第143話 久々に帰るツェペリア領


 俺はゴーレム荷台(四足馬車改装仕様)に乗り込んで、ツェペリア領へと向かっている。


 ゴーレム荷台は流石のスピードで、周囲の景色が地球で高速道路を走るくらいに移り変わっていく。この速さなら夕方にはツェペリア領に着くだろう。


 それはいいのだが……。


「たのしみですねー」

「たのしみだけど……なんでレイラスがついてきてるんだ?」


 なぜか出発直前でレイラスが乗り込んできて、一緒に行くことになってしまった。


 彼女は俺と向かい合うように座席に座っていて、俺の問いに対してレイラスはニコニコと微笑んでくる。


「理由としては三つありましてー。一つ目はまだツェペリア領で結婚挨拶をしたことがなかったなーと」

「結婚挨拶」

「ツェペリア領民に私の顔を見せるのも必要かなーと」


 この美少女王様、俺にかこつけてツェペリア領の人心を掴むつもりだな!? もしエルフによってツェペリア領が荒らされたとしたら、レイラスへの印象次第でその評価は大きく変わりかねない。


 たぶんツェペリア領で演説でもする時は、エルフの脅威を感じて自身が立ち上がったーとかアピールするのだろう。王が自ら立ち上がって守ってくれると言われて、悪い思いを抱く民は少ない。


 相変わらず考える策のクリティカル具合がすごいな……。


「二つ目は?」

「姪の様子を見に行こうかとー」


 レイラスは俺に微笑んでくる。


 彼女の姪は弱冠十二歳くらいで、トゥーン兄貴の嫁に出荷……じゃなくて嫁がされた。ちなみにトゥーン兄貴は二十二歳くらいだった気がする。一回りくらい違うが、この世界では普通にあるのでそこはよい。


「イリアスちゃんだっけ。当初は俺の嫁になるかもって話だったか」

「そうですねー。当初はベギラに嫁がせようと思ってましたー。それが私自身になるとはわからないものですー」


 レイラスは俺の横に移動してきて腕を抱いてきた。少し小ぶりな胸が当たっていてうっひょー。


「実はですねー。姪から届く手紙が少し悲しそうに見えましてー、ちょっとその件でトゥーン殿にお話を聞こうかなーと」

「……お手柔らかにしてやってくれ」

「私はいつでも優しいですよー?」


 レイラスの笑顔が怖い。トゥーン兄貴! なにやってんだ!?


 イリアスちゃんは徹底的にもてなさないとダメだろ!? 出来うる限りの最高待遇をさらに超えるくらいでやらないと! まさかシンデレラみたいに、灰被りで掃除婦みたいな扱いしてるんじゃないだろうな……? いや流石にそれはないか。


「三つ目。これが一番重要なのですがー」

「えっ。さっきまでのより重要なことがあるのか?」


 すでにお腹いっぱいというか、レイラスがツェペリア領に来る理由としては十分過ぎる。いままでの二つより重要なことってなんだ……?


 ツェペリア領の主権を奪うとかそんな話じゃないだろうな? レイラスならあり得そうなのが怖いところだ。だがレイラスは予想外のことを口にする。


「三つ目はベギラ。あなたですー」

「え? 俺?」

「心配なのですよー」


 レイラスはさらにギュッと俺の腕を握って来る。


 彼女が俺の心配を!? これはあれか俗にいう夫婦円満期というか、このまま押せばヤレるタイプの……! 


 いまからエルフたちのテロに対抗しなければならず、それを心配してくれているのだろう。エルフたちよくやったぞ! はじめて俺の役に立ったなお前ら!


「たしかにエルフ相手には危険が伴うな。だから俺としてはいまの間にやれることはやっておきたく」

「いえ少数エルフ程度の相手に心配してませんが」


 前言撤回、あいつらクソの役にも立たねえ!


「じゃ、じゃあ俺の心配ってなんだ?」

「それはー……」


 レイラスは俺の腕をさらに強く、痛いくらいに抱きかかえてくる。


「下手にハニートラップに引っかかって、嫁を増やされたら困るので見張りですー」

「え!? 俺の見張り!? いやそんなことは……!」


 必死にレイラスから逃れようとするが、風魔法を使っているのかぜんぜん引きはがせる気配がない!? いったいどうなってるんだ!? なんで俺が見張りを!?


「ハーレムを望む貴方のことですー。誰も妻がいない状況ですごくかわいい娘を紹介されるとー、コロッと落とされてしまう可能性がありますー。下手に嫁を増やされると親族が増えて、足手まといになりかねませんー」

「い、いやそれは偏見ではないかな!?」


 レイラスの笑みに対して視線を逸らしながら叫ぶ。たしかに俺はハーレムを望んでいるが、すでに四人もいるので大丈夫じゃないかな!?


「例えばなのですがー。ツェペリア領で昔に憧れていた娘からー、好きですと言われたらどうしますー?」

「嬉しい。とりあえず食事でも……」

「その時点でダメですー」


 レイラスは顔が笑っているが目が笑っていない。


 食事すらダメなの!? マジで!? 


「食事なんかしたらー、絶対に親族がやってくるじゃないですかー。そのままなし崩しにされるかー、されなくても私は王配と関係がありーとか利用されかねませんー」

「い、言われてみれば確かに……」

「そういうわけなのでー。私が目を光らせておきますー。行動は全て管理しますのでー」


 どうやら俺はツェペリア領において、自由なんてものはないらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る