第135話 巨人、王都に立つ


 レーリア王都を包囲している兵士たちは、すごく気楽そうにお気楽でいた。


 今も王都包囲のために陣を敷いてこそいるが、兵士たちは何と酒を飲む許可まで与えられていた。


「いやこんなに楽な戦はじめてだ。ゴーレムが全部勝手にやってくれるからな」

「危険なことはしなくていい。なのに金はもらえるし今年の税も軽くなる。いやあ、こんな戦なら万々歳だっぺ」

「ライラス領に生まれてよかったよ」


 王都東側周辺の平野で兵士たちは駄弁り合っていた。


 少し遠めに見える王都を肴に飲む酒は美味いようだ。その中で三人組の一般兵たちが喋っているのが見える。


「たぶん今頃王都内はロクに食べれてないだろうなぁ」

「んだんだ、負け戦には参加したくないべ。そもそも正門も壁も破壊されてるから、普通ならとっくに降伏してるはずなのにだ」

「同じ国の人間だし王が降伏すれば終わるが、たぶんしないだろうからな。もうすぐ一斉攻撃が開始されるんじゃないか?」


 籠城戦において門と城壁が破壊されたら、防衛側の負けは確実であった。というよりも本来ならすでに勝負はついている段階だ。だが王は絶対に降伏しないので、王城になだれ込んで身柄を確保する必要があった。


 そうなるとどうしても王都の街も戦いの余波で被害が出る。ライラス軍の兵士が何もしなかったとしても、街中に狼藉者なども現れて酷いことになるだろう。


『これよりー、王都攻略の切り札を使いますー』


 周囲にレイラスの声が響き、兵士たちは一斉に王都に視線を向けた。


「また何か始まるのか。俺ら、東門だったから正門のゴーレム見えないんだよな」

「まあ聞いてはいるし、すごい音もした。門や壁を壊したのは事実なんだろうがなぁ」


 ゴーレムによる攻城戦は正門、王都の西側で行われていた。真逆であるここ東側からは見えていないので生で見れず、風魔法による敵兵の悲鳴や音に味方兵士の噂などの伝聞になってしまっていた。


 ゆえに東側に配置された兵士は少し不満が溜まっている。他の兵士たちの話を聞くたびに、自分達もゴーレムによる雑技を見たかったと。


 もちろん不満と言っても微々たるものだ。地獄の王都で籠城している兵士たちに比べれば、天国にいるがもらえる林檎の数が少ないなどの話。


「また今回もどうせ俺らは噂を聞くだけ……な、なんだ!? 揺れるぞ!?」

「なあ、俺の目がおかしいのかな? なんか超巨大な人が王都を見下ろしてるんだべ」

「あ、やっぱり俺だけじゃなかったか……」


 三人の兵士たちは、いや彼らだけではない。この場にいた大勢の兵士たち、王都を包囲している全ての者が、いやさ王都内の人間すらの視線が全て集まっていた。


 高さ十五メートルにも及ぶ超巨大なゴーレムが歩いて来るのを、信じられないと言った態で眺めている。


 ゴーレム雑技芸終幕、巨大ゴーレムはどこでも見れる。観客に優しいゴーレムだ。





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「もう嫌だ! ただでさえ正門も壁も破壊されて勝てるはずがないのに! あんな巨人までいるなんて!」

「踏みつぶされて殺されちまうんだ! 畜生!」

「おかーさん! 怖いよー!?」


 王都内は大混乱に陥っていた。


 突如として現れた超巨大ゴーレムが、王都に近づいて来て上から見下ろしているのだ。むしろパニックにならない方がおかしい。


 ただでさえ正門や城塞が破壊されて、民衆の士気はすでに限界を迎えていた。まだ兵糧こそ残っているが、いつ街が戦場にされるかもわからない不安を抱えている。この状況で超巨大ゴーレムを前にすれば心も折れる。


 そして巨大ゴーレムは城壁の一部を踏みつぶした。轟音と共に崩れ行くのは壁だけではなく王都民の心もだ。


『王都のみなさまー、この巨人は我が軍の巨大ゴーレムですー。王家が正門や城塞を破壊してなお降伏しないのでー、私は本当に心苦しいのですー』


 王都に響く美少女の声は、街中大混乱に陥っている民衆にも届く。


 この騒動ですらちゃんと言葉を伝えられるのは、かなり強力な魔法である証明だ。


『どうかー、王が降伏するように皆さま説得して頂けませんかー。私たちは同じ国の仲間なのでー、王が降伏すれば皆様のことは決して悪いようにはしませんー』


 そして風に乗って聞こえるレイラスの風は、彼らの心にすきま風のようにスルリと入り込んだ。


「な、なあ。別にライラス辺境伯相手なら降伏してもいいんじゃないか?」

「そうだよな? 他国相手じゃないんだし、そこまで酷い目には合わないよな?」


 王都の民たちは降伏に心が揺れ動いていく。そもそも籠城なんて必要ないのではないかと。


 そもそも城塞都市が栄えた理由は、外の敵や獣に対して安全を確保するためであった。


 この場合の外の敵とは外国の者のことだ。他国の人間に侵略された街は悲惨な目に合うので、徹底抗戦のために城塞が必要なのだ。負けた方が酷い目にあうから。


 逆に日本で城塞都市が流行しなかったのは島国、他国の人間相手に籠城する必要がなかったという理由も大きい。同じ国の同じ民族相手ならば手心が加えられることが多かったからだ。


 レイラスの善政も世間的に有名なので、つまり王都民には徹底抗戦するほどの理由があまりない。王に命じられているから従っていたが、どう考えても負けなのに付き従う理由もない。


「お、王を捕えろー! ライラス辺境伯に差し出すんだ!」

「俺たちの街を守るんだ! あんな愚王にこれ以上従う必要はない!」

「へへっ! 巨大ゴーレム様、足でも何でも舐めさせていただきやす!」


 巨大ゴーレムの強さ、それは本体の戦闘力ではない。


 敵に対する圧力、つまりは大きさそのものが強大なのだ。初手で敵を踏みつぶして瓦解させるよりも、弱った敵の心にトドメを刺すゲームエンダーの運用こそが最適な扱い方なのかもしれない。


 少なくとも余計な被害を出さない策としては、最も適した運用法ではあるだろう。


 



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巨大ゴーレム君で敵を踏みつぶす無双作品もいつか書きたいですね。

ベギラはキャラ的にしないので。


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