第112話 盗賊団の噂


「すまんメイル……せっかく気晴らしの遊びだったのに」

「いいのです。楽しかったのです」


 俺は屋敷の食堂で晩餐を取りながらメイルに平謝りしていた。


 狼藉者が現れたせいだ。メイルの気が休まるどころか、むしろストレスになってしまった……やはり街に出るべきではなかったか。


「でも襲ってきた奴らって何者なの? 毎度お騒がせエルフじゃないんだよね?」

「エルフじゃないから分からん。王家の可能性が高いとは思うけど」

「そうだよね。ボクも王家かなって」


 ミレスと顔を見合わせてうなずきあう。


 王家からすれば俺は目の上のたんこぶだ。邪魔者なので暗殺を狙ってきてもおかしくはない。


「捕らえた五人はどうしてるの?」

「レイラスに預けた、というか盗られた。情報を絞りとるつもりだろうな。問題は捕らえた奴がどこまで知ってるかだけど」


 レイラスはこの場にはいない。捕らえた間者を連れて行ってしまったからだ。


 今回は俺が熱い砂風呂ゴーレムか、風呂ゴーレムにずっと浸からせて尋問しようと思っていたのに。


「捨て駒みたいな使い方だからロクな情報持ってないかもね」


 真昼間の街中で暗殺など仕掛ければ、成功しても逃げ切れる可能性は低い。鉄砲玉としての運用としか思えない。


「とにかくな、俺は決心したことがある。今まではあまり考えてなかったけど、王家は完全に潰さないとダメだと。そうしないとまたメイルやライラス、それにミレスが狙われる恐れがある」

「……そうだね。ボクも王家が暗殺者を仕掛けてくるなんて、流石に思ってなかったもの。いやまだ確定はしてないけど」


 俺もミレスも今回の暗殺者の正体は王家と確信していた。現状でエルフでないのなら、王家かその派閥の者の手に決まってる。仮に他国の間者だったとしても、どうせ王家も仕掛けてくるから潰さないと。


 ぶっちゃけ俺は怒っている。身重のメイルに暗殺しやがって……!


「みなさんー。さっきの間者の正体が分かりましたよー」


 そんなことを話しているとレイラスが食堂に入ってきた。


「え? もう尋問終わったの?」

「いえまだ途中ですー。でもひとまず彼らがラレヤ盗賊団の者であることは分かりましたー」

「「「ラレヤ盗賊団?」」」


 俺とメイルとミレスの声が合わさった。レイラスは微笑みながら話を続ける。


「王都の方で数年暴れていた盗賊団ですー。ずっと好き放題していたはずなのですが、何故かレイラス領に来たようでー」

「それってほぼ間違いなく王家が買収したのでは……?」


 盗賊団が好き放題暴れられる場所を捨てて、他の領地に来るはずがないのだから。ましてや王都とここはすごく離れている。仮に盗賊団が移住するにしても、他のもっと近い場所のはずだ。


「今の王家ならやりかねないでしょうねー。先日とうとう私たちの動きを知ったようでー、王が怒り狂っていたと報告が入ってますー」

「あ、荷台ゴーレムでレーリア国を回ったのまだ知らなかったんだ……いやここから王家までの距離を馬で走ること考えたら、それくらいになるかもだけど」

「スピードが違いすぎるからな。もう王家と俺達は同じ時間で生きていない」


 情報のタイムラグがあり過ぎる。


 馬と自動車の差は想像以上に大きいよな。王家は何をするにも後手に回るのだから。


「それでその盗賊団がー、この近くの森に居を構えているようですー」

「なら俺が討伐したい。メイルを怖がらせた罪は重い! 場所を教えてくれれば今すぐに行ってくる!」


 盗賊なにするものぞ! 百人や二百人いようがゴーレムの敵ではない!


 作り置きしているゴーレム軍を率いて、全員まとめてお縄にしてくれる! ついでに師匠と共に性能実験もできるから一石二鳥!


 だがレイラスは俺の言葉に首を横に振った。


「ちゃんと大勢の兵士を率いてくださいー」

「大丈夫だ、大量のゴーレムを率いるから。一体でそこらの兵士五人分くらいの強さはある」

「戦力的な意味ではありませんー。領主の夫が兵士を率いて、移住してきた盗賊を速やかに討伐する。そのことに意味があるのですー」

「確かに盗賊をすぐ討伐してくれる領主はありがたいよね」


 レイラスの言葉にミレスが付け加える。


 領民にとって盗賊は悩みの種になることが多い。例えば街道に盗賊の出没があったとして、領主がすぐに兵を出して討伐してくれるとは限らないのだ。


 兵を出せば毎日お金がかかる上に、盗賊だって簡単には尻尾を出さない。つまりそれなりの数の兵士を、何日もかけて運用せねばならない。ようは大金が必要になっていく。


 ましてや盗賊団ともなれば……下手をすれば領主も放置することがある。討伐できるだけの兵士やお金が用意できないからだ。そうなれば近くの村は酷いことになる。


 逆に言えばすぐに盗賊団を討伐してくれる長は、民からすればすごくありがたい存在なわけで。

  

「俺が盗賊団を討伐するのを大々的にアピールしろってことか。ライラス領は王家ですら苦戦した盗賊団を、瞬殺したと喧伝すると」

「そうなりますねー。兵士を集めて動かした後で、ゴーレムで盗賊団を倒す分には構いませんがー」

「理屈は分かるけどお金がもったいないよね……最低でも百人くらいは集めるんでしょ? 彼らの日当に食費に……」

「ミレスさん。お金で買えないモノのための出費は、ケチらないのが貴族のコツですよー。今回の場合は民の信頼ですねー」

「な、なるほど……商人とは考え方がだいぶ違うね……。ボクだったら間違いなくベギラひとりに任せてたよ」


 信頼の価値はプライスフリーというやつだな。いやプライスレスだっけ? どっちでもいいか。


「では兵を集めますのでー、二日後くらいに出陣予定でお願いしますー」

「任された!」


 よし! すぐに師匠とゴーレムを考えよう! 今回は大捕り物だからそれに相応しいやつを!


「そうそう。それと今後の私たちの動きについても聞いて欲しいのですがー」


 む。どうやらまだ話の続きがあるようだ。仕方がない。

  

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