第146話 空を飛ぶには?


「なあ。いくらなんでもゴーレムが空を飛ぶのは無理じゃないか?」


 師匠の屋敷の工房にやって来た俺達に対して、ついてきたスリーン兄貴がそんなことを言い出した。


『もしゴーレムが空を飛べば前代未聞じゃ。こんな心躍ることはないわい』

「そりゃそうでしょうけどねぇ……」


 ゴーレム師匠の言葉にたいしてスリーン兄貴は困惑している。


 確かに兄貴の言いたいことは分かるが。


「いやあの現実的に考えてですね。ゴーレムが空を飛べるわけがないと思うんですよ。ゴーレムは身体が重いから風魔法で浮けませんし、そもそも魔法を使えません」

『ワシ使えるぞい』

「いやまああなたはちょっと別枠と言いますか……」


 師匠ゴーレムはゴーレム魔法を使える。


 なのでゴーレムでありながらゴーレムを製造できるのだ。なんかロボットがロボットを作り始めてる感じがすると、SFディストピアみたいな雰囲気になるよな。


「おいベギラ。実際のとこアテはあるのか? 空飛ぶゴーレムなんて絵空事だろ」


 スリーン兄貴は俺に目を細めてくる。


『やれやれ。ベギラの兄がゴーレムを信じてないとは嘆かわしい』

「俺をベギラと一緒にしないでくれます?」

「兄貴、それはどういう意味かな?」


 兄貴だろうが喧嘩なら買うぞ。俺はゴーレム使うけど。


「とにかくゴーレムを空に飛ばすのは無理だと思うんですよ。それならいっそ地を這って、どこまでもエルフを追い続けるゴーレムの方がよいのではと」


 たしかに一理ある。


 エルフが空を飛べるとはいえ、ずっと飛び続けるのは不可能だ。魔力がもたないのでいずれは地面に降りる必要がある。


 そこまで見失わずに追い続けることができるならば、エルフを捕縛することは容易だろうな。


「兄貴、それだとエルフが地上から見えないくらい高く飛ぶと見失う可能性が高い。雲より上を飛ばれたら下から見えないぞ」

「あー……」


 俺も地面から追いかけるというのは考えた。だがやはり飛行能力を持つ相手に陸で追うのは難しいと判断するしかなかった。


 空飛ぶ鳥を相手にして走ってずっと追跡できるかという話だ。向こうは障害物がないから自由自在に移動できるし、速度では圧勝している自動車でも難しいだろう。


「エルフの動き次第では追いきれない。そんな向こうのミスに頼るようなやり方は御免だ」

「ベギラ、お前ってたまに妙に頭よいよな。普段バカなのに」

「は? 俺はいつも頭が利口だが???」


 なんて失礼な。俺はつねに頭を働かせて頭脳プレイをしているというのに。


『それで弟子よ。どうやってゴーレムを飛ばせるのじゃ。ワシはそれが気になってこのままだと夜も眠れんぞ』

「いや師匠ってもともと眠らないでしょ。ゴーレムなんだから」

『言葉のアヤじゃ! そんなことよりどうなんじゃ!』


 ドンと自分の胸を叩く師匠は、のっぺらぼうなのに顔からすごく感情を感じてしまう。


 この人の場合は言動と行動が分かりやすいから、なんならレイラスよりも何を考えているか分かりやすい。まあレイラスはそこが可愛いんだけどな。


「まったくもう。空を飛ぶ方法には心当たりはあります」

『流石は我が弟子じゃ!』 

「えぇ……」


 師匠が絶賛してスリーン兄貴が呆れている。


 ゴーレムに空を飛ばす。普通に考えれば不可能に近いことなのは間違いない。少なくともこの世界の技術では無理だ。


 だが俺ならば可能だ。地球知識を持つ俺だからこそ。


「ただですね。俺ではたぶん造れないんですよ。なので師匠にご協力をお願いしたいのですが」

『無論じゃ。しかしワシでないと造れないとは』


 師匠は不思議そうに顎に手を置くがなんてことはない。


 現状では師匠しか造れないゴーレムの機構を使って飛ぶためである。


「師匠は車輪ゴーレムを造ったじゃないですか。あれを利用するんですよ」


 師匠は車輪で動くゴーレムを発明した。それは現状では彼だけの技術であり、俺も真似できていない。これを機にできるようになるつもりだが、それはそれとして第一号は師匠に協力してもらわないと。


『ほう? じゃが車輪で空は飛べんぞ』

「おいおいベギラ。空回るのは車輪だけで十分だぞ」

「兄貴うるさい。別に車輪で空を飛ぶってわけじゃないです。えーっと……あ、そうだ」


 俺は近くに落ちていた木の板を手に取ってゴーレム魔法を使用する。


 木の板は姿を変えて、棒に二枚の羽根を得たプロペラのようなもの。つまりは竹とんぼ(竹じゃないけど)に姿を変えた。


 俺は両手をすり合わせるように竹とんぼを投げると、回転しながら天井に向かって飛んでいく。


『ま、まさかっ!? そのよくわからないもののように、ゴーレムを飛ばす気じゃなっ!?』

「……正気か? いやマジで」


 俺は二人にたいして少しドヤ顔しながらうなずく。


「これを利用してゴーレムを飛ばします。なので回転が必要なんですよ。兄貴の言ったように空回りで空を飛ばせるんです」


 ようはヘリコプターみたいなものである。もちろん素材を軽くしたりとか色々と工夫が必要だが、理論上飛べないことはないはずだたぶん。


「嘘だろ……てっきり鳥の肉でゾンビゴーレムでもつくると思ったのに……」

『よしさっそく作成開始じゃ!!!!!』

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