第116話 ※※ゴーレム
俺達はラレヤ盗賊団を討伐し終えて、奴らの拠点である洞窟の中を探っていた。
人間の兵士を連れて行ったものの、ほとんど使用せずに新型ゴーレムを暴れさせて勝利した。兵士の雇い賃がもったいない気もするが、そこは領主として盗賊討伐したアピールになるので必要経費とする。
「紙切れ一枚も見逃すな! ラレヤ盗賊団のバックには何かがいるはずだ! その証拠を探せ!」
兵士たちに向けて命令する。元々怪しかったが先ほどの戦いで、後方から攻めて来た統制の取れた軍を見て確信した。間違いなくこいつらは貴族以上の者がバックにいる。
そしてわざわざライラス領にいる盗賊に支援する者……王家派に決まっている。ちなみに他国の有力者の線は薄い。他国の盗賊を支援するのは流石に難易度が高いし、そもそも兵を貸し出すのは現実的ではない。
『弟子よ。捕縛した盗賊たちを外で尋問するがお前も来るかの?』
「俺も行きます。フレイア、お前も来てくれ」
「は、はい……」
フレイアはものすごく落ち込んだ様子でうなずく。先ほど俺が叱ったのがかなりこたえているようだ。
可愛い女の子を落ち込ませるのは辛い。でもここで注意しないとフレイアはゴーレムを殺りく兵器にしか使わなくなる。
彼女がゴーレムを殺りく兵器にしたこと自体は、ある意味理解できることではあった。本来なら魔法使いは戦争に強いから評価されていて、敵を多く殺せばその分味方の損害は減る。
戦争で敵に情けを見せれば、味方の被害が増える恐れもある。なのでフレイアの考え方は間違ってはいない。だが俺達はゴーレム魔法使いだ、増える被害もゴーレムに被せることができる。
俺達は洞窟の外に出る。そこは地獄絵図だった。
「助けてくれぇ……」
「く、苦しい……髪にゲロがかかってきもちわりぃ……」
「お、俺達ラッキーだったな。普通に捕縛されたただけで……」
盗賊たちは洞窟前の空き地に三種類の方法で捕縛されていた。
泥ゴーレムに飲まれて泥風呂につかってドロドロしている者、姿は見えないが車輪荷台ゴーレムの中から悲鳴をあげる者、そして普通に縄で捕縛されている者。
なお泥ゴーレムは餅みたいな粘り気なので、たぶん盗賊たちの気分はゴキブ〇ホイホイだろうな……。べたついて気持ち悪そうだ。
「もう嫌だぁ……! 出して、ここから出して……!」
「なんでも話すから……! ここなら牢の方が百倍マシだ!」
「動かないでくれぇ! もう許してぇ!」
車輪荷台ゴーレムに囚われた者はもっと悲惨だ。荷台に入れられた後も、車輪荷台ゴーレムはずっと大暴れしていた。つまり暴走運転の車の中にずっといたわけだ。
しかもこの世界の人は車に乗る機会がないので酔いに慣れていない。自動車が暴走して乗り心地一切気にしない運転をした。ならば中に乗っていた人がどうなっているかはもう自明の理である。
車輪荷台ゴーレム、非人道的兵器では? と思わなくもない。
「親分。俺ら、追い込まれて自分から降伏してよかったっすね……」
「捕縛されといて何がよかっただ!」
縄でくくられたガタイの良い男――盗賊の親分――がこちらを睨んでいる。やはり情報を引き出すとしたらこいつからだろうな。
俺は親分の目の前まで歩いていくと。
「お前がラレヤ盗賊団のトップか。お前たちは王家と繋がっているだろ?」
「はっ。簡単に言うと思ってんのか? 聞きたいならそれ相応の誠意ってもんがあるだろ」
親分は俺に対して勝気な笑みを浮かべてくる。
どうやら俺の欲する情報を交渉材料にするつもりのようだ。
「誠意ねぇ……具体的には?」
「まずは俺達を全員解放して逃がせ。別にライラス領にってわけじゃねぇよ。王都付近で構わねぇ」
『そうすればお主らは、また王都で暴れる盗賊に戻ると?』
「そうだ。お前らにも得な話だろ。俺達は逃げられて、お前たちは王家を弱体化させられるんだから」
師匠の言葉に盗賊はうなずいた。
