第141話 エルフ公国の使者


「我らが交渉に来たこと、光栄に思うがよい」


 屋敷の応接間。そこでは机を挟んで三人のエルフに対して、俺とレイラスと師匠ゴーレムが相対していた。


 言うまでもないと思うが師匠ゴーレムの役割は護衛である。こいつらがレイラスに

暗殺でも仕掛けてきたら、瞬殺するために呼んだ。


 すごく今さらだがエルフたちと交渉するのって初めてだよな。割と長い間争っているイメージなのに。


「貴様ら! 使者たる我らへの面会にゴーレムを帯同させるとは!」

「なんたる無礼か!」


 エルフたちはなにかほざいているが無視だ。


 無礼も何も散々暗殺仕掛けてきておいて、何の備えもなく会うわけがないだろバカか。


 どうせ今回の交渉に関しても暗殺狙いで、交渉拒否したらレーリア国は交渉の通じない国ーとか言うつもりだったんだろ。お前らの卑怯な手口はもう散々見せられてきたからな!!


「無礼はそちらではないですかー? 交渉というならもう少しまともなエルフを連れてきてくださいー。貴方達のような木っ端と交渉してもー、やっぱりなしーとか言われかねませんしー」


 レイラスの言う通りでもある。


 交渉というのは当然ながら、相手側の有力者としなければ意味がない。


「無礼者! 私はエルフ国の外務副大臣なるぞ!」

「せめて大臣そのものが来てくださいー。オマケは帰ってくださいー」

「ぐぎぎ……!」


 レイラスもわりと怒っているようで、いつもよりも言葉に棘がある。実際何で副大臣なんかがやって来るんだろおかしいだろ。


 交渉するつもりは最初からないと公言しているようなものでは?


 だがそんなレイラスの態度が我慢ならなかったのか、エルフのひとりが机に手を叩きつけた。


「貴様! 我らを愚弄したな!」

「だとしたらなんですかー?」

「このっ……! もうよい! 女王からの伝言を伝える! 即座に全面降伏して国を明け渡せ! そうすれば国民の命は保証する!」


 なんかエルフが吠えてて今日も平和だなー。


 すごく予想通りの平常運転で、なんかもう鳥のさえずりみたいに聞こえてくる不思議。


 レイラスはエルフの言葉にニコニコと笑顔を浮かべていた。


「前から思ってたのですけどー。貴方達は何を考えているのでしょうかー? 私たちがそんな条件をのむと思っているのですかー?」

「のまぬなら滅ぶのみだ! さあ選べ! 降伏か死か!」

「はぁ…………どちらもお断りします。レーリア国はエルフ国と戦います。そして勝利する」


 エルフたちはレイラスの言葉にしばし言葉を失った後、ニヤリと笑った。


「聞いたな?」

「ああ。我らは争いを嫌って平和に解決しようとしたのに、愚かな人間どもは戦いを求めた」


 そう告げて立ち上がったエルフたちは、愉快そうな顔をしている。


「やはり下等な人間に力など与えるべきではない!」

「我らエルフが天に代わり裁きを下す!」

「「覚悟せよ! 人間!」」

「交渉決裂したらお帰りくださいー」


 こうしてエルフたちを師匠ゴーレムが脅して、応接間から出て行かせた。


 残った俺達は奴らの平常運転具合に思わずため息をついてしまう。


「なんだあいつら……何から何までツッコミどころしかないんだが。逆に怖いまである」

『理解できんな』


 呆れかえる俺と師匠ゴーレムに対して、レイラスだけは想定通りと言わんばかりに用意されていた紅茶のカップを口にする。


「いえいえー、彼らの考えは単純ですよー。ようは我々人間は愚かな存在で、そんな者達を裁くエルフたちに義があると言いたいのでしょうー」

「誰に言うんだ? エルフ国の周囲は人間の国だぞ? 人間は愚かな存在ーとか告げてもムダどころか反感食らうだろ」

「自分達にじゃないですかねー。戦意高揚と自らのプライドを守るために、この交渉のことを自国に戻って話すのでしょうー。なんて人間は愚かなのかとー」


 …………つまりはさっきのやり取り、全部自己満足のためだけ? そのために交渉までしてきたのか!?


「わざわざ副大臣がやってきたのも含めて、交渉が絶対に結ばれないための策ですー。今回に限ってはあの傲慢さに少し演技が入ってるかもですねー」

「エルフってヤバイな……」

『理解に苦しむわい』

 

 俺達は割とヤバイ奴らを相手にしているのではないだろうか。


 いやヤバイの意味が強いじゃなくて、頭おかしいという内容なのだが。


「ですがー、戦意高揚としてはよい策だと思いますよー。私たちは正義で、敵は悪なのだーと言えますから。交渉結果という事実を元にしてー」

「王家よりはマシと?」

「比べるまでもなくですねー。そもそも王家はまともな策など仕掛けてこなかったですしー」


 確かにその通りだ。王家が何か仕掛けてきた記憶自体が思い浮かばない。

 

「ただですねー。今後はちょっと面倒かもですねー」

「え? 何でだ? エルフが謎に酷い動き繰り出したとしか思えないんだが」


 俺の問いに対してレイラスは少しだけ迷った後に。


「自分たちを正義とみなせば、副次的な効果があるのです。どんなに非道な策でも躊躇がなくなる。これは正義のためだと叫べば、あっさりと仕掛けてきますから。今までよりもね」


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日付勘違いしてて昨日投稿するの忘れてました(

それと今月末忙しいので二日おきの投稿になるかもしれません。

来月は大丈夫なはず……。


ところでエルフ君今までも派手にやらかしてましたけど、今までより非道な策ってなに。

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