第130話 ゴーレム博覧会


 王都を包囲している軍のすぐ側、少し開けた空き地。


 そこでは野外ゴーレム展覧会が行われていた。多くの多種多様なゴーレムが並んでいて、兵士たちはゴーレム見学を行っている。近くに看板が立ててあり、ゴーレムの名称や能力も確認できるようになっている。


「これが馬車ゴーレムかぁ。初めて見たよ」

「今のライラス領を繁栄に導いた理由にして、ベギラの出世の相棒になったと聞く」


 馬車ゴーレムを兵士が興味深そうに観察している。


「すげぇ。ゴーレムの中に魚が泳いでやがる……」


 兵士たちはフィッシュタンクゴーレムの中を泳ぐ魚を、楽しそうに眺めていた。この世界に水族館なんてものはないので、かなり貴重な経験になっている。


 このゴーレムによって客に魚をふるまったことが、ベギラの出世の転機となったのだ。


「手の先端が鉄なんだな。確かに身体全身鉄だと出費がかかるからな」

「槍みたいなもんか。先端の必要な部分だけ鉄って」


 アイアンネイルゴーレムを見てその工夫にうなずく兵士。


 開拓においてこのゴーレムほど活躍している存在はない。今もなおツェペリア領で働いているという、ゴーレム史上最もこきつかわれている種類だ。


 兵士たちは多種多様なゴーレムを見て驚いていた。


 このゴーレム展覧会の目的、それはライラス領の力を民衆や兵に見せつけることだ。それと共にゴーレムに対する偏見を取り除くための場でもある。


 レーリア国内のゴーレム差別は以前に比べてだいぶ減っていた。ベギラがゴーレムで出世した上にライラス領がフル活用して、多大なる成果をあげている噂が流れることで。

 

 ならばここで噂の実物を見せることで、真実なのだと完全に知らしめること。それがレイラスの目的であった。なお展覧会開催を提案したのはベギラだが、彼は自分の造ったゴーレムを見せびらかしたいだけであった。


「え、これゴーレムなの? いやただの壁じゃん……」 

「こっちはただの半球じゃん」

「「ゴオオオオオオオ」」

「うわ吠えた!? まじでゴーレムなのかよ……」


 壁ゴーレムや土かまくらゴーレムを見て呆れる者もいる。この二体はあまり動けないので、ゴーレムと言ってよいのか微妙なところではある。


 壁ゴーレムはツェペリア領の城塞都市の壁として、土かまくらゴーレムはベギラがツェペリア東部の土地開拓時の仮住宅につかったものだ。


「ち、小さいな……このゴーレム何の役に立つんだ?」

「雑草抜きに使うらしいぞ。通常のゴーレムだと畑の作物を潰してしまうから」

「あー、言われてみればそうだな」


 机に載せられた小人ゴーレムを見ながら、兵士たちは「なるほど」と呟いていく。


「えーっと……あれ? さっきも展示されていたのに、何で普通の木ゴーレムが……なになに、ミクズ処刑ゴーレム(実物)……」

「あー……あの大披露宴で暴れて、腰をへし折られて死んだって噂の……」


 ミクズを粉砕した木ゴーレムはレイラスによって保管されていた。まるで伝説の怪物を殺した剣のように、こんな時に利用するためだけに。


 いつかこのゴーレムも魔剣ならぬ魔ゴーレムと呼ばれる時が来ないだろう。しょせんはミクズだ。殺したところで特にすごい力が宿ったわけでもない。


「え、えっと! これからゴーレムの力をお見せします! あうう……」


 更に会場の端の方では、フレイアが大勢の兵士の前でゴーレムを実際に動かしていた。アイアンネイルゴーレムで地面を耕す実演だ。なお彼女はすごく恥ずかしいようで顔を真っ赤にしていた。


「すげぇ、ありゃ便利だなあ。うちの村にも一台欲しい」

「わかるぜ。それとあの女の子も欲しい」

「ダメだぞ。あの娘はベギラのものらしいからなぁ……あのハーレム公言野郎の妻にちょっかいかけたら、生きながらゴーレムにされちまうぞ」


 兵士たちは各々勝手なことを口にする。


 ベギラはもはや妖怪みたいな扱いを受けていた。散々ゴーレムを引き連れていた上に、意味不明なものを作りまくるので是非もなく自業自得だが。


 その証拠にベギラは呼び捨てされていた。なまはげや鬼に敬称をつける者はあまりいないように。


「わ、私はベギラ様の弟子なので……」


 少し落ち込んでいるフレイア。なおこの後の彼女はレイラスの口車にのせられて、ベギラを夜這いに行く。しかもゴーレムを連れて力ずくなのだがそれは別の話である。


 他にもフレイムゴーレムや車輪ゴーレムなどベギラ以外が造ったゴーレムや、普通の土ゴーレムや岩ゴーレムなども展示されている。


 巨人ゴーレムこそ王都攻略で使うので並べられていないが、その時になれば兵士たちは嫌でも見ることになる。屋敷ゴーレムも近づけはしないが遠目で見える場所に配置されていた。


 まさに現在のベギラのゴーレム集大成、今まで彼が造った全てのゴーレムが見られる場になっていた。


「すげぇな。こんなに多くのゴーレムを造ってたのか、ベギラは」

「今まで造ったゴーレム全て公開してるってやつか」

「あ、いえ……実は一体だけ展示されてないのがありまして……」

「え、そうなの? 何で展示しないの? 用意できなかったの?」

「あ、いえ……レイラス様がどうしても許さなかったと言いますか……」


 フレイアはしどろもどろになりながらも、兵士にたいして小さく呟いている。


「辺境伯が許さなかったってどんなゴーレムなの? すごく気になるんだが」


 ひとりの兵士が発した言葉に、他の兵士たちは一斉に頷いた。


 フレイアは少し逡巡した後に申し訳なさそうに。


「その、※※ゴーレムで……」

「「「「うわぁ……見たくねぇ」」」」


 


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知将レイラス。鳴かぬなら、鳴かせてみせよう、ホトトギス。

なお彼女は覗いて(ry

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