第118話 師匠無双


「我らが最強の風魔法にてあの屋敷を吹き飛ばすぞ」

「わかっている。人の造る家など潰す」


 夜の闇の中。リテーナ街を囲う壁の上から、五人のエルフが領主屋敷を睨んでいた。


 彼らはエルフ公国の暗部だ。メイルとそのお腹の子の暗殺のために動いている。


「別動隊はどうしている?」

「すでに屋敷付近まで接近したと連絡が入った。女王様も人間相手などに随分と慎重なマネをしなさる」

「仕方がない。暗殺がすでに三回も失敗していればな。マグレとは言えども警戒はすべきだ。我らエルフは人間と違って頭がよい、失敗を糧とできるのだから」


 この作戦に参加するエルフは総勢十人だ。遠距離から魔法を撃って屋敷ごと対象を殺す部隊と、その魔法でもし死ななかった場合に混乱に乗じて暗殺する別動隊。


 二段構えの盤石な作戦だ。これまでと違ってエルフの能力でゴリ押しせずに、ちゃんと策を練っている。別動隊とも風魔法で連絡を取り合って連携し、確実にメイルを殺すつもりなのだ。


「この作戦に失敗は許されない。穢れたゴーレム魔法使いの子など、この世に誕生させてはならないのだ。これを放置すれば再びゴーレムの世が始まりかねず、我らエルフがまた不遇な想いをしかねない!」

「分かっている! 人間如きが我らと対等に並ぶなど冗談ではない! 我らの方が遥かに優れているのに、ゴーレム魔法などという我らに対して相性のよい魔法を持つだけで!」

「行くぞっ! 必ず殺す! 魔法発射用意!」


 エルフたちは魔法の詠唱を始める。足もとに巨大な魔法陣が展開されていき、周囲の風がうるさく鳴り響き始めた。


「「「「「我ら、風の巫女なり! 彼の大罪者に疾風怒涛の裁きを与えたまえ! ウインド・ディストラクション!」」」」」


 エルフたちが叫んだ刹那。領主屋敷のすぐ横に巨大な竜巻が出現した。その大きさは屋敷と並んでも遜色のない災害級だ。


「裁きを!」 

「今ここに裁きを!」 

「生まれてはならぬ忌み子とその母どもの!」

「先の全てを吹き飛ばせ!」

「この災害たる竜巻を、たかが建物が持つと思うな!」


 竜巻は僅かに移動して領主屋敷を飲み込んで、そして……!


「……な、なあ様子がおかしくないか? あの屋敷、吹き飛ばされるどころか崩れる気配もないんだが……」


 特に何事もなく微動だにもせず、竜巻の中でそびえ立っていた。


 瓦礫のひとつすらも飛ばされない。まさに完の屋敷であった。


「そ、そ、そんなバカなことがあるか!? そこらの城塞すら崩せる我らエルフ五人合わせの最強魔法! たかが土と岩の塊なんぞあっさり飛ばせなければ道理ではない!」

「ま、待て。あの屋敷何か光っているぞ!?」


 夜の闇の中、領主屋敷は僅かに桃色の光を纏っていた。そして竜巻は何の成果も出せずに失せていく。


「ま、まさか……屋敷をゴーレム化して強化……? そ、そんなバカな! 阿呆か!? こんなの強化ではなく狂化だ! 狂っている!」

「屋敷なんてゴーレムにできるのか!? いやできたとしてもするか普通!? 動けないだろ!? 勿体ないと思わないのか!?」

「お、落ち着け! 作戦は失敗だ! すぐに別動隊に連絡して撤退を……か、風が通じない!? 妙な風が吹いて連絡が取れないぞ!?」


 エルフたちはひたすらに混乱している。


 なお妙な風を起こしているのはレイラスであった。彼女は風の操者であり戦場中に声を届ける力も持つ。混乱したエルフたちの風をジャミングするくらいはやってのける。


 あそこまで派手に竜巻を起こせば、当然ながらエルフが侵入してきたのはわかる。そしてここまで大騒ぎすれば……。


『お主らも飽きんのう。いいかげんに諦めればよいものを、わざわざ他国に首を突っ込むとは』


 街の中から跳躍して、空中三回転捻りで壁の上に乗る師匠ゴーレム。彼が着地した時に、鉄の重さの衝撃で壁の一部がめりこんでしまった。


「き、貴様は!? 報告にあった奇想天外謎ゴーレムか! まるで旅芸人のような奇妙な動きを!」

『お望みなら歌ってやるがの』

「戯言を! 我ら五人の前に出たのが運の尽きよ! 人間如きでは及びもつかない、我らエルフたちの芸術的連携を見よ!」


 エルフたちは師匠ゴーレムを星型の形を描くように囲んだ。


 そして再び詠唱を解し始める。


「「「「「風よ! 邪となりて彼の者を封じよ!」」」」」


 五人のエルフたちの目の前にそれぞれ竜巻が出現。五つの竜巻が師匠ゴーレムを押しつぶすかのように集まっていく。


「我らはゴーレム相手でも対応策を考えているのだ!」

「風の圧力による圧殺! 例えゴーレムであろうとも、そうそう受け切れるものではな……」

『ふん!』


 師匠ゴーレムがコマのように高速回転し始めると、彼の身体を囲むように竜巻が出現する!


「「「「「な、なにぃ!?」」」」」


 師匠ゴーレムの起こした竜巻と、他のエルフの竜巻が当たった瞬間。エルフ謹製のそれは一瞬で霧散した!


 まるでベーゴマバトルで格の差を見せつけるがごとく! 竜巻勝負は師匠ゴーレムが圧勝した!


「わ、我ら風の民たるエルフが、風で負けた……!? そ、そんなバカなことがあるがっ!?」


 師匠ゴーレムがエルフに飛び蹴りをぶちかまし、エルフは哀れに崩れ落ちた。


「ひ、ひっ!? にげふっ!?」

「おたすぎゃー!?」


 他の四人のエルフも、機敏に動く鉄塊のラリアットを食らって無様に倒れていく。そうして師匠だけが残ったのだった。


『なんじゃい。あそこまで豪語しておいて。せめて別動隊とやらに期待したいところじゃが……もうやられとるかものう』


 師匠ゴーレムは領主屋敷に顔を向けて呟くのだった。



---------------------------------------------------

師匠のパラメータって、本来なら力と丈夫さ特化のキャラの数値をワンランク上げて、敏捷性とスタミナ無限与えた感じなんですよね……。

あ、ゴーレム魔法も使えるからサモナーでもあるか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る