第109話 帰ろう


 俺達はアイガークの宮殿の客間でくつろいでいた。メイルの妊娠が判明してから僅か一ヵ月、アイガーク内の貴族の大半を説得することに成功した。


 彼らは皆、快くライラス領に従属することを納得してくれた。使者の報告では馬車ゴーレムで砂漠走るのを見て、顔をひきつらせていたらしい。正直見たかった。


 俺は一ヵ月間、ずっとゴーレム馬車を作り続けたので疲れた。フレイアも、それに師匠までもが頑張っていた。師匠はとうとうゴーレムの身でゴーレムを作成してしまった。


 ロボットがロボットを作り始めたら、なんか人間不要説出てこない? と僅かに懸念したのは内緒だ。もし師匠が量産されたら世界がひっくり返るだろうな。


 そんなことを考えながらもメイルがソファーに座っているのを見て、思わず声をかけてしまう。


「メイル大丈夫か? きつくないか? 不調とかは」

「大丈夫です。心配し過ぎです」

「ベギラって結構心配症なところがあるんだね」

「まだお腹も膨らんでないので大丈夫ですー。荷台ゴーレムならすぐ帰れますしー、あまり揺れませんから問題ないでしょうー」


 どうやら不安がっているのは俺だけみたいだ。


 いや冷静に考えたらまだ大丈夫だとは思うのだが、つい心配してしまうのは男心だろうか? 


「がははは! それで心配した結果、必死にゴーレム造りまくって予定より早く交渉を終わらせるんだからな。いいじゃねぇか」


 アイガーク王がグラス片手にこっちに寄ってくる。酒くさい。


「当たり前だ。ついでに俺達の乗る馬車ゴーレム改も更に改良しておいたぞ。ほぼ揺れないから妊婦でも乗れる!」

『馬車ゴーレム改々じゃな。ワシも協力したぞ、弟子とメイルちゃんの子ならワシの孫みたいなものじゃからな。他にも色々とプランを練っておいた。ゴーレムに乗ったつもりで安心するのじゃ』


 師匠ゴーレムが親指を立てた。俺達の全力でメイルを守ってみせる!


 するとメイルはくすくすと笑った。


「心配しすぎです。まるで何かと戦うかのようです」

「心配しないよりはいいからな! そういうわけで用事も終わったしライラス領に帰るか!」

「いいですよー。帰りましょうかー」

「あー……結局言えなかったなぁ」


 俺が帰宅宣言をするとアイガーク王は僅かにため息をついた。何を言えなかったのだろうかと思うが、下手に聞くと面倒そうなのでスルーした。


 この男は頭がいいので、わざと俺に聞かせることで話を進める可能性もある。


「まあいい。ベギラ、お前には感謝している」


 なんとアイガーク王は俺に頭を下げてきた。仮にも一国の王が、いくら従属先とはいえ一領主の旦那に過ぎない俺にだ。


「おいおい。王の立場で俺に頭を下げていいのか?」

「よくはねぇ、だが俺がやると決めた。お前の馬車ゴーレムのおかげでこの国は間違いなく豊かになる。経済が循環して仕事も増えて、この街のスラムの住人にも仕事が回り始めた」

「それはよかった。スラムは見ていて気持ちのいいものじゃないからな」


 貧乏な人たちのたまり場だからな。必要悪と言われることもあるが、そもそもないに越したことはないのだから。


「俺としてもスラムは何とかしたいと思っていたが出来なかった。だからこれがその礼だ」


 アイガーク王は頭を上げると俺に何かを差し出してきた。


 これは……指輪? 綺麗な赤い宝石がついている。


「その石は我が国でとれる魔法結晶だ。その石に溜まった魔力を吸えば、一時的に魔力を増加させられる」

「そんな上等な物をもらってもよいのか? 戦争の兵器レベルのものじゃないか」


 優秀な魔法使いの魔力を回復できる。戦術、下手すれば戦略レベルに重要なモノになりかねない。そんな代物を他国の俺に渡してくるとは……。


「構わねぇ。それはもともと、お前らと戦う時に使う予定だったものだ。お前らを攻める目的は砂漠を養うためだった。その問題が解決しそうなので、使わなくなった物をやるだけだ」

「ふーん。じゃあ遠慮なくもらうよ。ありがとな」

「おう。それで俺とお前の個人間では貸し借りゼロだからな。また何かあったら頼むぜがはは!」


 アイガーク王は豪快に笑った。借りを作りたくなかったのだろうか。


「……待ちなさいー。それはズルいのではー? ベギラはうちの技術官ですよー? 私を挟まずに交渉は厳禁ですー」

「俺とベギラはもうダチだからよ。ダチとの話に国間の関係は考慮しねぇ!」

「ダメですー。ベギラは私の夫ですー。夫婦だから介入しますー」

「女が男の間に入るな! というかお前ズルいんだよ。ベギラ、何でお前はアイガーク国に生まれなかった!」


 相変わらず最後まで言い争う二人。やはり仲がよいのではなかろうか?


 それと俺がこの国に生まれたとしてもここまでにはなれてなかったぞ。なにせ俺の成長は師匠ありきだからな。


「よし、帰るか!」


 そうして俺達は荷台ゴーレムを引き連れてライラス領へと帰っていくのだった。




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 エルフ公国、円卓の間。


 そこでは大勢のエルフたちが会議を行っていた。


「報告がありました。ゴーレム魔法使いの妻が忌み子を孕んだと」


 女王がそう告げると場は一気に大荒れになった。全てのエルフが憤怒の表情を浮かべている。


「ふざけるな! そんなことが許されるはずがない!」

「なんという忌まわしい! 人間風情が何を図に乗って!」

「母体ごとすぐに殺すべきだ!」

「では議決を取りましょう。ゴーレム魔法使いの妻は、すぐに殺すべきと思う者は挙手を」


 円卓の間にいるすべてのエルフが手を上げた。

 

「公正な議決によって決まりました。これよりゴーレム魔法使いの妻、そしてその忌み子を処理します。レーリア王家も動かした上で、私たちも決裁者を送って殺させましょう」

「ですが女王様、これまでの決裁者は人間の卑劣な策で失敗ばかりで……」

「今までは忍び込もうとしたからダメなのです。次は馬車にでも乗ってるところを狙って、遠くから竜巻魔法で全て吹き飛ばさせます。人間ごときでは抗えない力を起こしてやりましょう」 

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