第125話 再び目覚めるは巨人?


 俺達はライラス領屋敷の執務室に集まっていた。


 俺とアイリーン第三王女の婚約が決定して、その知らせもすでに諸侯へと届いている。これで王家は更に王手をかけられた。


 いや正直言うともう何度も『待った!』がかかっている。ようは詰みの状態なのに王家が粘っているだけな気がするが……あいつら投了なんてしないだろうからなぁ。


「さて私の示した王家崩壊術4か条の内、3つは完璧に満たしましたね」


 レイラスが机の上に紙を広げる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

レイラス考案王家崩壊術(秘)

済.王家が滅んだ方がよいと諸侯に思わせる。

済.諸侯もしくは民衆から討伐を乞われて、

  王家を滅ぼす形にする。

3.圧倒的な力の差を見せつけて降伏させる。

済.一年以内にカタをつける。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「後は『圧倒的な力の差を見せつけて降伏させる』だけなんだね。でも……これ可能なの? 王家が諦めなかったら無理じゃない?」


 ミレスが紙を見ながらため息をつく。


 俺もそう思う。まともに降伏する王ならば、すでに停戦なり講和なりの動きがあるはずだ。それがないということは徹底抗戦してくる考えなんだろうなぁ。


「最悪、王はもうよいですー。周囲が諦めて降伏するように仕向けてやればー」

「レイラスちゃん、王の降伏は諦めちゃうのです?」

「できれば王に降伏させた方が話が早かったのですがー、ここまで追い込んでも無理そうなら時間の無駄かなーと。もう王家の味方をする在地貴族は一家だけなのにー」


 レイラスは笑顔を浮かべてこそいるが、内心を考えるとかなり渇いた笑いっぽいな。王に呆れているのだろう。


 ただでさえレーリア国の王家派はもうほぼ残っておらず、王の直轄地以外はほぼライラス派だ。つまりレーリア国の実権はすでにレイラスが握っていると言ってよい。


 言うならば大坂冬の陣直前の豊臣家から、豊臣の威信と諸侯の故豊臣秀吉への恩義をなくした感じだ。もう何も残ってないな……なんでこの状況で立ち向かおうとするのか。


「本音を言いますとー。今の荷台ゴーレムの暴れを見せつけた時点でー、降伏してくれないかなーと思ってましたー。実際にアイガーク王は降伏して従属しましたしー」

「敵が無能すぎて面倒になるってのも斬新だな」


 普通は敵が無能なら助かるものなのだが、ことここに至っては現状を理解できない無能であるが故に厄介であった。降伏してくれたらアイリーン第三王女(傀儡)の元に、レーリア国がひとつにまとまることが出来るのに。


 いやこれも割とひどくはあるが、でも今の王家にレーリア国を任せておけないことだけは確かだ。それに暗殺まで仕掛けられた相手だから、潰さないという選択肢はないのだから。


「一応は最終宣告を送っておきますー。これでも降伏しないならば王は必ず処断するとー。でもどうせ聞かないでしょうからー、圧倒的な力で周囲の心を折りたいのですー。どうするかを考えましょうー」

 

 レイラスは笑っているが不機嫌オーラをまったく隠していない。王がまったく思い通りに動いてくれないのでいら立っているのだろう。彼女は想定外のことが嫌いなのだ。


「圧倒的な力で敵の心を折るなら任せて欲しい」


 俺は自信ありげに笑いながらレイラスに告げる。するとメイルやミレスが納得したように頷いた。


「あの時のやつです?」

「だろうね。あれはすごかった」


 レイラスだけはその場におらず見ていない。なので知らないはずだが、彼女もまた心当たりがありそうに微笑みかけてくる。


「私も報告で聞いてますー。巨大ゴーレム、また製造できますかー?」

 

 巨大ゴーレム。かつて元スクラプ領を蹂躙して、敵を降伏に追い込んだ切り札とも言えるゴーレムだ。


 このゴーレムの前ではいかなる城壁も踏み越えるので意味をなさず、その高層ビルにも劣らぬ巨体は相対する者に絶望を与える。まさにゴーレム界最強の決戦兵器だった。


 過去形な理由? 今は師匠ゴーレムとどちらが強いか怪しいからだ。


 巨大ゴーレムは大きさの割にやや丈夫さにかけるので、魔法使いを多く揃えれば倒される危険はある。対して師匠ゴーレムは大勢の魔法使い相手でも、負けるビジョンがあまり浮かばない。


「もちろん造れる。おそらく一ヵ月ほど時間はかかるがな」

「あらー? 以前は数ヶ月かかってませんでしたかー?」

「……なんで知ってるんだ? レイラスってあの当時は俺と手紙のやり取りくらいしかしてなかったよな?」


 あの当時はレイラスと俺は同居していなかった。彼女は基本的にこの街にいたはずで、俺はツェペリア領主やってたのに。


「未来の旦那様のことを色々知りたかっただけですー」


 はぐらかすレイラス。本当に何で知ってるんだろう。ミレスやメイルに視線を向けても、彼女らも心当たりがないようで首を横に振ってるし……。


「あの時点では俺を未来の旦那とか絶対考えてなかっただろ」

「どうでしょうねー。それよりなんで一ヵ月で製作可能なのですかー?」

「あの時よりも更に俺の技量が上がったし、師匠やフレイアにも手伝ってもらう」


 ゴーレムコアを俺の身体から出して魔力を貯めた後、師匠やフレイアにも注ぎ込んでもらうつもりだ。


 そうすればおそらくより短期間での製造が可能になる。まだ試してないけど理論上可能なはずだ。


「なるほどー。では期待して待ってますねー。もし王家を滅ぼすことができたらー、何かご褒美を考えないとですねー」

「レイラスを抱きたい」

「…………考えておきますー」


 レイラスは逃げるように去って行ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る