第137話 世直しの巨人
王都正門。俺達がいつでも攻め込める準備をしていると、騎士ゴーレムたちがレーリア王を連行してきた。
レーリア王はまるで囚われた宇宙人のように、哀れに左右の腕を抱えられてプラプラと浮いていた。その醜態を見た我が軍の兵士たちから声が聞こえてくる。
「あ、あれが元俺達の王かよ! 無様過ぎるだろ! というかこれ勝ったってことだよな?」
「勝どきを上げた方がよいのか? でも俺達戦ってないけど……」
だいたいの兵士たちは混乱しているようだ。王都を包囲したまでははよいが、自分達は何もしてないのに敵の大将が捕縛されて困っていると。
ゴーレムが活躍し過ぎたのが原因だ。俺としては正直かなり楽しかったけど。
『うーむ。騎士ゴーレムはまだ動きが悪いのう』
「そうですねぇ。ロボットみたいにガチガチの歩き方なのはよろしくない」
『ロボット? なんじゃそれは』
「えーっと、人形みたいにかくかくした動きと言いますか」
王を運んでいる騎士ゴーレムは、プレートアーマーをゴーレム化したものだ。鉄の丈夫さを誇りつつも中身が空洞のため、中までぎっしり鉄のアイアンゴーレムよりも鉄の消費が少ない。
土ゴーレムは落石で簡単に破壊されるが、騎士ゴーレムなら多少鎧がひしゃげるくらいで耐える可能性もある。やはり鉄は偉大な素材なのだ。
このゴーレムを実用化して量産できれば、強力な兵士を低いコストで増やせる。ただ中が空洞のゴーレムは新たな試みなので、動きにまだまだ難があった。
ぎっしり中までないから鉄よりも軽い分だけ、動きを滑らかにしたいんだけどなぁ。今後の改善が必須だな。
おっといけない。レーリア王のことが頭から消えていた。
『皆さまー。敵の大将である元レーリア王は、騎士ゴーレムによって捕縛しましたー。このまま処刑といたしますのでーご注目くださいなー。正門と王から離れてくださいー』
俺の隣にいるレイラスが告げると、その声が周囲一帯に響き渡る。
兵士たちは指示通りに正門から離れ終えた。そして固唾をのんで……ないな。まるでサーカスの題目でも見るかのように、かなり興味深そうに王を眺め始めた。
「どうやって処刑するんだろ。絞首刑? それともギロチン?」
「左右にいる鎧はゴーレムなのか? それなら殴り殺すとか」
「というかここで処刑するのか」
兵士たちの期待には応えられない。処刑方法はすでに決まっているからだ。
レーリア王は仮にもこの国の元王様だ。そんな奴に相応しい死にざまはすでに考えられていた。
――愚王は世直しの巨人に潰されて、新たな女王が国に善政をしく。
ゴーレムをこの国の守護神と崇めていくには、もってこいのシナリオだよなぁ。この国のゴーレム差別を撤廃する策、その締めを行うのはやはり巨人ゴーレムが相応しい。
俺と師匠とフレイアが作りあげた渾身のゴーレムが、今ここに新たな神話を紡ぎ出すのだ! 大きいだけのゴーレムだろって? 神話なんて言ったもの勝ちだからセーフ!
「巨人ゴーレム。手を振りあげろ」
巨人ゴーレムが俺の命令に従って、愚王に向けて手を振り上げた。
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「ひ、ひいっ!? よ、余を誰と心得る!?」
余は甲冑姿のゴーレムたちに放り投げられて、地面を転がされてしまった。そして逃げて行く鎧たち。
目の前には土の巨人がいる。恐ろしく漆黒の身体を持ち、まるで悪魔のような恐ろしい形相をした化け物。しかも頭からは炎を吹き出していて、もはやこの世の存在とは思えなかった。
もはやこんなのは邪神じゃ! 邪神の類じゃ! やはりゴーレムは呪われた魔法じゃ
手を振り上げて、今にも余に向けて降ろそうとしている!?
あ、あんなのをくらっては死んでしまう! 必死に逃げようとするが足が縄で結ばれていて歩けない! い、いやまだだ! 這いつくばって動けば多少は……!
「ぷっ。芋虫みたいに逃げてやがる」
「あんなのが俺達の国王だったのかよ……救いようがねぇな」
わざと大声で叫ぶライラス領兵たちの声が聞こえる。だがそれどころではない! 早く逃げないと潰されるっ……!
え、エルフ! エルフはまだか!? 余と盟約を結んだエルフは!?
『では潰しますー。あなたー、よろしくお願いしますー』
女狐の声が聞こえた。
手を振り上げて固まっていた巨人ゴーレムがみじろぎして、ワシを見下してきた……! ご、ゴーレムごときがワシを!?
そしてその巨大な手がゆっくりと、ワシの元へと向けて振って来た。徐々に近づいてい来る巨大な手、その影でワシの周囲が暗くなる。
「ひいっ!? や、やめろっ!? ワシは、ワシはレーリア王じゃぞ!? この国を統べる貴き血! 偉大なる……っ! 誰か! 助けっ……助けろっ! 財務卿! 兵士たち、誰か誰……」
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巨人ゴーレムが手を地に着けた。圧制を行った愚王はここに圧死したのだ。
『みなさまー。悪王は世直しの巨人に潰されましたー』
「「「「うおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」
我が軍の兵士たちから一斉に歓声がわきあがる。
「「「「いやったあああああああ!」」」」
更に王都の中からも歓喜の声が響き渡って来る。なんと惨い末路だろうか、レーリア王は誰一人としてその助命を望まなかった。むしろさっさと死ねと思われていたのだから。
俺としても因縁が消えて何よりだ。レーリア王のせいで出世できなかったのだから! あの時に俺にまっとうな褒美を与えて貴族にしていれば、こんなことにはなってなかっただろうに。
少なくとも巨人に潰されるという末路はなかった。
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とうとうレーリア王との因縁は潰れました。
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