第107話 アイガークとライラス領の直通便


 アイガーク王が俺達に従属を宣言した。これはものすごく大きな影響を周囲に与えるだろう。


 ライラス領はまだレーリア国の領地のひとつにすぎない。そんな領地に対して国が従属したのだから。周囲の国とは停戦協定こそ結んでいるものの、今後は何かしら武力以外の手段で仕掛けてくるはずだ。


 そんな俺達はアイガーク宮殿内の豪華な客間で休んでいた。


「うふふ、何はともあれうまくいきましたねー。やはり相性のよい者同士で話させる方がまとまりますー。これで敵はレーリア王家とエルフのみですー」


 レイラスはソファーに座ってほくほく顔をしている。無事にアイガーク国を従属させたことで状況がすごくシンプルになったからな。


 周辺国家とはすでに停戦協定を結べているので、王家をさっさと潰してエルフ公国に集中できる。多方面作戦などやらなくてよいのが喜ばしいのだ。


「それにアイガーク国との交易も行うようになるからね」


 ミレスもニコニコと笑っている。


 アイガーク国と正式な貿易が行われることが決まったのだ。今までのアイガーク国は敵でライラス領に攻めて来たのは記憶に新しい。だから貿易なんてあり得なかった。


 だがアイガーク国が従属したことでこれからはお得意様だ。もちろん従属相手とはいえ植民地ではないので、互いにWinWinの関係を築いていかなかければならない。


「そういえばメイルはどこだ?」

「ちょっと気分が悪いって席を外してるよ」

「そういえばパーティー会場でもあまり食べれてなかったな」


 アイガーク国はレーリア国と気候が大きく違うからな。慣れない環境で体調を崩してしまってもおかしくない。後でそれとなく大丈夫か聞いておこう。


「でもよくアイガーク王もよく決断したよね。普通なら従属なんて簡単には決められないよ」

「そうだな。バカに見えるが何だかんだで頭は悪くない、いやむしろよいのかも」

「いやあれは野生の勘が働くだけですー」


 アイガーク王は従属すると言ったが、本来ならそうそう簡単に決められる話ではなかった。まず臣下の中では納得しない者も大勢出るはずだ。大国相手ならまだしも一領地に従属するなど正気の沙汰ではないと。


 だがそういう諸々含めてあいつは「俺に任せろ。あんな男気見せられたら負けてられねぇ。責任もって臣下は何とかする」とまで言ったのだ。


「アイガーク王は野蛮ですが有言実行しますー。あいつの言葉は信じてよいでしょうー」


 そして何だかんだでアイガーク王を信用しているレイラス。この二人の関係性は結構面白いよな。明らかに水と油で喧嘩してるのに、何だかんだで互いの能力については信用している。


 アイガーク王の方もレイラスはうまく統治する、とは言ってたからな。臣下からの反逆を受けるまでという限定つきだが。


「よおお前ら! 酒飲もうぜ!」


 そんなアイガーク王はいきなり客間に突撃してきた。しかも両手にワインの瓶とグラスを持って。でもせっかく妻たちと話してるのに……。


「帰ってくれ。ここは家族水入らずだぞ」

「水じゃねぇ、酒だ」

「そういう意味じゃないんだが……」


 ダメそう、こりゃ帰らない。諦めて飲み会するしかないな!


