第122話 大義名分


 地下牢の拷問部屋。そこではレイラスとメフィラスが、捕縛したエルフのひとりに対して尋問を行っていた。


「少し聞きたいのですがー、貴方達は何の目的で私たちを襲ったのですかー?」

「さっさと私たちを解放しろ! 人間風情がエルフを捕らえるなど決して許されることではない!」

「狙ったのは私の命ですかー? ベギラの命ですかー? それとも別のものですかー?」

「これだから人間は愚かだ! 自分達の格すら理解できずに我らに歯向かうのだから!」

「……メフィラスー。このエルフ、言葉が通じませんがー、どんな頭をしていたらこの状況で偉ぶれるのでしょうー?」


 エルフは縄で捕縛されながらも強気な態度で、流石のレイラスも困惑していた。


 捕縛されてなおプライドから強い態度をとること。それ自体は人間だってやることだ。己の矜持を守るために殺されるのを覚悟で、相手を罵る武人は多くいる。


 だがこの状況でなお上から目線なのは、レイラスの理解の埒外であった。


「本当にエルフが人間より極めて優秀ならー、貴方はこんなところにいないと思うのですがー」

「黙れ! 万が一の一が偶然当たっただけだ! 運だけで勝てたのすら理解できぬとは、これだから人間は無能にもほどがある!」

「そうですかー。それで何が狙いで侵入してきたのですかー?」

「誰が言うものか! 知りたいなら拷問でも何でもするがいい! 我らは間者に特化したエルフだ! 人間とは違って痛覚を切ることすら可能!」


 痛覚を切る。その能力は優秀と言わざるを得ない。


 どれだけ痛めつけても拷問に屈しない可能性が高いからだ。間者向けの能力と言えるが、捕縛されてから最も輝く能力でもあった。


「そうですかー、なら仕方ありませんねー。アレを」

「ははっ」


 メフィラスは拷問部屋から出て行き、レイラスは嫌そうな顔をしている。


「何を出そうと無駄だ。このエルフ、どんな痛みを受けようと屈することはない。早く解放せねば我らが同胞がここに来て、貴様らを死んだ方がマシな目に合わせるぞ」

「そうですかー」


 レイラスは拷問部屋の端まで歩く。すると何やら外から異臭が漂ってきた。


「……な、なんだこの匂いは!? く、くさっ……」

「あまり使いたくなかったのですがー、こうなれば仕方ありませんねー。話したくなったらすぐにお願いしますねー」


 ※※ゴーレムは新たな活躍の場を得てしまった。今後、様々なレパートリーが生み出されて個人によってより嫌がるモノが選ばれて無双するのだった。


「や、やめろぉぉぉぉぉぉ!? に、人間!? ま、待て! 分かった! 話し合おう!」

「話し合うことなどありませんねー」

「何でも話す! 何でも話すから本当にやめてえええええぇえぇぇぇ!?」





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 俺達は屋敷の食堂に集められて席についていた。


「エルフの狙いはメイルさん、そしてそのお腹の子でした。王家と結託して狙っていると」

「よし潰そう。今すぐに」

「ちょっとベギラ落ち着いて……」


 思わず席から立ち上がったところをミレスに止められてしまった。あんの王家にエルフ共め……!


「でも以前から王家とエルフがくっ付いているのは分かってたよね? 状況的にはあまり変わらないんじゃ……」

「そうでもありません。実は王家からエルフへの密書を手に入れました。これが何を意味するか分かりますか?」

「……外患誘致? 他国の武力を用いて、国内を混乱に陥れるみたいな。国そのものである王家がやってるなら違法ではないかもだが」


 外観誘致は日本でも特に重い罪にあたる。他国と共謀して自国を危険にさらすのだから、当然と言えば当然なのだが。


「そうですー。王家はエルフが味方についたと喧伝していますのでー、この密書があれば十分な証拠になりますー」

「でもライラス領は王家に宣戦布告してるから、暗殺者を送ってもおかしくないんじゃ……」

「実はこの密書にはー、他の諸侯への暗殺依頼も入ってますー。王家はライラス派の主要貴族は全部殺したいようですー」

「うわぁ……」


 他人の褌で相撲を取るにもほどがあるだろう。王家め、エルフの暗殺だけで全部終わらせるつもりかよ……。


「というかそんな密書、エルフもよく処分してなかったね……」

「エルフは言ってましたよ。人間ごときに捕まる予定がなかったので、自分達で確保しているのが一番安全だったと」

「ご、傲慢にもほどがある。そこまで思えたらある意味才能だね……」


 ミレスもひたすらに呆れている。前から着になっていたがエルフの自信はどこから来てるんだろうな……。ポジティブシンキングにおいては天才的存在かもしれない。


「それでー。この密書をレーリア国にばら撒いてー、王家は少しでも歯向かえば暗殺を狙ってくる存在と喧伝しますー。王家派もすぐに切り捨てられますとー。そうすれば今まで王家派の者も見限るでしょうー」

「王家派の人は自分は大丈夫と思うんじゃないの?」

「うふふー、そこは私に秘策がありますのでー」


 レイラスは王家派の貴族たちに手紙を送った。


 そこには王家がエルフに暗殺依頼をしていたことと、その暗殺依頼リストに元王家派の貴族が混ざっていたと。後者は完全に嘘で、元王家派の貴族たちだってそれは理解できる。


 だが…………貴族たちは声をあげたのだ。


「なんと! 王家は我々を暗殺しようとしたのかー! これはもうライラス領に王家討伐を乞うしかないなー!」

「我らの命が脅かされたのだー! もはや王家に尽くす義理はなく、それは他の者も納得してくれるはずだー」


 すで寝返っていた元王家派の貴族たちは、明確に反旗を翻しても周辺に不忠者と思われずにすむ理由を欲していた。元主君が命を狙っていたというならば、誰とて明確に寝返っても仕方ないと思うだろう。


 王家がエルフに密書を送ったのも本当。エルフで暗殺を仕掛けてきたのも真実。ならば王家が元王家派の暗殺を試みたのもまた本当のことだと見える。それで十分だった。


 そもそも仮に今回の件がなくても、レイラスはまた他の理由で王家への大義名分を作っただろう。つまりこの状況になった時点で遅かれ早かれである。


 こうして周辺諸侯たちが元主君である王家を見捨てて、王家討伐を願える大義名分が生まれた。



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大義名分の取得方法が強引?

歴史上もっと酷いイチャモンもあるので……徳川家康の国家安康、君臣豊楽とか。

当時の常識だと割とやらかしではあるらしいのですが。

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