第142話 狙いはきっと


「……非道な策って、今までもかなりやってきてないか?」


 レイラスの言葉に対して俺は思わず漏らしてしまった。


 いやエルフって散々暗殺狙ってきたし、メイルまで殺そうとしてきたのだ。とっくの昔に躊躇など捨ててると思うのだが。


 レイラスは俺の言葉に苦笑した。


「今まではあくまで私とその周囲を狙ってきました。ですがこれからはレーリア国自体になにかしらをしてくるでしょう。例えば……盗賊に扮して村を襲うなど」

「ひでぇ……」

「常套手段ではありますけどね。王家も似たようなことやってきましたし」


 確かに王家もやってきてたなぁ。結局、どこも似たようなことは仕掛けてくると。


「ですがエルフの場合はそれが厄介です。人間ならば大勢揃わないと脅威になりませんが、エルフは数人でも大規模な風魔法を発動できます」

「目立たずに破壊工作できると?」


 レイラスはちいさくうなずいた。

 

 め、めんどうくさいなあいつら……風魔法でテロとか仕掛けてきたら完全対策は難しいかも。


「とはいえエルフたちとて万能ではありません。耳も目立つので我が国に入り込むのは簡単ではないでしょう。当然ですがエルフ公国との国境には警備兵も配置してますし。なので何度も気軽に破壊工作はさせません」


 強気な笑いを見せるレイラス。彼女がここまで言い切るからには大丈夫なのだろう。なにせレイラスは個人的にエルフキラーと思っている。


 エルフの作戦をことごとく潰してるし、動きもだいたい読み切っているのだから。


「となると……エルフはレーリア国の重要な場所を狙ってくる?」


 破壊工作を数打てないならば、一撃で大損害を与えられる場所を狙う。それは人間だろうがエルフだろうが変わりはないはずだ。エルフがよほど馬鹿なら分からないけども。


「その通りですー。そして狙ってくる場所はおおよそ見当がついてますー」


 微笑むレイラス。やはり彼女にはエルフキラーの称号を与えるべきだろう。名誉なことかは知らないけども。


「流石はレイラスだ。それでその場所は? このリテーナ街か? それとも元王都か?」


 リテーナ街は現王都である国の中枢だ。もし大損害を受ければ経済的にも、レイラスの威信にも傷がつく。元王都もやはり大都市のために被害を受ければ、レーリア国自体にダメージが出てしまう。


 だがレイラスは首を横に振った。


「リテーナ街の防備は完璧ですー。それに以前も失敗しているのでー、流石のエルフも学んで仕掛けてこないでしょうー」

「本当に? あのエルフが?」

「……流石にやってこないと思うのですがー」


 少しだけ心配そうになるレイラス。もしここでエルフがリテーナ街を攻めてきたら、レイラスの裏をかいたと褒めるべきか学ばぬ馬鹿と罵るべきか。たぶん後者だろうな。


 ただそもそもリテーナ街は警備がすごいので、狙ってきたとしてもエルフが成功できるかは怪しい。兵士たちも以前のエルフの攻めを許したことで、徹底的に絞られて警戒心もあるからな。


「じゃあ元王都は?」

「確かにあそこは重要拠点ではありますがー、最悪破壊されてもなんとかなると言いますかー」

「あー……」


 元王都はもはや国の中枢からかなり離れている。それに王家が滅んで復興途中のために、仮に破壊されても言い訳がきく。流石に守り切れなかったごめん、みたいな。


 元王都はレーリア国の端のほうだしな……なんであんなところに王都作ったのか理解に苦しむレベルの場所だ。


「となるとどこだ? 他に狙われそうな場所なんて……」

「ベギラ。あなたがよく知ってるところですよー」


 レイラスは俺の顔をまじまじと見てくる。相変わらずすごく美少女してて目の保養になるな。しかし俺がよく知ってる場所って…………あっ。


「ツェペリア領の城塞都市?」


 忘れていたが俺の元領地は、ものすごく発展しているのだった。トゥーン兄貴とレイラスの姪が婚約したこともあり、俺がいた時よりもさらにすごくなっている。


 もはやこの国の第二の都市といっても過言ではなかったんだった。実感がまるでないから失念していたが。


「その通りですー。あそこはリテーナとも近いですしー、守り切れなかったら私の威信にも国の経済にも大打撃ですー。国の中央の土地なので、噂も国中に広がるでしょうしー」

「確かに……場所って重要だなぁ」


 国の中央ということは商人や旅人も多く通る。そして彼らが国中に分散していって、すぐに噂が広まってしまうのだ。


 レイラスはレーリア国を掌握しているとはいえ、まだ統治して一年も経っていないくらいだ。こんな大事件が起きたらまた国が割れる可能性も出てくる。


「なのでー。ベギラ、あなたには少しの間、ツェペリア領に戻っていただけますかー? エルフを対策するにはやはりゴーレム魔法が必要ですしー、ツェペリア領のことはあなたがくわしいのでー」

「わかった。任せてくれ」


 ツェペリア領にもどるのはすごく久々だ。トゥーン兄貴とスリーン兄貴、まあ元気にしてるだろうな。


 それにどれくらい発展しているのかも楽しみだ。俺がいた時の城塞都市は、周囲の壁以外はほとんどなかったからな。

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