第127話 出陣用意


 巨人ゴーレムのコアを製作してから一か月半が経過した。俺達は屋敷の執務室に集められていた。


 レイラスが真剣な表情で俺達を見た後に、何回か見せられた紙を取り出した。


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レイラス考案王家崩壊術(秘)

済.王家が滅んだ方がよいと諸侯に思わせる。

済.諸侯もしくは民衆から討伐を乞われて、

  王家を滅ぼす形にする。

済.圧倒的な力の差を見せつけて降伏させる。

済.一年以内にカタをつける。

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「私の考案した崩壊術の内、三つを満たしました」


 ラレヤ盗賊団と王家の繋がりを証明したので、諸侯たちは王家を残しても仕方ないと考えた。


 更に王家が他国であるエルフと結託して、ライラス派の貴族を何人も暗殺しようとしたように見せかけた。これで諸侯は王家の討伐を願っている。


 荷台ゴーレムによる運搬無双もあって、王家派の切り崩しも完了したので王家に味方する貴族はほぼいない。巨大ゴーレムやライラス領の兵士を動員すれば、例え歴史に名を残す軍師だろうが勝てる見込みのない戦力差を用意した。


「残りは『一年以内にカタをつける』のみですー。ならもう分かりますねー?」


 俺達は全員がレイラスの言葉に頷く。


 後は時間との戦いになる。つまり……。


「王都へ出陣するんだな」

「はいー。すでに兵を集め始めていましてー、二週間もあればこの街から五千人以上を派兵できる予定ですー。諸侯にも派兵を要求するのでー、最終的に王都包囲時は四万人ほどは行くかなとー」

「よ、四万人!? 多すぎないかな!? どれだけお金を使うつもりなの!?」


 ミレスが悲鳴をあげる。元商人である彼女はそういった計算が早い。


 四万人の軍勢、現代地球の戦争ならばよくある話だろう。だがこの世界において万を超える軍勢を揃えるのは、そうそう簡単な話ではない。


 当然だが四万人の兵士を雇うのに大量の金がいるし、行軍中の兵糧だって負担しなければならない。ここで厄介なのは兵糧を運ぶ兵士や馬車も大勢必要だということだ。


 しかも移動速度も徒歩なのですごく遅いので、万を超える軍勢を用意するのは難しい。


「国中に宣伝しなければなりませんー。私たちが王家を討伐して、レーリア国の盟主となることを。そのためには大勢の行軍は必須なのですよー。少数で王家を倒したとしても目立ちません」

「いやそうかもしれないけど……」

「それにー、四万人の行軍ですが普通に比べてだいぶ負担は少ないのですー。荷台ゴーレムや馬車ゴーレムを運用して、兵士や兵糧などの物資運搬をさせますー。遠くからでも兵糧を買い足して運べるのでー、そこまで負担はないのですー」


 レイラスはニコニコと笑っている。


 俺の荷台ゴーレムや馬車ゴーレムがあれば、輸送の手間はだいぶ省ける。荷台ゴーレムはまだそこまで数がないので、五千人全員は運べないだろう。


 だが例えば半分の二千五百人をゴーレムで運んで、残りは徒歩進軍させるだけでも負担は大きく減る。それに四万人が一同に会すればその地の食べ物が減り、麦が値上がり兵糧に本来なら負担がかかる。


 だが兵糧を荷台ゴーレムで輸送する想定なら、安い場所から買い足せる。


「うふふー。荷台ゴーレム最高ですー。妻想いの旦那を持って私は幸せですー」


 レイラスはすごく幸せそうに笑っている。


 だいぶ費用が浮くから嬉しいに決まってるよな。俺としても役に立てたなら何よりだ。


「そういうわけでー、私たちも後一週間ほどで出陣ですー。私たちは軍に帯同して行軍しますので準備をしておいてくださいー」

「え? 俺達もついていくの? 荷台ゴーレムで先に行くんじゃなくて?」


 正直意外だ。レイラスは忙しいので行軍の時間がもったいないと、さっさと荷台ゴーレムで王都まで直行すると考えていた。


「そうしたいのは山々ですがー、大将が行軍した方が都合がよいですしー、民への顔見せも必要でしょうー」


 よい笑顔のレイラス。これは王都にライラス領と王都の間にある他領地で、民に対して色々宣言したりするんだろうなぁ。


 この戦をもってレーリア国は私のものですーとか。完全に勝ちを確信してるから、勝つ前提でこの後のことを考えているようだ。


 ところでそれはそれとして気になっていることがある。


「なあ、ミレスって今回の兵糧準備とかに噛んでないのか?」


 俺はミレスに視線を向ける。彼女は何だかんだでレイラスを色々と手伝っていた。


 行軍進路であるツェペリア領にも明るいので、間違いなく色々と助けているはずだ。でもミレスは予定した兵数すら知らなかった、これはおかしい。


 兵の総数すら分からないのに仕事を手伝えるわけがないのだから。


 するとミレスは顔を赤くしながらもじもじし始めた。


「うふふー。ミレスさん、私から言いましょうかー?」

「じ、自分で言うよ……ぼ、ボクは今回は手伝う予定はないよ。それとツェペリア領のこともひとまずは全部手放したよ」

「な、なんだとっ!?」


 ミレスは今まで仕事があった。だから彼女が動けなくなるのは困るので、色々とできなかった。だが……やることがないということはっ……つまりっ!?

 

「そ、その……もう抱かれても……いいよ……?」

「レイラス! まだ話はあるか!」

「もう終わりですー」

「よしゴーレムハウス! ベッドと寝室の準備!」

「ゴオオオオオぉォォォォ!!!!」


 屋敷から叫びが轟き、なんかドタバタと音が鳴り始めた!


「ベギラ! 屋敷を動かさないでください! 私の屋敷を魔物みたいにして! 平時は動かさないって約束しましたよね!?」

「今は平時じゃない! 俺にとっての大事だ! 行くぞミレス!」

「え、あ、はい…………」


 顔を真っ赤にしたミレスの手を掴んで、廊下をかけていく。


 そうして俺はミレスと一晩を共にしたのだった。



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ゴーレムハウス君、割と便利そうですね……。

それと★2000突破しました、ありがとうございます!

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