第138話 王都へ入ろう


 俺とレイラスは王都から少し離れた平野で巨人ゴーレムを眺めている。


 巨人ゴーレムがレーリア王を潰した後、しばらく歓声が巻き起こった。


 その後に我が軍の兵士たちは王都へとなだれ込んでいった。すでに正門どころか壁の一部も破壊されているので、我が軍を遮るものはなにもない。


 兵士たちがなだれこんでからしばらくして、安全を確保できたので俺達も馬に乗って街へとゆっくり入っていく。


 すると民衆たちは俺達に抵抗するどころか……。


「やったー! これで王都の包囲が終わる!」

「助かったー! レイラス女王万歳!」


 王都の民たちは俺達を歓迎して、王都に侵入したのを喜ぶ始末であった。まるでパレードのように民衆が道の両横に並んでいる。


 本来ならば攻略された城塞都市は悲惨だ。男は殺され女は犯され、物資は全て盗られてしまう。だがそんな悲壮感はどこにもない。


 これは自国内の争いであったのと、レイラスが略奪など禁じていてかつそれを王都の民にも聞かせていたのも大きい。


 何はともあれこの分なら王都の統治を奪って、レーリア国をレイラスが掌握するのも容易そうだ。なにせ民衆が自ら従っているのだから。


「うふふー。これでレーリア国は私のものですー」


 レイラスはすごく嬉しそうに笑っている。これは普段の愛想笑いと違って、心の底からの笑みだ。だがすぐに彼女はその表情をやめた。


「……本来ならここまでするつもりはありませんでしたが。王家がもう少しまともなら……」

「それはただの仮定だろ。ここまできて降伏しなかった奴だぞ。むしろあんなのがずっと王に居座る方がこの国の不幸だ」


 本当によかったよ。俺が手柄を立てた時に王に叙勲されなくて。


 されてたらあんな王の下で色々従わなければならなかった。考えるだけでも恐ろしい。


「レイラス様ー! 結婚してくれー!」

「そこの男邪魔よー! レイラス様が見えないじゃないの!」


 ところで俺が完全に邪魔者扱いなのには納得いかない。これでも夫なんだけどなぁ!?


 そうして俺達はパレードみたいに街の中を進み、王城の門前と到達した。


 門の扉は完全に開いていてここも抵抗はないようだ。周囲を見ても血などがないので、おそらく戦うことすらなく王家軍は降伏したのか。あいつ本当に人望ないな……。


 俺達は門をくぐって城へと入り、衛兵に案内されて玉座の間へと到達する。


 すごく懐かしく感じた。ここはある意味では俺の始まりの地だ。ここでクソ王に対して頭を下げて謁見した記憶がよみがえる。


 だが今は違う。もう俺は謁見する側ではない。


「うふふー。お先に失礼ー」


 レイラスはにこやかに笑いながら玉座に近づくと、腰を下ろして座り込んだ。彼女の細身の身体には玉座は大きすぎるようにも感じる。というかあのダメ王が座っても普通に玉座の方が大きかったか。


 あいつの場合は玉座よりも赤ちゃん椅子の方がお似合いだったが。王としての資格的な意味で。


「あらー、この椅子は私だけでは少し大きすぎますねー」


 彼女もそう思ったのか、玉座の右端によって左側を開けた。そしてポンポンと右手で空いた場所をしめす。


「誰かー、一緒に座ってくれる人が欲しいですねー」


 チラチラと俺を見てくるレイラス。俺は何も言わずにレイラスの左側に座った。二人で玉座は……。


「ちょっと狭くね?」

「いいんですよー。これからもお願いしますねー」

「任された!」


 俺達は少しだけ甘々な時間を過ごした気がする。まあ結局一緒に寝てくれなかったけど!




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 エルフ公国、円卓の間。


 そこでは大勢のエルフたちが集まって会議を行っていた。席は全て埋まっていて出席率百パーセントである。


 そんな中でエルフの女王が小さな口を開いた。


「レーリア国がレイラス辺境伯によって落とされました。今後あの国はゴーレムを全面的に押し出します」

「なんという! 人間め! あれだけゴーレム魔法を禁じて、全ての技術を燃やしたというのに!」

「学ばぬ愚か者めが! 以前に統治が大変だからと占領せず、皆殺しにしなかったのが手ぬるかった! ここは攻め滅ぼすしか!」

「自分達が下等種族と理解できぬ愚か者め!」


 エルフたちは全員が激怒しながら、近くの者らと議論しあっていた。


 そんな中で女王はため息をつく。


「仕方ありません。彼らに教えてあげましょう。本気になった私たちがどれだけ恐ろしいかを。人間ごときが逆らえる存在ではないということを。軍を編成しなさい。すぐに出陣します」


 エルフの女王は椅子から立ち上がり、周囲のエルフたちに命じた。その表情は決意に満ちている。


「ははっ! 急げ! 一年後には出陣するとの仰せだぞ!」

「なんと素早い行動か! 流石は女王様だ! 我らも準備していたかいがあったというもの!」


 エルフたちは口々に賞賛しつつ立ち上がり始めた。彼らの寿命はすごく長い、なので時間間隔が人間とは違いすぎた。


 彼らにとっての一年とは、人間にとっての一日や二日そこらの感覚なのだ。まだレイラスはレーリア国を完全には掌握できていない。


 このタイミングで攻めれば、レーリア国からの裏切り者も期待できただろうに。こうしてレイラスたちに態勢を立て直す時間が与えられるのだった。



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エルフ君の間隔の感覚狂ってる。

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