第131話 王家の勝ちの目は


「ええいっ! 辺境伯めっ! 王たるワシに逆らうばかりか、王都を包囲など不敬にもほどがあろう! こ、このままでは王都が陥落する可能性もあるのではないか!?」


 レーリア王城の玉座の間。そこでは王が激昂していた。


 すでに王都は完全包囲されていてネズミ一匹逃げられない。ことここに至ってようやく王は焦りを抱き始めている。


「……そうですな。援軍も期待できない絶望的な籠城戦です」


 財務卿は沈んだ顔だ。


 籠城戦とは基本的には、援軍が来ることを期待して時間を稼ぐ戦い方だ。包囲されたら兵糧の補充も出来ず、兵の士気も削れて自軍の戦力がどんどんすり減って来る。


 そもそも勝てるならば城から打って出て戦うべきで、このままでは勝てないから籠城して時間を稼ぐのだ。だが今の王家に味方する者はほぼいないので、多少時間を稼いでも無意味だった。


 もちろん長い間を籠城して耐え続けることで、敵の兵糧や士気を先に尽きさせて撤退させるという策もある。だが大抵の場合は追い込まれている籠城側が先に限界を迎える。


 それに今のライラス領には荷台ゴーレムがあるので、レーリア国のほぼ全土から兵糧を運ぶことができてしまう。


 更にあまりに長引くようならば、兵士の何割かは荷台ゴーレムで輸送して入れ替える。つまり兵糧や士気が削れる恐れも低かった。


 むしろ包囲されている王都側の兵糧や士気にすぐ限界が来るだろう。


「財務卿! どうやったらここから勝てる! あの憎き辺境伯を捕縛してみせよ!」

「……王よ、我らにそのような勝ち目はありませぬ。何とかして頭を下げて和睦を結んで、兵を下げさせることが最大の勝利かと。それすら困難を極めますが……」


 王はその言葉に目を見開いて激怒し、玉座から立ち上がった。


「阿呆か!? なんで余が頭を下げねばならぬ!? 辺境伯は余の許しを得て、領地を統治しているだけの者だぞ!? あのような女狐に頭を下げてなるものかっ!」

「しかしこうなってしまっては……」

「エ、エルフはどうした!? 援軍を求める書状は出したはずじゃよな!? もうとっくに届いておるはずじゃ!」


 ライラス辺境伯軍は宣伝のためにゆっくりと王都に進軍していた。なので時代遅れの王家でもちゃんと情報収集できて、エルフへの援軍も事前に求めることができたのだ!


「まだ返事がありませぬ……今になっても手紙すら来ないのでは……見捨てられたのやも」

「そんなわけがあるか! 王家とエルフは同盟を結んでいるのだぞ! 彼らはワシらを決して見捨てずに助力すると書状を送って来ていたではないか!」

「あくまで言ってるだけ、いや書いてるだけやも。我らが人質など持っているわけでもなく、状況次第で見捨てられてもまったくおかしくは……」

「あり得ぬ! エルフは来るはずだ! このまま時間を稼げば勝てる!」

「…………」

「今こそ余は英雄になる! この厳しい状況を乗り越えることでっ!」


 王は今なおも勝つつもりなのだ。王都を包囲されたこの状況でもなお。


 それは蛮勇か愚行か、決めるのは後世の人間だろう。絶望的な戦力差でも抗った優れた者は、時として賞賛されることもある。


 ただし……そういった者は大抵が自分とは関係のない原因で絶望的な場所に放り込まれて、その上で抗ったことで褒めたたえられている。よくやったと。


 絶望的な状況になった原因がそうなってからいくら活躍しようが、ただのマッチポンプにしかならない。活躍したとしても、『元々お前のせいだろ』と言われるだけであった。


「今こそ! 余の名を歴史に残すのだ! あの女狐の首をとることで!」

「…………」


 財務卿の目が更に細まっていくのだった。

 

 


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 エルフ公国、円卓の間。


 そこでは少数のエルフたちが会議を行っていた。席も大半が空席であり、出席率は極めて低い。


「レーリア国の王都が攻められて、王家から援軍要請が来ています。いかがなさいますか?」

「放置でよいはずです。役にも立たないどころかむしろ足手まといです。また私たちの仕向けた暗殺が失敗しましたが、それもあの者たちのせいでしょう」

「然り。王家が事前に盗賊団などつかったせいで、我らによる暗殺が警戒されてしまったのだ。今までの我らの敗北は全て王家がいたからだ」


 僅かにいるエルフたちはみんな頷いている。


 ほとんどのエルフがこの議会に参加していないのも、王家など議論するに値しないと思っている証明であった。


「では断りの手紙を送りますか?」

「不要だ。まったく最後くらい、自分の持てる力全てでゴーレム魔法使いを相打つくらいの気概を見せればよいものを……」

「終わりくらいは我らの役に立てというものです。散々足を引っ張っておいて」


 王の最後の希望であるエルフは、待っていても一生来ないのであった。


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籠城戦は後詰めがこなければ大体負けます。

ただし真田家などのごく一部のチートや、天下の名城レベルは除くものとする。

でも真田家も策で敵を引き込んでハメて倒したり、そもそも打って出てるので普通の籠城戦かというと……。

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