第145話 防衛準備


 無事に夜会は終わった。


 俺はすごく大勢の人と挨拶したが、残念なことに彼らの顔を半分も覚えていない。というかなんで周辺領地の領主とかが来るんだよ。


 ツェペリア領内での小さな夜会だと思ってたのにとんだ計算違いだ。しかも可愛い美少女を連れてきていた。でも俺の横にはレイラスが常にいて……まああとはだいたいは察せると思う。


 結論から言うと俺は夜会を楽しめなかった。


「はぁ……」


 ツェペリア領主屋敷の貸された部屋で、俺はベッドに寝転がってため息をついてしまう。なんというかすごく疲れた、それにこうなんというか、女の子が多くて興奮したのにメイルたちがいないのもつらい。


 いや待て。俺はツェペリア領に遊びに来たわけではないな? ちゃんと仕事しないとダメだろ。


 そう思って気を持ち直して、食堂に向かうとすでに他の皆は揃っていた。昨日と同じ面子にひとり増えている。


「ベギラ、遅いぞ」


 スリーン兄貴が食卓の席に座って手を振って来る。


「兄貴、なんでここに?」

「そりゃお前が戻ってきたら会いに来るくらいはするだろ」


 なんのことはないと手をヒラヒラさせるスリーン兄貴。たぶん忙しいだろうによく来てくれたものだ。


 そうして俺も席について朝食を食べながら、今後のことを相談することにした。


「エルフへの対策ですがー、やはり後手には回ってしまいますねー。エルフがなにかコトを起こしてから、私たちで捕まえるしかないかとー」

「やはりそうなりますか……魔法使いというのは本当に厄介ですね……少人数で甚大な被害を与えてくる」

「こちらにも色々と厄介な魔法使いがいるけどな」


 スリーン兄貴が俺の方を見てくる。はて誰のことだろうな!


「厄介というか厄を持ってくるというか……いやまあおかげで俺はツェペリア領主なんだが……」

「幸運と不幸の両方を持ってくるのやめてくれねぇかな。幸運だけにして欲しいんだがなんとかならないか?」

「人を疫病神みたいに言うのやめろ」


 兄貴ズにたいして軽口で返す。まったく遺憾である、俺は兄貴たちにずっと幸せをお届けしてるだろ! 


「兄弟仲がよいのはいいことですねー。夫婦仲も気になるところですがー」

「……」


 トゥーン兄貴、即座に押し黙る。イリアスちゃんとうまくいってないのがこれだけでわかる……。大丈夫なのか? 知らない間にトゥーン兄貴がゴーレム引き回しの刑とかされてたら嫌だぞ。


「後手に回るのはエルフ相手だけにして欲しいものですねー。殿方なら妻には積極的に対応しては? いっそ一緒に寝てしまえば案外解決したり」

「……すみません」


 トゥーン兄貴がどんどん小さくなっていく件について。流石にいたたまれないので話題を元に戻そう。


「それでエルフへの対応に話を戻そう。奴らの狙いがツェペリア城塞都市ならば、後手に回っても大丈夫だと思ってるんだが。なにせ壁がゴーレムだからな」


 ツェペリア城塞都市は鉄壁だ。なぜなら城塞は俺謹製の壁ゴーレムなので、普通の壁よりも遥かに丈夫だから。


「城塞都市の内部を狙われたら被害は甚大だが、おそらくエルフは狙ってこないと思うんだよ」


 さらに言葉を付け加える。


 エルフがツェペリア城塞都市にテロを仕掛けてくるとしたら……狙ってくるのはおそらく城塞、ようは壁だと思う。確かに中の建物を狙った方が短絡的には被害は大きいが、壊された建物はすぐに修復できる。


 城塞都市において最も大事なのは壁なのだ。壁があれば外からの安全が確保されるので、壁が健在ならば中がボロボロでも城塞都市足り得る。


 外敵の脅威がないので壊れた建物はまた修復すればよいと考えられる。だが……。


「そうですねー。やはり壁を狙ってくると思いますー。私でも壁を狙いますしー、中が破壊される分には大丈夫というのが本音ですー」


 レイラスは小さくうなずいた。壁が壊されたら話は別なのだ。


 壁の修復はそうそう簡単ではないし、そもそも城塞都市は外の危害に対する安全の保障で成り立っている。壁が修復されるまではずっと危険が伴うので、都市から逃げ出す商人も増えるだろう。


 城塞都市の人間にとって壁は最大の希望なのだから。


 いちど人の流出が始まってしまえば、ツェペリア城塞都市にケチがついて発展が妨げられる要因となる。


 エルフの狙いはツェペリア城塞都市に直接ダメージを与えることではない。ツェペリア領の象徴たる城塞都市にケチをつけて、レイラスにより多くのダメージを与えることだ。


 ならば狙ってくるのは壁を破壊して、領民の気持ちに傷をつける。そうしてレイラスの求心力を減らすことだ。


「であれば防衛での特別な対策は不要ですねー。エルフの風魔法を壁に耐えてもらって、その間に捕縛しましょうー。ですがエルフたちもすぐに逃げられるように準備を整えていると思いますー。それを捕えなければなりませんー。ただ問題はー」

「エルフが空を飛べるってことだろ?」


 レイラスは俺の言葉にうなずいた。


 今のゴーレムには機動力もあるので、逃げる敵でも追えるチートと化していた。だが空は厳しい、今なお空は未開の領域だ。そしてエルフは魔法で浮けるので、空を飛ばれると逃げられてしまう。


「うーん……ちょっと考えさせてくれ」

「期待してますよー、ベギラー」

 

 こうして俺はまた無理難題を解決する必要が出てきてしまった。


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投稿日勘違いしてました(小声

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