第120話 ベギラ叱られる


「ベギラー、ちょっとここに座りなさいー」


 盗賊を捕縛した直後の食堂。


 俺はレイラスに笑いかけられていた。あ、明らかにピキっている……! 絶対に怒ってるので逃げたい!


「ちょっと用事がー……」

「座りなさい」

「はい……」


 俺は諦めてレイラスの目の前の椅子に座る。彼女はニコニコと微笑んでいるが、怒りオーラが背後に見えるようだ。


「ベギラ? 私は確かに屋敷をゴーレム化してもよいとは言いました」

「お、おう。だから師匠やフレイアとも協力してすごく頑張って……」

「でも限度があると思いませんか? あの屋敷に私たちは住んでいるのですが?」

「そ、それは大丈夫だ。住人に危害は加えないようにして、後は勝手に動かないように命じればたぶん動かない」

「たぶん?」

「いや絶対! 命令ないと絶対に動かないから!」


 ゴーレムは停止命令をくだせば、次に何か命じないと不動だ!


 動かさない限りは普通の屋敷だから住めるはずだ! レイラスは少し考え込んだ後に。


「……はぁ。まったく少しは自嘲してくださいー。まさか屋敷がここまで化け物みたいになるとは予想できませんー。エルフを捕縛できましたし防衛能力は上がってるから許しますがー」

「すまなかった。事前に相談したかったが、造ってる最中にノッてしまって止まらなくてな……」


 物を作る時に事前に設計を決めても、実際に造ってたらその場のノリとかで変わったりするよな……。特にゴーレム魔法の場合はひらめきが大事だから、造ってる最中での変更が結構多い。


 そして最終的に当初の予定から大きく変わってしまうのだ。ゴーレム屋敷も元々は屋敷の耐久を上げるだけの計画で、以前にツェペリア領で作った城塞ゴーレムのイメージだった。


 最終的に腕が生えるモンスターハウスになったけど。


「他に機能はありませんねー? まさか足が生えて走り出せるとか言いませんよねー?」

「そ、そ、そんなわけないじゃないか……」

「こちらを見て話してくださいー。今のうちに正直に言ったら罪は軽くなりますよー」

「…………ごめんなさい。足生やして歩けます」

「あらあらー。もうこれは屋敷と呼べるのでしょうかー?」


 レイラスは俺にものすごくよい笑顔を向けてくる。辛い、強すぎる太陽の光で火傷するみたいな。仕方ない、こうなれば切り札を使わざるを得ない! 出来れば告げたくなかったが……!


「ご、ゴーレム化を解除して普通の屋敷にも戻せるぞ……!」

「ものすごく辛そうな顔で告げてきますねー……」


 そりゃそうだろ! 頑張って作ったゴーレムを誰が好んで元に戻すものか! 


 レイラスは俺の様子を見て更にため息をついた。


「まあいいでしょう。屋敷の防備強化は必須でしたし、ゴーレム屋敷があれば今後のエルフへの対策にもなりますからね」

「おおっ! じゃあこのままゴーレムに住めるんだな!」


 思わず叫んでしまう。ゴーレムハウスならみんなの安全も守れるし、俺も製造したゴーレムをあまり壊したくはない!


「ただし許すには条件があります」

「どんな条件でもやってやる! ゴーレムの力があれば!」

「フレイアさんといつくっ付くのですか?」

「…………」


 前言撤回。力でどうにもならないことってあるよね……。


 思わずレイラスから目を逸らすと、彼女は逸らした方向に移動してきて逃げられない!


「フレイアさんを娶れと言ったはずですよねー? 抱いてしまえともー」

「いやほらメイルが妊娠したから、その状況で他の女性に手を出すのは裏切りかなと……というかレイラスがアイガーク王に言ってたじゃないか!」

「ああ、あれは詭弁ですよー? 大丈夫ですー。貴族たるもの子供は多くつくらないとダメなのでー。メイルさんにも妊娠中に妻が増えてもよいかは確認済みですよー?」

「詭弁」

「詭弁です。あなたにあの男の関係者を妻に押し付けられるのは面倒だったのでー」


 詭弁だったのかあれ……確かに俺がアイガーク王の関係者を娶ると、面倒ごとが発生する可能性は上がりそうだが。


「そういうわけなのでフレイアさんを娶ってください。それが許す条件です」

「いやでもなぁ……」


 先日の野盗退治でフレイアを叱ったことを思い出す。


 あれ以来少し気まずいんだよなぁ……あの件は彼女が悪いとも言えない。俺がゴーレムを戦争の道具だけに考えて欲しくないだけで、普通の魔法使いならば当然の思考なのだから。


 するとレイラスは笑いから一転して真面目な顔をしてきた。


「貴方とフレイアさんが少し仲たがいしたのは知っています」

「なら少し間を置くとか……」

「だからこそ早く動いて欲しいのです。もしフレイアさんが他から引き抜きを打診されていたら、それを理由にして受ける恐れがあります。ゴーレム魔法は貴重ですから……弟子を失ってもよいのですか?」

「……それは困る」


 俺は椅子から立ち上がった。


 フレイアは俺が天塩にかけて育てた弟子第一号だ。嫁にするかは置いておくとして、彼女と仲たがいして他に行かれたら辛すぎる。


 俺から巣立つならともかくとして喧嘩別れなんて絶対に嫌だ。


「わかった。フレイアと話して仲直りできるように試みる」

「はいー。一緒に寝たら教えてくださいねー」

「いやそこまで考えてないんだけど……」


 レイラスの思考は貴族だから、自由恋愛とかの発想はないんだろうなぁ。家長が決めた婚約には従う、婚約したら子供をつくる。それが貴族の常識だ。


 俺はそこだけは合わないので従うかは状況次第だ。でも何にしてもフレイアと仲直りするぞ!

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