第144話 ドッキリ社長訪問?


 俺達を乗せたゴーレム馬車は目的地に到着した。


 そこはツェペリア領領主屋敷前、ようはトゥーン兄貴の屋敷だ。元々はスクラプ領主の屋敷だったものを利用しているのだが。


『弟子よ、ついたぞ』


 窓の外から師匠の声が聞こえる。彼も馬車に追随するように走ってついてきていた。


 師匠は基本的に馬車には乗らないで、自分の足で走って移動する。これは決して嫌がらせとかではない。師匠は走った方が馬車よりも速い上に疲れもないので、むしろ馬車に乗る必要性がないのだ。


 なんなら邪魔まであるというか。彼ひとりで移動するなら馬車なんて不要まである。


「あなたー。先に馬車から出てくださいー」

 

 レイラスがニコニコしながら告げてくる。別に問題はないので扉を開いて外に出ると、トゥーン兄貴とジーイが待ち構えていた。


 二人とも今までよりもお高い衣装を着ていて、指に宝石などもつけている。彼らの姿だけでもツェペリア領が発展したと痛感できる。まさに成金だ。


「よおベギラ。待ってたぜ」

「ベギラ様、お久しぶりでございます。このジーイ、再びお会いできる日を心待ちにしておりました」


 トゥーン兄貴が片手をヒラヒラさせて、ジーイが深々と頭を下げる。身なりこそよくなったが、二人の中身はあまり変わりないな。トゥーン兄貴は相変わらずてきとうなところがあって、ジーイはかなり几帳面である。


「それでエルフが襲撃してくるんだって? あの伝説にうたわれるエルフだろ? 本当かよ?」

「本当だ。俺はすでに何人か相手にしたぞ」

「まじか……相変わらず絵物語みたいなことやってんなお前……」


 トゥーン兄貴は呆れているが、これは案外普通の反応だったりする。エルフは伝説にうたわれるほど有名であり、凄まじい風魔法を操る怪物と思われている。


 俺も実情を知るまではそうだと思ってたからな……。エルフを撃退した話は当然広まっているが、いちど築かれた常識はそうそう覆らない。


 レーリア国においてエルフはいまなお強靭な存在であった。


「そっかー。まあそういう話は屋敷でしようぜ。それとお前が来ると聞いて、今夜はパーティーを開く予定だ。お前と会ってみたいっていう可愛い娘も……」


 トゥーン兄貴の口が止まり、目が驚きのあまりに見開いている。


 彼の視線の先は俺の後ろ。馬車の扉から出てくる美少女――レイラス――を見ていた。


「可愛い娘がなんですってー?」

「ら、ら、ら、ライラス辺境伯様!? な、なぜここへいらっしゃいますでございますか!?」


 トゥーン兄貴は思わず腰をペコペコ下げて必死だ。辺境伯に様づけは二重敬称なのだが気づいてもいない。


 そういえばレイラスはいきなり馬車に乗り込んできたから、当然ながらやって来ることはトゥーン兄貴に伝わってなかったな。


「愛しの旦那に悪い虫がつかないか心配でー。案の定なので来てよかったですね」


 声のトーンが急に下がるレイラス。顔こそ微笑んでいるが目は欠片も笑っていない。まさに目は口ほどにモノを言うだ。恐ろしい。


「あ、い、いえあの!? 違います! 決しちぇベギラに側室を付けようとぅか言うわけでは!?」


 しどろもどろになって焦るトゥーン兄貴。狼狽しすぎて噛み噛みになってる件。


「ライラス辺境伯。あくまで地元の重鎮に対しての顔合わせの夜会でございます。可愛い娘というのはトゥーン様が勝手に言っているだけです」


 そしてこの状況下でも落ち着いているジーイ。どっちが領主か分かったものではないな。いやどう見てもジーイが上で、トゥーン兄貴は……下っ端?


「それならよいですがー。私の旦那に面倒ごとを持ってくるのはやめてくださいねー」

「もちろんでございます。しっかりと身元を調べた上で、かつ親の伴として来る程度ならばと許可しております。少しでも妙な動きを見せれば即座に捕縛の準備もございます」

「それくらいは必須ですねー」

「ごもっともでございます」


 レイラスとジーイが出来る者同士の会話をしていて、俺とトゥーン兄貴は蚊帳の外である。


 信じられるか? 夜会のパーティーのメインは俺とトゥーン兄貴で、ジーイは裏方だしレイラスに至っては参加予定なかったんだぜ?


「しかりライラス辺境伯が参加あそばせるならば、警備をより厳重にせねばなりません。すぐに手配をいたします」

「話が早い方は好きですよー」

「はは、恐れ入ります。ですが話の早さではベギラ様には到底及びませぬ」


 しっかりと動く上に、他人のことを上げることも忘れないジーイ。なんだこの老人は超人かなにか?


「ささっ。ライラス辺境伯もどうぞ屋敷へ。お二人がくつろげるように準備もしております」

「えっ……ライラス辺境伯が来る予定なかったから、ベギラの準備しかしてないはずでは……」

「トゥーン様。こういうのは予想外が起きると想定しておくものですよ」


 どうやらトゥーン兄貴はまだまだジーイには勝てないようだ。というかこのじいさん本当に優秀だな。こんな有能がいてあのクソムーブかましたスクラプ領主ヤバい。



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夜会はとくに描写なく終わります。

この作品は貴族譚ではなくてゴーレム話だからね! 是非もないね!

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