第129話 王都包囲
王都出陣までの一週間、俺は思う存分ミレスを弄んだ。
彼女は首筋が弱かったり他にも弱点があったりしたが、一言で言い表すと可愛かった。
そうして出陣の前日。俺はレイラスと執務室で争っていた。
「レイラス! なんでそこまで頑ななんだ! 絶対に俺の提案は間違っていないはずだっ!」
「あり得ません。いくら何でも認めるわけにはいきません」
俺の叫びに対して彼女は張り付いた笑みで返してくる。
何でだ……何で納得してくれない……どうして……!
「何で……ゴーレム屋敷を軍に帯同させることを許してくれないんだっ!」
「こんなお化け屋敷を世間に広めたら、私がどう思われると思っているのですか!?」
「家をゴーレムにするちょっと過剰ラブな美少女としか思われないって!」
「それを変人と言います!」
レイラスは王都への進軍に、屋敷を連れて行くことを納得してくれない!
「王都に向かうには最低でも一ヵ月かかる。その間ずっと馬車で寝るよりも、屋敷で寝た方が快適極まりないだろ!」
「ついてきた兵士たちが歩いている屋敷を見て、いったいどう思うか考えてください」
「そりゃ『やだあの屋敷すごい……便利だから俺の家もあんな風にしたい』だろ」
「あり得ないです。すごいとは思ったとしても住みたいとは考えないでしょう。家が動いたら困るでしょう」
「いやいや、動く家ってのはありだ」
現代地球ではキャンピングカーとかあったからな。あれだって家が動いているわけだし、なら屋敷ゴーレムだって問題ないはずだ!
ちょっと巨大で四足歩行で派手に動くから目立つだけで!
「俺はメイルやミレス、そしてレイラスが安心して寝られる場所を提供したい! そのためにもこの屋敷ゴーレムを!」
「貴方がミレスさんと一緒に寝るためでは? ……ミレスさんにあんなことまでしておいて……」
「ん? なんか言った?」
「何も言ってません。あの屋敷を軍に帯同するのは、ライラス家の恥になるのでダメです。お家の名に傷がつきます」
ライラス家の恥(直喩)。大丈夫だ、仮に恥になるとしても家名じゃなくて屋敷そのものだけだから。
レイラスは少し不機嫌そうに怒っている。だが今までの経験上、この怒り混じり状態の彼女はかなり私情を挟んでいる……押し倒せば、いや押せばいける!
「レイラス……俺はどうしても屋敷ゴーレムを連れていきたい」
「ダメです、寝泊りは馬車で十分です」
「だが待って欲しい。エルフが暗殺を仕掛けてきたらどうする?」
「…………護衛兵士を多めに配備します」
レイラスの顔が少し引きつる。彼女のことだからこれくらいは想定内だろうが、屋敷を連れて行きたくないので他で補うつもりだ。
だがな、屋敷ゴーレムほどの防衛力はそうそうないぞ! そこらの兵士がいくらいたところで、屋敷ゴーレムの内部の方が絶対に安全だ!
俺はレイラスの両手を掴んで握った。
「えっ? べ、ベギラ……?」
「お願いだ、レイラス。俺はメイルやミレス、そしてレイラスを危険にさらしたくないんだ……! ゴーレム屋敷はそのために建てたんだ……!」
「あ、えっと……」
レイラスは顔を少し赤くしながら俺から少し顔をそむけた。
「レイラス! エルフがまた何か仕掛けてくる可能性は高い! その時に屋敷ゴーレムがいなくてレイラスに何かあったら、俺は一生後悔するだろう! 頼む! 屋敷ゴーレムを! 軍に帯同させてくれっ!」
「……わ、わかりました。仕方ないですね……」
「しゃあっ!」
俺はレイラスから手を離してガッツポーズする。
これで快適に旅ができるし、屋敷ゴーレムの性能データも取れる! 服とか色々とカバンに詰め込む必要もない! 軍帯同中でもミレスと寝れる! 俺の力作であるゴーレム屋敷を大勢に見てもらえる!
「……邪なことなど考えてませんか?」
「考えてないです」
いかん、レイラスがジト目でこちらを見てきた。
いやレイラスたちの安全確保が最大の理由だぞ。それは断言するぞ。他にも付属的な目的が大量にあるだけで。
「あ、屋敷に旗とかつけていい? ライラス領の」
「やったらー、貴方を屋敷の屋根に磔にして行軍しますねー」
「調子のってすみません」
そうして翌日、俺たちの帯同したライラス領軍は進軍し始めた。俺は屋敷の中で窓から外を覗いて兵たちを見守っている
「うわぁ……あの屋敷本当に動いてるよ……以前に夜に屋敷が動いたとか噂あったけど」
「頭おかしいだろ……どんな発想してたら家を歩かせるんだ?」
「やっべぇ、ライラス辺境伯すげぇよ。俺だったらあんな家に住むの嫌だよ」
兵士たちは屋敷に羨望の目を向けてくる。ふふふ、やはり作った物が評価されるのはよいものだっ!
そうして一ヵ月半ほどかけて、レーリア国内を進軍して城塞都市である王都に到着した。
本来なら一ヵ月もかからない道のりであったのだが、街を通るたびにレイラスが演説を行ったために想定通りに遅れていた。元から考慮していたので問題はない。
軍を長く維持するほど出費は増える。だが彼女が今後の国民に顔と名前を売るためなら、これくらいは必要経費だろう。俺達の目的はもはやこの戦いに勝つことではなく、今後のレーリア国を統治することだからな。
ちなみに今回の軍の総大将はレイラスだが、この進軍を命じたのはアイリーン第三王女ということになっている。王女が命じてレイラスが討伐することで、私心での侵攻ではないと言い訳してるのだ。
なおアイリーン第三王女とレイラスはズブズブで、諸侯もそれを当然知っている。本当に大義名分のガワだけ整えましたという感じだ。黄金(金メッキ)みたいな。
当然だが王都は俺達を歓迎してくれるはずもなく、城門などは完全に締まり切っていた。なのでライラス軍は城塞都市を包囲し始めている。
俺達も都市の城塞のすぐ近くにいて、王都の壁を眺めていた。
「今日は兵士たちに休息をとるように言いなさいー。明日から攻城を行いますー」
レイラスは楽しそうに笑いながら伝令の兵士に命じる。兵にも進軍の疲れがあるので休ませるのは理にかなっている。
「さてと……じゃあ俺は頼まれたことを始めるとしますか」
「お願いしますー」
レイラスに見送られながら、俺は兵士たちの元へ近づいていく。
今回の攻城戦はライラス領の威信を見せつけること。そのためには俺達の軍事力の一端を民たちにも教える必要がある、なので……。
「さあさあ! 今晩はゴーレム博覧会を行うぞ! みんな、是非来てくれよ!」
今まで製造したゴーレムを見せびらかすことにした。ただし一体を除いて。
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除かれるゴーレムを予想してみよう!
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