第106話 荷台ゴーレムの真の力


「アイガーク王に力を見せつけたい。なので荷台ゴーレムを一台くれ」


 俺はパーティー会場に戻ってすぐにレイラスに相談した。彼女は何故か少し息を切らせていてドレスや髪が多少乱れている。まるで走ったかのような状態だ。


「あ、アイガーク王に力を見せるのはよいのですが、荷台ゴーレムを一台くれというのは? 使いたいのではなくてくれですか?」

「たぶん壊すからな。でも絶対にムダにはしない」

「そ、そうですか。なら使っていいですよ」

 

 レイラスは顔を少し赤くして、俺から視線を逸らしながら告げてくる。


 よし! これで思う存分できるな!


 腕を組んで睨んでくるアイガーク王に対して俺も睨み返す。急かすなよ、すぐに見せてやるからよ。


「ありがとなレイラス! じゃあ早速あのアイガーク王に目にモノ見せてやる!」

「頑張ってください」


 俺はレイラスに背を向けてアイガーク王へと近づいていく。あれ? そういえばレイラスに話してないな、アイガーク王に力を見せつけることになったかを。


 普段なら確実に確認してきそうなものだが、本人納得してるみたいだからいいか。


「待たせたな。許可はとったので砂漠で荷台ゴーレムの性能見せてやるよ」

「見せてもらおうじゃねぇか。ここまで言ってしょぼかったら分かってるな? 吐いたツバは飲み込めねぇぞ」

「はっ、お前にそっくりそのまま返す。とはいえ今日はもう遅いから明日だがな」


 俺とアイガーク王の視線がぶつかり合い、パーティーは大荒れになるのだった。そして翌日になり、俺達は荷台ゴーレムを連れて王都の西にある砂漠に訪れる。


 砂、砂、砂。砂と岩しかない上にすごく広い砂漠だ、これなら思う存分やっても問題ない。


「見せてもらおうじゃねぇか。荷台ゴーレムの力とやらをよ!」


 真剣な表情で俺を見てくるアイガーク王。おそらくこれは喧嘩ではなくて値踏みだ。俺の価値を自分の目で図ろうとしている。臣下からの報告ではなくて、己の眼力にてだ。


「頑張るです、あなた!」

「いけー! ゴーレムのお騒がせパワーを見せてやれ!」

「頑張ってくださいー」


 メイルやミレスやレイラスが俺を必死に応援してくれる。ここで無様な姿をさらすわけにはいかないな!


「荷台ゴーレム、まずはこの周辺を全力で走れ!」

「ゴオオオオオ!」


 荷台ゴーレムが八つの足を活かして高速で砂漠を走っていく。ゴーレムコアで魔力を纏っているので、砂漠でも足を取られずに爆走だ。


 この時点でヤバイ代物だと分かるはずだが、アイガーク王は腕を組んでしたり顔だ。


「そのゴーレムがヤバイ速さなのは来た時に見てるぜ。だが足りねぇな。そいつの厄介さは間違いないが、周辺諸国と組んで一斉に襲えば勝ち目はある」


 チッ、この国に来た時に荷台ゴーレムの性能は確認されていたか。事前に知っていれば驚きは少なく、また脅威であるがまだ抵抗できると思われている。


 ならその誤解を解いてやらなければならない。


『弟子よ、何かあればワシが荷台ゴーレムを即座に粉砕する。分かっているな?』

「はい。緊急事態には迷わずお願いします」


 ゴーレム師匠にはやることを事前に話している。今からやることはすさまじく危険なので、事故対策も万全にしておかなければならない。


「わ、私も準備万端です!」


 フレイアが身の丈ほどの杖を持って構えている。彼女にはいつでも魔法を撃てる体勢で構えていてもらう。同じく何かあった時の対処要員だ。


 俺は一台の荷台ゴーレムに手を置く。今からやることはきっと歴史に残るだろう。両足を持つ荷台ゴーレムだからできる力、その一端をここで示す……!


「見せてやるよ。これが俺が今まで得てきた力の組み合わせ、《コア・スタンピード》!」


 俺が詠唱した瞬間、荷台ゴーレムがより一層輝きだした。纏っていた桃色の光が、真紅の赤へと変貌していく!


 コア・スタンピード。永続稼働のコアを持つゴーレムに対して、そのコアを暴走させることで一時的にあり得ない性能を引き出す魔法。


 この力は絶大だ。馬より少し遅い速度しか出せない象ゴーレムですら、一時的に自動車にも劣らぬ速度を出せるのだから。


 なら最初から自動車レベルの荷台ゴーレムが、この力を発揮すれば……人智を越えた力を出せるってことだよ!


「荷台ゴーレム、走れ!」

「ゴオオオオオオ!!!!!!」


 荷台ゴーレムは一気に加速した。その速度はもはや目で追うのが難しいレベル。


 今までが自家用車だとすれば、これはもはやレーシングカーだろう。


「は、ははは……まじかよ。そこまで速く走れるとはな。チッ、分かったよ。俺の想像を上回ったのを認める、荷台ゴーレムの力を認めてやるよ。お前の力を認めてやる」


 アイガーク王は荷台ゴーレムを見て、僅かに顔を引きつらせている。どうやら心を少し折ることには成功したが足りない。


「まだだ、こいつの恐ろしさは今からだ」


 この程度が荷台ゴーレムの可能性、いやではない。これなら別に有用性が多少上がった程度だ。元から速い荷台ゴーレムならば、そこまで劇的によくなったわけではない。


「ん? おい、なんか荷台ゴーレムの様子がおかしくねぇか?」


 アイガーク王は荷台ゴーレムが蒸気を噴き上げていることに気づく。別におかしくはない、何故ならこれが正常な動きだ。


「荷台ゴーレム! あの大きな岩山のそばへ行け!」


 荷台ゴーレムは俺の指示に従って、遠く離れている高さ10mはありそうな岩山へと走っていく。その間にもさらに蒸気が上がっていき、ピーという音が周囲に鳴り響く。


 そうして荷台ゴーレムが岩山へと接近してすぐに、ドカンと轟音が発生した。コアが限界を迎えて爆発したのだ。


 ゴーレム荷台の残骸が破裂して吹き飛び、岩山の肌に襲い掛かった。木の板たちは強烈な力で飛ばされた上に、魔力でコーティングされていた。なので岩山の肌に突き刺さり、大きな破片に至っては貫通して大穴を空ける。


 最終的に岩山は穴だらけになった。山のような大岩だからこの程度で済んだが、もし薄い壁などなら崩壊していた。


「ははは、こりゃ勝てねぇ。勝ったとしてもどれだけ被害が出るか……俺の負けだ。アイガーク王国は従属する」


 アイガーク王は俺に対してそう宣言したのだった。



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