第132話 ゴーレムの城攻め①
ゴーレム博覧会を開始してから三日が経った。
王都の周辺はすごく賑わっている。集まった大勢の兵士や、その兵士たち目当てにやってきた商人。おそらく全員で六万人を越える人数が、王都包囲のためにいるのだから。
そしてその中でゴーレム博覧会は大人気だった。まるで動物園やサーカス団のように、娯楽に飢えていた兵士たちに突き刺さった。
おかげで俺のゴーレムの評判や知名度はうなぎのぼりだ。もう十分だろうということで攻城戦を開始することにした。ただし兵士は使わずに。
王都の閉ざされた正門から少し離れた場所。そこでは俺とフレイアと師匠ゴーレム、そしてレイラスが立っていた。
後ろにいるのは百を越えるアイアンネイルゴーレムの集団。更に後方には兵士たちが俺達の戦いを見守っている。
巨大ゴーレムはまだ使わない。今回の戦の目的はもはや勝つことではない、勝つのは当たり前でどう勝利するかだ。ゴーレムの力を積極的にアピールしまくって、国内のゴーレムへの偏見をここで完全に取っ払うのだ。
そしてレーリア国をゴーレム大国にするため、王家にはサンドバッグになってもらう。
「兵士のみなさまー。これよりゴーレムの軍による攻城戦を開始しますー。まずはゆっくりと見学してくださいー」
レイラスの声がこの周辺一帯に大きく響く。風魔法で言葉を乗せて運ぶので、王都を包囲している全兵士どころか王都内の人間にすら聞こえている。
なお事前に兵士たちにはまずはゴーレムで城を攻めることを告げている。手柄を立てたい者から文句が出たりもしたが、そこはレイラスの殺し文句で説得した。
――ゴーレムと一騎打ちで殺し合いして勝てるならー、ゴーレムの代わりに出陣させてあげますよーと。殺し文句というか殺人予告な気がするが細かいことはよいだろう。
「さてあなた、お願いしますね」
レイラスは俺にニコリと微笑みながら甘えた声を出す。これは明らかにわざとだ、兵士たちに自分の可愛さと夫婦の仲睦まじさをアピールしている。
あざとい。だが……っ、可愛い……!
「あ、あの野郎……! 元々は俺達と同じ平民だったくせにっ! 何が違うっ! 何故天は俺じゃなくてあんな奴に恵みをもたらした!?」
「そこ代われー!」
「失せろ! レイラスたんは俺が娶るんだ!」
あー後ろの兵士からの嫉妬の言葉が気持ちよい。
悪いな、レイラスは俺の嫁なんでな! それと最後に告げた奴の顔分かったら絶対ぶっ飛ばす。
「さあゴーレムたち、あの城門を破れ!」
俺の後方に控えていたアイアンネイルゴーレムたちが前に出て、ゆっくりと王都正門に向かっていく。もちろん門は木の扉で固く閉ざされている。
「て、敵襲! 弓を放てぇ!」
壁の上にいた兵士たちから矢継ぎ早に矢が放たれていく。大勢による兵士の矢の雨がゴーレムの土ボディに突き刺さるが、彼らは特に問題なく前進し続ける。
人が射る矢なんぞがゴーレムに通用するかよ。矢は肉に突き刺して出血させるのが目的だが、ゴーレムに血など流れていないので無意味だ。バリスタくらい持ってこないと話にならないぞ。
「き、効かねぇ!?」
「ダメだゴーレムに矢は通用しねぇ!」
「というか俺らの声、周囲に響いてないか!?」
ちなみに敵兵の声も王都周辺にすごく響いている。レイラスの魔法で拡声されて生中継され続けているのだ。まさに公開処刑以外の何者でもなかった。
「ま、魔法使い部隊参上! 我らならゴーレムなんて楽勝だ!」
「おおっ! 来てくれたか! これで勝てる!」
壁の上にフードを被って杖を持った者が十人くらい出てきた。彼らは杖を掲げて何やら唱えている。魔法使いはひとり雇うのでも多額の金がかかる。それを十人となれば王家にしては随分と頑張ったようだ。
