第119話 ゴーレムハウス
ライラスの屋敷の塀の外。そこでは夜の闇に紛れて五人のエルフが話し合っていた。
「バカな……エルフ五人がかりの暴風魔法で壊れない建物など……!」
「しかし現に特に被害も受けていないぞ……どうする? 別動隊は何と言っている?」
「……『突入しろ、俺達が敵の目を引く』だそうだ。確かにあの竜巻を起こした別動隊が目立てば、街の警備の目は釘付けになる。兵たちも派遣せざるを得ないので領主屋敷の守りも薄くなるやも」
「ならば行くか。人間風情、我らが本気になればたやすく殺せる」
エルフたちは見合って頷いた後、目をつぶって詠唱を始める。そして風の魔法で浮いて塀を越えて庭に足を踏み入れる。更に風魔法で音を消しながら、更に空を飛んで二階の窓から屋敷に侵入した。
「容易いな。所詮は人間の警備よ」
「油断するな。以前に侵入したエルフは捕縛されたと聞く」
「行くぞ。狙いの獲物の部屋を探し出す。暗殺対象でなくても人間がいれば迷わず殺せ。人間のスピードなど我らに及ぶべくもない」
「我らエルフに殺される栄誉を得られるとは、運のよい人間もいたものだな」
エルフたちはナイフを握りながら音もなく廊下を走る。誰かとすれ違えば即座に首を刎ねるつもりで。
自慢の脚力で必死に走る、凄まじい速さで足が動いている。だが……まったく前に進めていなかった。
「な、なんだこれは!?」
「ろ、廊下が動いている!? 我らが走っているのとは逆の方向へ!?」
エルフたちの走りに合わせて、廊下がルームランナーのように動いていた。そのせいでエルフたちはまったく前に進めていないのだ。今も必死に足を動かしているのに、前進できない姿は滑稽ですらある。
「ど、どうなっているのだ!?」
「わ、わからん……! だが何とかしてこの廊下を抜けなければ……! 人間と違って我らの足ならば廊下の速さについていけるので、風魔法で後押しすれば前に進むことも……!」
そうエルフが告げた瞬間だった。手足の生えたタンスが廊下を走ってきて、エルフのひとりが激突してぶっ飛ばされた。
「げふぁぁ!?」
「「「「あ、アルダぁ!?」」」」
エルフのひとりはタンスに跳ね飛ばされて、無様に廊下の奥へと運ばれていく。そして何故か廊下の奥に存在している穴へと落ちて行った。
「な、な、なんだこれは!? 本当にどうなっている!?」
「分からん! だが落ち着け! こうなれば風魔法で浮いて窓から一時退却を……!」
立て直しを図ろうとするエルフたち。だがそれを許さない存在がいた。
窓に飾ってあったカーテンがふわりと宙を舞ったかと思うと、まるで意思を持っているかのようにエルフに巻き付いた!
「む、むごぅ!? むごぅぅぅぅぅぅぅ……!」
「「「べ、ベィタァ!?」」」
カーテンにす巻きにされて無様に廊下を転がっていくエルフ。そして没シュートされて消えた。だが動揺しているエルフたちに気を休める時間などない。
今度は少し前方にあった扉が外れたかと思うと、手足を生やしてエルフたちに襲い掛かって来た!
「ドアアアアァァァァァァァァァ…………!?!?」
「「ガルマァァァァァァ!?」」
ドアの体当たりにエルフのひとりが直撃して、背中から廊下に倒れて奥へと流れて行く! もはや残りは二人のみ!
彼らは目を見開いて困惑し、泣きそうになりながら走っている!
「意味が分からないんだが!? 誰か教えてくれどうなってるんだこれ!?」
「ご、ゴーレムだ! この屋敷の家具の一部がゴーレムにされてるんだ! それで俺達を発見して動き出した!?」
「か、家具をゴーレムにするとか馬鹿か!? 人間の考えることは本当に理解不能だ! それより逃げるぞ!」
二人のエルフはとうとう魔法で宙を浮いて、流れる廊下の呪縛から逃れた。そして窓を体当たりでぶち破って外へと抜け出した!
エルフたちは激怒の表情で割れた窓を睨みつけている。
「た、助かった! ええい人間め! 我らを愚弄しおって絶対に許さぬ! こうなればここから内部に風魔法を放ち、全ての者を皆殺しだ! 我らが同胞ならば風魔法は防げるはず!」
「それがよい! 我らエルフを舐めた罪、万死に値す……は?」
彼らは驚きのあまりに一瞬声を失った。
何故ならば……屋敷の壁から巨大な手が生えていて、しかもグルグルと振り回すように動いている。まるで巨大な生物の上半身のようになっていた。
屋敷に目などはない。だがエルフたちをマジマジと見ている……ように感じられる。
「……なあ。これは屋敷だよな? ちょっと腕とか生えてるけど無害な屋敷だよな?」
「そりゃそうだろ。まさか屋敷が腕を持って、俺達に襲ってくるなんてそんなことないよな?」
「当たり前だろ。だって屋敷だぞ。さあ気を取り直して中の人間をやっちまおう」
現実逃避をするエルフたちに対して、屋敷の両腕が勢いよくエルフたちを掴んだ。
だがエルフたちは壊れたように笑っている。。
「なあなんか掴まれたんだけど。これたぶん錯覚だよな?」
「当たり前だろ。屋敷の腕が俺達を捕まえるわけないだろ」
屋敷の玄関の扉が開いた。そして獲物を食べるかのように、掴んだエルフたちを玄関へと持って行く。
「なんか屋敷に食われるように見えるんだけど気のせいだよな?」
「当たり前だろ。屋敷が食うわけ……」
エルフたちは屋敷に食われて飲み込まれていく。
そして先に廊下に飲まれたエルフたちと共に、地下牢へと没シュートされるのだった。この屋敷はゴーレム化したことでモンスターハウスになっていたが、エルフたちはそれに最後まで気づかなかった。
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少し補足。
タンスゴーレムと扉ゴーレムは単独のゴーレムですが、カーテンは屋敷ゴーレムの一部です。髪みたいなものです。
新作の宣伝です。
『吸血鬼に転生しましたが、元人間なので固有の弱点消えました。贅沢したいので攻めてくる敵軍に無双しつつ領地経営します! ~にんにく? ガーリックステーキ美味しいですが何か?~』
https://kakuyomu.jp/works/16817330652228877397
投稿三日目までの結果で、異世界ファンタジー週間ランキング24位と伸びてます!
私本人も困惑する伸びですが、面白いのでよろしければいかがでしょうか!
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