第140話 子守りゴーレム?


 俺は屋敷の私室でメイルと話していた。


「もうレーリア国はレイラスの名の下にひとつになった。周辺国とも和解してるから、後は北のエルフ国だけだ」

「順調そうで何よりです。流石はレイラスちゃんです」


 メイルは椅子に座ってくつろいでいる。彼女のお腹はかなり大きく膨れていた。


 妊娠してそろそろ八か月が経つので、もうすぐ彼女は子供を産む予定だ。そう俺の子供を。


 そんな彼女にストレスなどの類を与えたくないので、政治などの情報は完全にシャットアウトしていた。俺がよい情報だけ吟味して話すようにしている。


 と言っても別に何かを隠したりはしていない。現状はすごくうまくいっているので、真実をそのまま話せばよいので楽だ。


「エルフとはやはり戦うのです?」

「当然だ。あいつらを放置していたら俺達が危険だからな……ゴーレム魔法を憎んでいるようだし、話し合いの余地はない」


 俺の言葉にメイルは少し悲しそうな顔をする。


 だがこればかりは譲るわけにはいかないのだ。エルフたちはゴーレム魔法を嫌悪している。その理由についても以前にエルフから聞き及んでいた。


 エルフにとってゴーレム魔法とは天敵なのだ。だから奴らはゴーレム魔法が発展していくことを嫌っていて、その妨害を行ってきている。


 奴らの考えは理解できる。他国に自分たちを滅ぼす力を持って欲しくないということだろう。国防上そう思うのは当然ではある。奴らがエルフじゃなかったとしても、例えば人の国でも同じことを考えるかもしれない。


 だが俺からすればそんなことは知らん。というか散々俺達を暗殺しようとしてきた奴らを、簡単に許すわけにはいかないのだ。


 特に今後は…………。


「どうしたのです?」


 俺はメイルとそのお腹に視線をうつす。


 エルフ公国に勝利すること。それは俺達の安全を守るための必須事項だ。


 和睦はあり得ない。エルフ公国側からすれば時間が経つほどに困るのだから。なにせゴーレム魔法は今後さらに発展していくので、どんどんエルフ側が不利になっていく。


 つまり奴らは絶対に和睦や交渉を飲まない。自分達が不利になるようなことをするわけがないのだから。なので戦う以外に道はない。


 とはいえこんな話を今のメイルにしたくもないので、話の流れを変えることにした。


「いや。ちょっと面白いゴーレムを作成したから見て欲しくてな。入って来い」


 俺の命令に従って部屋の扉が開き、粘土でできた子供ほどの小人ゴーレムが入って来る。


「小さいゴーレムです。これは何のために作ったのです?」

「ベビーシッターゴーレムだ。赤ちゃん、いやもう少し育った子供の面倒を見させるためのゴーレム。これをメイルにやろうかと」


 子供は小さくてわんぱくだ。大人では入れないところに侵入することもある。


 なのでそんな子供についていくには、ゴーレムのサイズも小さくする必要があるわけだ。更に硬いとぶつかったりしたら危ないので、粘土で柔らかくしている。


 メイルは少しベビーシッターゴーレムを見た後。


「ありがとうなのです。頼れるところがあれば使わせてもらうのです」


 少し困ったような顔でお礼を言ってきた。


「やっぱり微妙か?」

「小さい子供にゴーレムをつけるのは、それはそれで怖いです」

「やはりそうか」


 メイルは申し訳なさそうに小さく頭を下げてくるが、俺としても何となくそんな気はしていた。でも使い道ないかなーとダメ元で渡したが、ないと言ってもらえるのはありがたい。


 ダメな物は使わない。その心意気はすごく大事だと思う。


「はー。やっぱり何でもかんでもゴーレムにすればよい、ってわけではないよな」

「ふふっ、そうかもです。やっぱり小さな子の面倒を見るなら、ちゃんと人が面と向かって相手してあげるべきなのです。ゴーレムが何でも全てやる、というのも怖いですから」


 俺もメイルの意見に完全に同意だ。


 今後もゴーレム魔法は発展していくだろう。どんどんできることは増えて行くだろう。それこそ現代地球のロボットのようにだ。


 だがゴーレムにやらせない方がよいことだってある。それこそ子育てをゴーレムに任せてしまったら、子供は親と触れ合わずに育っていってしまう。すさんだ成長をしかねない。


「そういうわけだからその小人ゴーレムは、大人が入れない場所での仕事をしてもらうのがよいと思うです。あなたの気持ちは嬉しいですけど、メイルには持て余すのです」

「確かにそうだな。後でメフィラスさんにでもプレゼントしようかな」


 メフィラスさんはこの屋敷の取りまとめ役なので、きっとこの小人ゴーレムをうまく扱ってくれるだろう。


 ところであの人かなり聖人だよな。自分の取りまとめる屋敷がゴーレムになったのに、そこまで文句も言わずに笑って流してたし。


 やった俺が言うのもなんだが、普通は怒ってべきだと思う。本当に俺が言うのもなんだが。


 こうして俺は少しだけ幸せな時間を過ごした。


 だが事態は待ってはくれない。この翌日にとうとうやってきたのだ、エルフ公国から交渉の使者が。

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