国は不自然にゴーレム魔法の技術がなかった。俺が弟子になるまでは冗談抜きで、ゴーレム魔法を使えるのは師匠だけだった可能性が高い。
しかもゴーレム魔法は国にとって最低最悪、役に立たないということで有名だった。実際はすごく便利な魔法なのにも関わらずだ。
俺が少ない魔力で造れるゴーレムコアを発明したのもあるが、それを除いてもゴーレム魔法は決して役立たずとは言えなかった。それが不自然とは考えていたが……。
「レーリア国のゴーレム魔法が死んでいたのは、エルフのせいだと?」
「あくまで可能性の話です。古すぎる文献ですし、王家が独占していたせいで真実かわかりません。ですがもし本当ならば……エルフはレーリア国が降伏せざるを得ないような、なにかがあったのかもしれません」
もはや古すぎる文献だ。本当かどうかなんてわからないだろう。
だがもし本当だった場合、エルフはその力を未だに保持している可能性があることだ。エルフは寿命が長いのもあって、技術の劣化や喪失はおそらくほぼない。むしろ更に発展させている可能性のほうが高い。
「あれ? でも師匠はなんでエルフを警戒してるんですか? 文献関係じゃないですよね?」
『うむ。ワシはな、エルフがゴーレム魔法を嫌悪していることから警戒しておる。奴らめ、よくも……!』
「ただの私怨じゃないですか……」
とにかくエルフに関して、警戒しないとダメなのかもしれないな。
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