 俺はアイガーク王からワインの入ったグラスをもらって口につける。


「上等な酒だからお前らの飲め飲め」

「じゃ、じゃあ頂きます」

「……はぁ。最悪ですー」


 ミレスはわりと乗り気で、レイラスはしかめっ面でグラスを受け取って飲み始めた。こうしてまた酒の宴会が行われていく。


 正直先日の会場貸し切りよりも、こういった感じで飲む方が楽しいよな。


「おいベギラァ。荷台ゴーレム二台くれ」

「クソみたいなギャグやめろ」

「違う違う。臣下の説得にアレがあった方がいいんだよ。それにお近づきの印というか、友好の証にもなるだろうが」


 レイラスの方をチラリと見ると、彼女は少し悩んだ後に。


「ベギラ、あのゴーレムの技術が盗まれると困りますー。なのでダメですー。私たちがいる間に見せるならよいですよー」

「というわけだが。何なら要人たちを荷台ゴーレムで迎えに行けばいいんじゃないか?」

「チッ、やはり簡単には漏洩させないか。まあそれくらいじゃないととても信用できないがな! がははは!」


 アイガーク王は更に酒をがぶ飲みしていく。


 ちなみにだが仮にアイガーク国に荷台ゴーレムを預けても、そう簡単に技術を盗むことは不可能だ。あれは前提として俺の潤沢な魔力がないと、そうそう製造できない代物だ。


 普通のゴーレム魔法使いだと、荷台ゴーレム製造に全魔力注いで年に一台できるかどうか。しかも製造に失敗したらまたやり直しで、大量に魔力を使うので練習も簡単にはできない。


 俺がゴーレム魔法を色々と発展させられたのも、潤沢な魔力があって練習ができた。それに師匠という優れすぎた師がいたからだ。やはり困った時にアドバイスしてくれる先人はすごく大きいのだ。


 他国のゴーレム魔法使いが独力で身につけられたとして、荷台ゴーレム完成に漕ぎつけるのは二十年か三十年後か……。


 ただしレーリア国というかライラス領は別だ。俺や師匠というコーチがいる。


 弟子はいいぞ。自分が壁にぶち当たった時に、師匠がその解決策を持っていることが多々あって極めて成長しやすいのだ。先駆者が偉大と言われるのは、その壁を完全に自力で壊した者だからだ。


「それでどうするんだ? 荷台ゴーレムを見せつけるか?」

「おうよ! 明日から付き合ってもらうぜ! それと馬車ゴーレムもダメか? あれがもし砂漠走れるならすごく助かるんだが。ラクダとは比べ物にならねぇ、国の流通が盛んになるし臣下たちにも従属のメリットに提示できる」


 アイガーク王は俺に真摯に願ってくる。


 彼が俺達の領地に攻めて来たのも、砂漠の貧しい地域を養うためとか言ってたな。それなら協力してやりたいところではある。レイラスに視線を向けると今度は頷いた。


「ゴーレム馬車はレーリア国の貴族にも配ってますからねー。アイガーク王も何の成果もなしに臣下を納得させるのは難しいでしょうしー? 身内でゴタゴタされたら困るのはこちらもですからー」

「恩に着る! それとな、やはりここまで恩を受けてばかりはダメだ。だから代わりに俺の娘を……」

「た、大変大変!」


 アイガーク王との会話にミレスが横入りしてきた。珍しくかなり焦っているがどうかしたのだろうか。


「どうしたんだミレス。そんなに焦って。大変って目の前に他国の王がいる状況より大変なことなんてそうそうないぞ」

「そうだぞ。俺はこれでも王だぞがはは!」


 忘れがちだがアイガーク王はアイガーク王である。俺も何言ってるか分からないけど。


「実はメイルちゃんの体調が悪いから、医師の人に見てもらってたんだけど……妊娠してるかもって」

「なるほど……凄まじく大変じゃないか!? アイガーク王、悪いが話は後だ!」


 俺は急いで走っていく。


「ちょっとベギラどこに行くのさ!? メイルちゃんがどこにいるか知ってるの!? こっちこっち!」

「はっ!? そうだった!」


 急いでミレスに追いつくように走ると、レイラスとアイガーク王が何かを呟いていた。


「あー……弱ったな。こうなると流石に言える空気じゃねぇなぁ……まさかてめぇ、このタイミング狙ってたんじゃないだろうな」

「狙っていたわけではないですよー? でも運がよければ重なるかなーとは思ってましたがー。貴方がしようとすることなんてお見通しですー」

「チッ……だがまだまだ」



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実はベギラ最大の敵は未だにレイラスかもしれない。

ハーレム的な意味で。

王配があまり大量に妻抱えると面倒そうだし。

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