第108話 まさかまさかの


「メイル! 大丈夫か!?」


 俺は急いでメイルのいる個室へ飛び込んだ。するとメイルはソファーに座って休息をとっている。後ろからはミレスもついてきた。


「何を焦っているのです? 大丈夫に決まってるのです」

「いやだってほら妊娠だぞ?」

「まだ分かっただけです。これからなのです」


 メイルは軽く微笑んでくる。そ、そうだな。よく考えたら医者の診断で妊娠が分かったくらいなら、まだ特に問題とかはないか……思わず焦ってしまった。


「よしメイル。さっそくライラス領に戻って療養を……」

「ダメです、まだこの国でやることがあるです。私が馬車ゴーレム改で帰ったらよくないです」

「いやしかしだな」

「荷台ゴーレムがあればすぐ帰れるですから、もう少しここでやることをしてしまうです。私はこの宮殿で休ませてもらうです。そもそもまだお腹も大きくなってないです」


 メイルは俺の提案に首を横に振る。


 ここは慣れない土地だから出来れば帰って欲しいのだが……あくせくしているとレイラスとアイガーク王が部屋に入ってきた。


「メイルさんー、おめでとうございますー。」

「ありがとうなのです。でも少し迷惑かけてしまうのです」

「いえいえ迷惑だなんてそんなー。これからは自分の身体を大事にしてくださいね。後はなるべく早くここの用事を終わらせて帰りましょう」

「え? いやでも俺としてはメイルは先に帰って欲しいんだけど」

「妊娠して不安な時は夫が近くにいた方がいいでしょうー? メイルさんが甘えているのが分からないのですかー?」


 え? さっきのって俺たちに気を使ってたんじゃなくて甘えてたの?


 メイルをチラリと見ると顔を真っ赤にしてうつむいている。


「れ、レイラスちゃん……言わないで欲しかったのです……」


 やべぇメイル可愛い抱きたい。いや落ち着け今日からしばらく俺は紳士的だ。ひっひっふーひっひっふー。


「じゃあ速攻で終わらせて帰るからな! 待っていてくれメイル!」

「ベギラ、分かってると思いますがメイルさんが嫌がることはダメですよー? 例えば妻が増えるとかもっての他ですー。新しく妻が増えたら友好関係とか気苦労増えちゃいますのでー」

「えらく具体的だな……流石にそんなことしないぞ!」


 俺はレイラスに向けて堂々と宣言する。俺は確かにハーレム願望があるが、メイルやミレスやレイラスをないがしろにはしないぞ! 


「おいレイラス……てめぇ……」

「おやおやどうされましたー? 部外者の人が何か言いたいことでもー?」


 そして相変わらず喧嘩している二人。君たち本当は仲よかったりしない?


 おっとそんなことはいいんだ。それよりも俺がまずやれることは……。


「よし。じゃあえっと……まずはベビーカーのゴーレムを」

「「「「気が早い!」」」」


 皆からツッコミを受けてしまった。確かに少しだけ気が早かったかもしれない。


「落ち着いてくださいー。まずやることはアイガーク王国の貴族たちを納得させることですー、私たちに従属することをね」

「じゃあゴーレム馬車を造ればいいんだな? ひとまず一台製造して砂漠で歩けるのは確認するが。たぶん車輪じゃなくてソリにしないと無理かもしれない」

「頼む。もしゴーレム馬車が砂漠を走れるならどれほどの民が助かるか」


 アイガーク王は真剣に俺に頼み込んでくる。


 ラクダがゴーレム馬車になれば運搬事情が劇的に変わるからな。それだけの成果があればアイガークの偉い奴らも従属に対して首を縦に振るだろう。振らない奴にはゴーレム馬車やらないって言うし。


 レーリア王国ですらゴーレム馬車は有用だった。ましてやここは砂漠だ、疲れも知らず水も不要な馬車を使えるか使えないかは……もう車と徒歩くらいの差があるんじゃないか? 


 砂漠に詳しくはないが、ラクダに速かったり荷物を大量に運べるイメージはないからなぁ。


 そうして俺とフレイアは馬車ゴーレムを製造し始めるのだった。





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「バサク伯爵! た、大変です! アイガーク王からの使者がおかしいのです!」


 私が屋敷の執務室で仕事をしていると、執事の者が大慌てで執務室に飛び込んできた。今日も暑いのであまり大騒ぎして欲しくないものだ、いやここは年中暑いが。


 砂漠だからどうしようもないとはいえ、出来れば東の砂漠が薄い地方の領主だったらよかったのにな。


 ここは何せ不便だ。不足した物を買いそろえるために隊商キャラバンを派遣しなければならず、またどうしても大人数での移動になるのでお金がかかる。


「使者がおかしい? どういう意味だそれは」

「そ、それが……馬車でやってきました!」

「またラクダに馬車を引かせたのか? よくここまでやってこれたな、ゆっくりとしか歩けないだろうに」

「い、いえそれが……四足のゴーレムが馬代わりとなって馬車を引いてきました! 御者として乗ってきた使者が是非見て頂きたいと!」

「ゴーレムの馬車なぁ。ラクダと同じくらいのスピードで馬車をひけるなら有用か」


 私は執務室を出て屋敷の外に行くと、前にゴーレム馬車が止められていた。なるほど、確かに見た目は馬に近いな。


「使者殿、そのゴーレム馬車を見せたいと言うから参ったが」

「ありがとうございます。ですがその前に手紙を見て頂きたいのです。王からのご指示でして」


 使者から手紙を受け取って開く。これくらいの奇行はいつものことなので気にしない。


 えっとなになに、アイガーク王国はライラス領に従属することになった。その対価としてゴーレム馬車をもらったぞ! ………………あんの王なにしてるんだ!?


「お、おい! この手紙は間違いなく本物なのか!?」

「もちろんです。それとゴーレム馬車の性能を見せるように言われています。ちょうどよいので乗っていただけますか? 伯爵に無礼ではあるのですが、御者台か荷台のどちらかで」

「いや待てそれどころではないのだが!? なんで我が国が一介の領地に従属してたというのだ!? こんなもの見過ごせるわけが……!」

「乗ればわかる、とのことです。手紙と馬車がセットなので、その後にお願いします」


 使者はどうやら私の反応も事前に言い含められているらしい。アイガーク王、いやもはや王と呼べぬ! ライラス領なんぞにたぶらかされおって!


 なにがゴーレムの引く馬車だ! せいぜいラクダと同じくらいの速さだろう、確かに便利だ。砂漠でラクダのように走れるという時点で価値はあるがそれだけだ!


 王が言うなら乗ってやるが、その後に急いで王都に向かって従属の破棄を申し出る! こんな馬車なんぞどうでもよいわ!!!!


「こ、この馬車すごすぎりゅううううう!? なんだこれは!?!?!?」


 ゴーレム馬車が走り終えた後、私はあまりの凄さに度肝を抜かれて舌が回らなかった。


 こ、こ、この砂漠で走れる馬車があれば、アイガーク王国の物流が一変するぞ!? な、なるほど!? この技術を盗むために一時的に従属をしたのか!?


 更に後日も荷台ゴーレムを見せられた私は悟った。あ、これ勝ち目ないなと。 


 下手に逆らわずに従属して技術差を埋める努力をした方が建設的だと。

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