第114話 大捕り物
リテーナ街から少し離れた場所にある洞窟。
そこではラレヤ盗賊団が拠点を築いていた。彼らは三百人を越える人数で構成されており、ひとりひとりが優秀な盗賊で腕っぷしも強い。
そこらの衛兵なら三人まとめて倒せるほどの猛者が揃っていた。王都で大暴れしているので実戦経験も豊富、平民崩れのそれとはワケが違う。
ここまで彼らが膨れ上がったのは王家のせいである。王都近辺で何年も暴れさせたせいで、大量の資金を手に入れて都度増強されていったのだ。
「親分! ライラス領から軍が出たと報告が!」
「ほう。俺達を討伐しようってわけか! 面白れぇ、返り討ちだ! あいつらきっと俺らのことを三百人程度だと思ってるからなぁ!」
親分と言われたガタイのよい男がニヤリと笑う。
この洞窟は元々は坑道だった場所を再利用していて、かなりの人数が暮らせる場所だった。
「へへへ、あいつら度肝抜きますぜ。まさか俺達が千人もいるとは思わないすよ!」
「王家が気前よく兵士を貸してくれたからなぁ。俺の配下にはなってねぇが、ちゃんと森に潜んで挟み撃ちにしてくれるそうだしな」
王家とラレヤ盗賊団は司法取引を結んでいた。だがそれだけではなくて、王家は更に盗賊団に兵士を貸し出していたのだ。無論、指揮権までは与えてはいないが。
理由はもちろんライラス領に大損害を与えるためである。王家の兵士に盗賊まがいのことをさせれば悪い風評になり、自分達の正義をうたう王家には不利になるので迂闊に取れない戦法だ。
だが盗賊に化けた王家の兵士ならば何の問題もない。ライラス領で強盗強姦なんでもござれ。ライラス領の金や食料を奪える上に、レイラスの統治の評判も落とせる一石二鳥の策になる。
親分が洞窟から出ると、すでに盗賊の大半の者がその場に集まっていた。
「野郎ども! これからライラス辺境伯の軍が攻めてくる! ひとまず俺達は時間を稼ぎさえすればいい! そうすれば後方から王家の軍が攻め込むから、その時に打って出るぞ!」
「「「「おおおおおおおお!」」」」
「もしライラス辺境伯本人や、その王配の妻でも捕縛すればまわしていいぜ! 殺さなけりゃいいとさ!」
「「「「おおおおおおおおおおおおお!!!」」」」
盗賊たちは吠えた。彼らにとって貴族の令嬢とは、地球でいうアイドルみたいなもの。それを好き放題できるとなればテンションが上がるのも当然だ。
「持ち場につけ! 騎士様相手に俺ら盗賊の戦い方を教えてやるぜ!」
「「「「おおおおおお!」」」」
こうして盗賊たちは籠城の用意をし始めた。この洞窟は森に囲まれているのだが、いたるところに罠を仕掛けていく。更に事前に洞窟の前に木の柵まで準備している用意周到さ。
ラレヤ盗賊団が王都で暴れ続けられたのは、決して王家が無能だっただけではない。彼ら自身もまた口先ではなく優れた盗賊団だった。
「きやした! ライラス辺境伯軍でさぁ!」
高い見張り台に乗っていた盗賊が吠えて、ラレヤ盗賊団の全員が臨戦態勢になる。
しばらく待っていると森の中を歩く人影が見え始めた。少し薄暗いせいで顔などは見えないがガタイはかなりよい。
「弓矢を放て! 投石もだ! 辺境伯の軍勢に目にモノ言わせてやれ!」
洞窟の前にある木の柵の裏から、彼らは石や矢を放ち始めた。その何発かが森を歩く人影に直撃する! だが人影は倒れなかった。
「あれ? 石や矢が当たったのに効いてねぇ……鉄鎧でもつけてんのか?」
「それなら落とし穴にはまれば自重で死ぬな!」
言った側から人影のひとつが消えた。盗賊が仕掛けた落とし穴に落ちたのだ。
だが……何事もなかったかのように穴から這い出てきた。そして再び盗賊の方へと近づいてくる。
「お、おい……なにか様子がおかしくねえか……?」
「なんか妙に太ってるよな……?」
その時、森を照らすように日が差した。兵士たちの泥で構成された身体が、盗賊たちにもくっきりと見える。
「……へ? あれってゴーレムじゃね?」
人影はゴーレムだった。ベギラの考えた新たな泥ゴーレムが、遅い歩みでゆっくりと進軍し続けている。先ほど投じた弓や石もその柔らかな身体にべちゃりと吸収されて、まったくダメージを与えられていない。
落とし穴も同様だ。柔らかい不定形のせいで、多少の衝撃なら無力化してしまうのだ。
「「「「「ゴオオオオオオオオ」」」」」
更にうす暗いせいで今まで見えてなかったが、森には大量の泥ゴーレムが配置されていた。その数はおそらく五百以上で盗賊より多い。
「お、親分! どうするんでさ!? ゴーレムなんて聞いてませんぜ!?」
「落ち着け! 俺達のやることは変わらねぇ! 時間稼ぎだ! そうすりゃあ……!」
「お、親分!? 泥のゴーレムがどろどろになって、木の柵の間を抜けてきやす!? た、助けてくれぇ!? 泥に飲み込まれるぅぅぅぅ!?」
木の柵は基本的に丸太と組み合わせたものだ。どうしても丸太と丸太の間には縦横に空間ができてしまう。
泥ゴーレムは液状化してその空間を通り抜け、近くにいた盗賊を飲み込むように襲い掛かったのだ。泥に囚われた盗賊は、もはやゴキブリホイホイに囚われたGのようだ。
「ど、洞窟の中へ下がれ! 後方の援軍を待つ!」
「き、気味が悪い! なんて性格の悪いゴーレムだっ!」
「こんなの造る奴の気がしれねぇ!」
盗賊たちはやはり練度が高く、親分の命令に従って即座に洞窟の中へ撤退していく。だがそれこそ時間稼ぎにしかならない。
彼らは知らなかった。この戦いの後方、別動隊である王家兵士たちはもっと悲惨な目に合っていることに。むしろ泥ゴーレムは優しかったことに。
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異世界ファンタジー週間ランキング85位で上昇気味なので……!
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