ラレヤ盗賊団が王都付近で略奪すれば、それは王家の土地が荒らされるということだ。つまり俺達にとっては得にはなる。
「俺達を解放するなら、バックにいる奴らのことを洗いざらい話す。証拠もちゃんと確保してるから渡してやる。どうだ?」
「確かに互いに都合がよい話だな。だが断る」
「よし交渉成立……いや待て、今なんつった?」
「断ると言ったんだ。誰が盗賊と交渉なんてするかよ」
唖然としている親玉に言い放つ。
こいつらの話は一聞すれば都合がよさそうに思える。だが実際は盗賊を続けることで、罪なき民を苦しめると宣言しているだけだ。
「正気か!? いや俺が信用できないってことか!? 待て、本当に証拠を持ってる! 疑うなら俺達を解放するのはそれを見てからでいい!」
慌てふためく親分。どうやら俺が交渉に応じると確信していたらしい。確かに司法取引としてやりそうなことだし、実際に王家との取引が成立したからこいつらはライラス領にやってきたのだろう。
だからライラス領でもこの交渉は成り立つと考えていたと。証拠があるのも俺達に負けた時を考えて用意していたと。彼らからすれば王家に義理立てするわけないし、自分の身を守るためならそれくらいするだろう。
「だが違う。お前を信じる信じないの話じゃないんだよ」
「じゃ、じゃあなんだってんだ!」
「盗賊を好き勝手にさせたら民を殺して奪って犯すだろ。王家は敵だが王都の民はまだ敵ではないのだから」
「なっ……!? でも王都の民だって、お前らが攻めたら敵に……!」
「その時はその時だ。それにそんな奴らを無力化するために、ゴーレム魔法を使いたいんだよ俺は」
戦争は嫌いだ。可能ならば話し合いと脅しで解決したい。
脅しはどうなのと言われるかもしれないが、流石に話し合いだけでは無理ゲーだからな……。もちろん必要ならば戦う時もあるが、出来れば経済力とかで殴って勝ちたいよな。
俺は不殺主義というわけではないが、必殺主義でもないのだから。不要なら殺さない、殺さなくても勝てるならする必要がない。
「というわけで、お前らは解放しない。その上で洗いざらい話してもらう」
「だ、誰が話すかよ! ムチで叩かれようが漏らさねぇぞ!」
「お前まで漏らさなくていいぞ。すでに十分溜まってるから」
「……は?」
俺は車輪荷台ゴーレムを見る。
「師匠、他の盗賊全部吐き出させてくれます? 後はこの親分を中にいれた後、溜まった嘔吐物をゴーレムにします。後は車輪荷台ゴーレムを暴走させてと」
『ほほう。ゲロゴーレムか、その発想はワシにはなかったのう。じゃあこの親分は荷台の中に放り込むぞ』
「……いや冗談だよな? え、ちょっと待って? 鉄のゴーレムさん、俺を持ち上げるのやめて? え、あ、ちょ、ああああああぁあぁっぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?!?!」
哀れ盗賊に人権はない。
彼は即座に全てを漏らして、俺達に証拠の隠し場所を教えてくれた。
それは盗賊と王家の司法取引を記載した書類だった……王家の印章つきの正式な。
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そのうち肥溜めゴーレムとか生まれそう……。
それと実は二作ほど完結させたので、新作を投稿しはじめました。
『吸血鬼に転生しましたが、元人間なので固有の弱点消えました。贅沢したいので攻めてくる敵軍に無双しつつ領地経営します! ~にんにく? ガーリックステーキ美味しいですが何か?~』
https://kakuyomu.jp/works/16817330652228877397
無双領地経営話です、よろしければ見て頂けると嬉しいです!
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