「「「岩よ! 眼前の敵を打ち崩せ!」」」
ゴーレムたちの頭上に3mほどの岩が三つほど出現して落ちた。流石に土ボディのアイアンネイルゴーレムでは耐えられず、四体のゴーレムが潰されてしまう。
「ざまぁ! ゴーレムなんぞ雑魚魔法なんだよ!」
「魔法使いに勝てるものかよ!」
「「「岩よ! 眼前の敵を打ち崩せ!」」」
岩が三つ落ちてきてゴーレムが三体潰されてしまう。城壁の上に立つ兵士たちの高揚が声に伝わってくるようだ。
そうして更に岩が落とされ続けた。我がゴーレム軍の半数、五十体が岩によって潰されてしまっている。俺は一度、ゴーレムの進軍をやめさせた。
「しゃあっ! 我ら王都軍が負けるはずがないのだ! 雑魚ゴーレム魔法使いなど恐れるに足らず!」
「さっさと帰れ! この正門は絶対に破れぬ!」
まるで勝ったかのような叫び。いや違う、彼らは勝利したと思っているのだ。
軍の半数が損耗したとなれば戦い続けるのは不可能だ。このゴーレム軍の攻撃は一度取りやめで、また他の手段で攻めてくると。
確かに彼らの考えは間違っていない。軍隊とはひとり残らず死ぬまで戦うわけではなく、むしろ一割や二割の損傷で士気が低下して壊滅や撤退となることも多い。
ただし兵士が人間であったならばの話だが。
「ゴーレム、さらに出撃しろ」
俺は後詰めである五十のゴーレムを更に前進させた。
ゴーレムが魔法使いより弱いのは間違いない。普通の魔法使いならばゴーレムを三体以上破壊できるので、だからこそゴーレム魔法使いは今まで軽んじられていた。
だがそれはもう過去の話だ。
「まだ来るのか! 馬鹿め! 魔法使い部隊、更に迎撃を!」
「いやあの……もう魔力がない……」
「……は?」
兵士たちの間の抜けた声が周囲に響く。
ゴーレム魔法使いが軽んじられていたのは、ゴーレムを一体造るのにすら一年以上かかってしまっていたからだ。ゴーレムを量産できるようになった以上、そこらの平凡な魔法使いの方がゴーレム魔法使いの劣化になった。
ゴーレムたちはゆっくりと正門にとりついて、鉄の爪で門をえぐり始める。
「や、やめろぉ!? 矢を! 矢をもっと! 岩や熱湯も落とせ!? 何が何でも阻止……」
「だ、ダメです!? もう門がもちそうにありません!?」
「ば、バカな!? この門はとりつかれてもそう簡単には破られぬはず……!?」
残念、ゴーレムは怪力なんだよ。人間基準で考えてもらっては困る。
アイアンネイルゴーレムは門に穴をあけて、そこから手でメキメキと穴を更にこじ開けて行く。
そして門にゴーレムが通れるほどの大穴が開く。
「ゴーレム。中に入って内側から門を開け」
「やめてえぇぇぇぇぇぇぇ!?」
ゴーレムたちは門の内側に入って、中から門を開いていくのだった。
「やばい王都の門が陥落した!? 敵が、中に入ってきて……!?」
「もうダメだ! このままゴーレムが入ってきて皆殺しにされちまう!?」
「ああああああああ!?」
敵兵が慌てふためくなか、俺は次の命令をくだすことにした。
「よーし撤退だ。今日はここまで!」
「「「……は?」」」
敵兵の間の抜けた声がひびく。
今回の戦いはゴーレムの力を見せる必要もあるので、もう少し王都にはサンドバッグになってもらわないとな。
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王都逃げてー(
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