第123話 正当性を得るために


「さて王家が盗賊を使ったこと、そして他国の者であるエルフを利用して諸侯の暗殺を仕向けたこと。これで私のあげた王家討伐条件の二つが満たされましたねー」


 俺達は引き続き食堂で話をしている。


 レイラスは以前に俺に見せてきた紙を食卓に広げて行く。



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レイラス考案王家崩壊術(秘)

1.王家が滅んだ方がよいと諸侯に思わせる。

2.諸侯もしくは民衆から討伐を乞われて、

  王家を滅ぼす形にする。

3.圧倒的な力の差を見せつけて降伏させる。

4.一年以内にカタをつける。

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「1と2は達成しましたー。後は3と4ですねー」

「3はともかくとして、4は早く攻めるだけでいいんじゃないか?」

「早く攻めても泥沼化しては意味がありませんー。今は諸侯も王家討伐で一致団結したとしても、勝った後は権力争いになりかねませんー。そうならないように私たちによる統治の正当性を得たいのですー」

「む、難しいのです……」


 メイルが頭を悩ませている。

 

 勝利した後にどうやって権力を握るかは重要だ。例えば過去の日本でも鎌倉幕府が討伐された後、足利尊氏と天皇の間で権力争いが起きた。


 レーリア国だって同じようになる可能性はある。そうなると間違いなくグダグダになるので、一年以内にカタをつけるのは不可能だ。正当性がなければ国を掌握するのに時間がかかる。


「でも俺達で統治の正当性を得るなんて難しくないか? 方法が思いつかないんだが」


 そんな簡単に国を支配する正当性など得られない。だから皆、力で掌握して逆らう者を潰していくのだから。


 レイラスは俺にニコニコと微笑みかけてきた。


「ベギラ、よーく思い出してくださいー。貴方は以前に公権力を得られる機会がありませんでしたかー?」

「公権力? そんなのあったっけ…………あっ」


 よーーーーーーーーく思い出すとあった。あったぞ。


 正直記憶の片隅に封印してたけども……以前に混然としてたことが。


「……もしかしてアイリーン第三王女?」

「正解ですー。貴方が彼女を娶ってしまえばよいのですー」


 アイリーン第三王女。あの現レーリア王の娘だ。


 以前に一度だけ話したことがあるが、その時に受けた印象は聡明な印象の人だった。レーリア国がライラス派と王家派に二分するのを、俺と婚姻して阻止しようとしていた。


 あの時点で俺が彼女と結婚すればツェペリア領は王家派になり、ライラス派の弱体化につながったからな。そうすれば王家を倒すのが難しくなり、レーリア国は騒乱で荒れることはなかった。


 酷いムーブを繰り返す王に対して、アイリーン第三王女はよく考えていたイメージだ。トンビがタカを産む……いやまともに鳥してるトンビに失礼だな。コウモリがタカを産んだみたいな。


「俺がアイリーン第三王女と婚姻を結んで、ライラス派に王家の血をとりこむ。それなら今の悪しき王家を倒した後、俺達が王家の血を継いでるから国も継ぐと宣言できると?」

「そうですー。このレーリア国の争乱はライラス派と王家派の争いではなくー、旧王家と新王家の争いにするのですー」


 酷いゴリ押しだが理にかなっている……というよりは利にかなっている? 俺達が新王家となるならば、今の王家の支配体制をそのまま流用できるかもしれない。


 周辺諸侯が権力を握ろうとする問題も解決だ。元々俺達が武力を持っている上で、潔白な正当性まで得たら彼らの出る幕はない。


 権力争いが始まる前に幕引きになるというわけだ。諸侯は権力簒奪を諦めて俺達に従うだろう。


「でも以前に断ったぞ? もう俺は完全にライラス派だし、アイリーン第三王女側が婚姻を断るのでは?」

「それは大丈夫ですー。実は彼女とは内密に連絡を取り合ってましてー、あなたとの婚姻について納得していますー」

「でもそれだと一番偉いのはアイリーン第三王女になっちゃう気がするのです」


 メイルの疑問はもっともだ。あくまで俺達はアイリーン第三王女を担ぎ上げて、今の王家を潰す。つまりアイリーン第三王女が今後の国を統治していく構図になるのだから。


 ただ……ぶっちゃけそこまで気にする必要はない。何故なら。


「メイルさん。ただの神輿なんてどうでもよいのですー。まともに力を与えるつもりはないのでー、実権は全て私が握りますー」

「ひっどい……」


 ものすごくよい笑顔をするレイラスに、ミレスが呆れた声をあげる。


 神輿を担ぎ上げて実権は全く与えず、統治の正当性を得るためだけの道具にする。なんかどこかで聞いたことのある話だなー。いずれアイリーン第三王女を追い出したら完璧。


「実は私がアイリーン第三王女と婚姻も考えたのですがー、流石に女同士なので難しいのでー、ベギラに娶ってもらいましょう」

「そんなの考えてたのか……」

「その方が権力の都合がよかったものでー」


 言いたいことは分かる。王配ならぬ辺境伯配の俺がアイリーン第三王女と関係を持つよりも、辺境伯であるレイラス自身が持つ方がよい。権力を誰が持っているかが分かりやすいからな。


 でも流石に無理がある……現代地球ですらなかなか認められないのに、この世界レベルの文明で女同士の婚姻はな。


 しかし瓢箪からコマというか、まさか王女殿下もわが物にできるとは。本音を言うとかなり嬉しい。レイラスか王女かの二択だと思っていたのに、両方とも得られて好き放題できるとは俺は豪運の持ち主では?


 いっそいずれはロイヤルな二人まとめて一緒に寝て……!


「あ、子供は作ったらダメですよー。というかあなたとアイリーン王女は外見上だけの夫婦にしますー。ほぼ会わせませんのでー」

「え”っ?」

「いずれ国が落ち着いたら別れてもらう予定ですしー、下手に情を移したり子供をもたれると面倒なのでー」

「いやほら王女殿下もひとりでは寂しく……」

「アイリーン王女からも承諾は得ていてー、彼女も国が荒れないために協力してくださるのですー。いずれは別れるのまで前提で話していますよー」


 ……そ、そんなバカな。レイラスと王女を二人まとめて相手する俺の夢は……。


「おーい、ベギラー? ダメだ固まっちゃってる」

「あなた、しっかりするのです」

「あらあらーどうしたのでしょうー。勝手に妙な夢を見てそれが潰えたのでしょうかー? …………私というものがありながら、妙な妄想をするからです」



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大義名分は戦争を始めるための名分。正当性は国を継ぐための正当性です。

後者は教科書で嫌ほど出てくる征夷大将軍のノリに近いかも……? 


なおベギラの夢は五秒で潰えました。たぶんこれが最速だと思います。

久々にゴーレムが一切出てこない話を書いた気がする。

いや前話も明確には出て来てないけど……。

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