第128話 レーリア国民の反応


 ライラス領は全土で大騒ぎになっている。


 理由は簡単だ、ライラス辺境伯が物資を集め始めているという情報が出回った。たったそれだけで商人たちは儲けるチャンスと鼻息荒く、兵士たちは手柄を立てるために武器を揃え始めた。


 ツェペリア領の城塞都市でも、当然ながらその噂は広まっていた。


 街の市場で領民たちが楽しそうに話し合っている。


「聞いたか。とうとうライラス辺境伯が王家を攻め滅ぼすらしいぞ!」

「戦争が始まるなら儲けるチャンスだ! 物資を買い揃えて進軍する兵士に売りつける!」


 この地には目端の利く者たちが集まっている。彼らは当然ながらこの儲け話を逃すはずがなかった。大勢の兵士の進軍は、つまり大勢の人間が移動することになる。


 ならば大量の食料が必要になるのはもちろん、他にも様々な物資が要求される。例えば娯楽用の酒や女など、進軍する兵士たちは従軍により給与をもらっている。懐に余裕があるので財布の紐が緩んだよいお客様だ。


「王家とライラス辺境伯、どちらが勝つか賭けようぜ。俺はライラス辺境伯な」

「ふざけんな。そんなの賭けにならねぇよ」


 領民たちの間でも王家が勝てる見込みはゼロと分かられていた。それほどに王家は弱体化していて、ライラス領は強大な勢力になっている。


「俺達からしたら都合がよいけどな。なにせライラス辺境伯の夫は我らがツェペリアの領主様だからな! きっと今後は更に美味しい思いをできるぜ!」

「噂ではもうベギラ様は、ツェペリア領主やめるって話だけどな。今も実権はトゥーン様が持ってるし」

「それでもツェペリア領は間違いなく厚遇されるはずだぜ。いやー、ツェペリア領に生まれてよかったよ」


 城塞都市が建った時点でツェペリア領民だった者は、基本的に儲けていた。元々持っていた土地の価値が跳ね上がったためだ。しかも城塞都市の人口を増やすために、格安で家を建てられたのも大きい。


 レーリア国ではこんな言葉まで生まれていた。『ツェペリアの農民貴族』、農民でありながらそこらの底辺貴族よりも成り上がった者という意味だ。


「よしなら王家がいつ負けて滅ぶか賭けようぜ。それならいいだろ?」

「受けてたとう。俺はライラス辺境伯が王都を包囲してから、二ヶ月ほどで降伏と予想するぜ」

「いやー仮にも王都だし籠城の用意も整えてるだろ? 半年は粘ると見たな」

「ふっ、甘い甘い。あの知将ライラス辺境伯に対するは恥将レーリア王だぞ? 一ヵ月だ、一ヵ月で勝負は決まる!」

「いや流石に厳しくねぇか? 王都は鉄壁の城塞都市だぞ。どんな無能が指揮しても数ヶ月は耐えられるとまで言わしめた。一ヵ月は無理無理」

「はっ。後でほえ面吐くなよ」


 領民たちにとって王家の動向、というか王家がいつ滅ぶかは興味の的だった。


 滅ぶまでの時間が長いほど軍が長く王都を包囲する。軍が長く滞在するほど物資が必要になるので、より多くお金が使われるので経済が活性化する。


「しかしあの四足ゴーレムすげぇよな。あれのおかげでここから王都まで半日以内に行けるし、物資も簡単に運べるからいくらでも籠城できる」


 領民たちもすでに荷台ゴーレムの性能を知っている、というよりも現物を見たことがあった。荷台ゴーレムはこの城塞都市にも頻繁にやって来るので、見ようと思えばいつでも見れる。


 今や荷台ゴーレムは商人たちにとって憧れの的だった。


「でもあのデザインは微妙だけどな」

「確かにな。四足ででかいくせに気持ち悪いくらい速いし」

「見た目と速度が合ってないよな」


 なお普通の街人たちには不評だった。


 大きいし速いしデザイン微妙で足音うるさい。残念ながら人気の出る要素はなかった。地球の新幹線や飛行機はデザインを格好良くしているが、荷台ゴーレムはそんな工夫などかなぐり捨てている。


 なにせベギラも師匠ゴーレムも重視するのは性能だ。見た目や見栄えなど二の次どころか三の次。だからこそ※※ゴーレムだって作りあげてしまう。


「でもさ。この戦いが終わったら荷台ゴーレムを、一般市民でも乗れるようにする噂があるぜ。速いのだけは間違いないし、乗って遠くに旅に出てみたいかもな」

「それはいいな。あれなら他国だろうが一瞬でつきそうだ」


 笑い合う領民たち。


 この世界では旅は一般的ではない。生まれた土地から離れずに一生を過ごすのは珍しくもないし、徒歩で移動するとなれば少し離れた程度の場所でも時間がかかる。


 冒険者などの定住しない者はともかく、庶民にとって遠出するということは自分の家などを捨てるに等しかった。そんな中で荷台ゴーレムの誕生は、貴族のみならず平民にも期待を持たせていたのだ。


「乗合馬車みたいに荷台ゴーレムに乗れる日が来たらいいなぁ」

「そうすりゃ王都にも遊びに行けるもんなぁ」

「おいおい、現王都はもう滅ぶかもしれんぞ。ライラス辺境伯が王になるなら、たぶんリテーナ街が王都になるんじゃね?」

「じゃあリテーナ街に遊びに行くか。頼むぜ、我らが領主様! 荷台ゴーレムを量産してくだせぇ!」


 平民が不自由なく旅行に行ける。


 そうなれば国の経済は更に活性化していき、レーリア国をより富ませる力となる。彼らはレーリア国の未来に期待していた。


 ツェペリア領民だけではなく、レーリア国のほぼ全ての民がレイラスに期待しているのだ。彼女ならばこの国をもっと豊かにしてくれると。そしてベギラの荷台ゴーレムの量産を待望している。


 王都の民以外の者は全員がだ。もはや民の心も王家から完全に離れていた。


「そのためにもさっさと王家滅んでほしいな」

「そうだな」


 それと同時に王家を邪魔者と見ているのだった。


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