第105話 意思があって勝手に動いて制御できない操り人形


 アイガーク王の言葉は俺を困惑させるには十分だった。相変わらずこいつは突拍子のないことを話してくる……。


「俺がレイラスから玉座を奪えだと?」

「そうだ。お前は成り上がりで上を目指す奴だ。なら王配よりも更なる先を望んでいる」

「無理だろ。実権はレイラスが握ってるんだから」

「俺が協力してやる。お前が王になるってんならアイガーク国は従属してやる。だがレイラスなら話は別だ。俺はあいつには従いたくない」


 アイガーク王は顔をしかめている。こいつは本当に表情が分かりやすくて助かる。


「国同士の関係を好き嫌いで決めるなよ」

「国同士の関係だから好き嫌いで決めるんだよ。俺は王として民を導くために、自分の直感に従うんだ。レイラスは確かに国を豊かにする、だがあいつはいずれ臣下に裏切られる」

「レイラスならうまくやると思うがな」

「いや無理だ、あいつの根本にあるのは恐怖政治だからな。今さらやり方を変えられるわけがない。だからそれなら最初からお前が王の方がよい。従属先がごたつかれたら困るんだよ。あいつは参謀くらいでちょうどよい」


 真剣な顔で俺を見てくるアイガーク王。確かに筋は通っている。


 レイラスは基本的に臣下に圧力をかけるタイプだ。組織のリーダーとして皆の信頼を集めるよりも、しっかりと場を固めるNo2のポジションの方が向いている気はする。


 後は……彼女はあまり表情に感情が出ないので、大抵の相手は怖がってしまう。少女がにこやかに愛想を振る舞いても誰も従わないので仕方ないのだが。


「特にだ、レイラスがトップだと俺の国の臣下は従属に絶対に納得しねぇ。分かるだろ? 俺からレイラスだぞ?」

「……ああ」


 それについては俺も納得しかできない。


 考えて欲しい。急に自分達のトップが野蛮ガチムチ筋肉系愛想オジサンから、可憐な毒棘微笑美少女に変わるのだ。あまりに差があり過ぎる……!


 特に見た目がなあ……アイガーク王は明らかに自分のカリスマ、武勇を見せて支持を集めている。対してレイラスは真逆に近いから……いや魔法使えるけども、見た目は華奢な少女だ。


「つまりだ、お前が王になることが最も綺麗に話がおさまるんだよ。俺達は従属できるし、お前は上に立てる。レイラスだって俺達と対立するよりいいだろうと思う。これは全員が得になるんだぜ」

「…………」


 すでにアイガーク王の中では、現レーリア王家はないことになってるようだ。どうせ風前の灯火だし正しいが。


 王か。俺がレーリア国の王になるのか……ツェペリア領の貧乏男爵の四男だった俺が……大国の王にまで成り上がる……。


「そうだ、お前こそ王の器だぜ。男なら上を目指すもんだろうが! 行こうぜ! お前の望みは成り上がることのはずだ!」


 アイガーク王は獰猛な笑みを浮かべながら俺に手を差し出してくる。


 俺は成り上がって来た。手柄を立ててツェペリア領主になり、更にはライラス辺境伯の婿としていずれ王配だ。目の前の男はその先を更に欲張れと言うのだ。


 俺の望みか……ふっ、そんなものは決まっている。アイガーク王の差し出された手に対して、こちらもゆっくりと手を伸ばして。


 パン!


「……は? おいおい、これはどういうことだ?」

「どうもこうも。これが俺の答えだ」


 差し出された手を跳ねのけた。というかビンタしたんだが、こいつの手が岩のように硬くて俺の方が痛い……おのれ筋肉ダルマめ。


 アイガーク王は少し目を見開いていたが、すぐに我を取り戻して俺を睨んでくる。


「……おい。てめぇは成り上がり者だろ? 何故この手を払う? お前が僅かに手を伸ばすだけで、一国の王にまで成り上がれるんだぞ! 夢がかなうんだぞ! 操り人形でいいってのか!」


 俺はアイガーク王の言葉に笑ってしまう。


 こいつは物凄く大きな勘違いをしているのだ。仕方がないから教えてやろう。


「勘違いするな。俺の夢はな……ハーレム作ることなんだよ!」

「なにぃ……?」

「ハーレム築くために成り上がって来たのであって、成り上がったからハーレム築いたんじゃない! 俺の夢はすでに大半は叶ってるんだよ! お前の策略なんかにのるか!」


 俺の言葉にアイガーク王は少し呆けた後、クツクツと面白そうに笑い始めた。だが今度は殺意のこもった目で俺を見てくる。


「お前が王になれば万事うまく行く。なのにそれを捨てるのか?」

「そもそも万事うまく行くとも思えない。俺は国の運営のことなんて何も知らない。例えばお前が案内しようとしたスラムの実情もな。だがレイラスは領地中の問題を把握している。あいつなら解決できる」


 俺はレイラスのことをしばらく見てきた。


 彼女は決して冷血な人間ではない。土地と民のことを考えて慈しめる人間だ。恐怖政治なのはあくまで彼女自身が怖いだけであって、他の人を苦しめる本当の意味での恐怖政治じゃないんだよ!


「知ってるか? レイラスは可愛いんだぞ。あいつはウキウキで皆をお昼に誘ったり、ハンバーグを楽しそうに焼くんだ」

「……はぁ?」

「俺はレイラスをお前より知ってるって言ってるんだ! 俺はレイラスを手伝っていくと決めた! その逆はない! 好きな女の足を引っ張ってたまるかよ!」


 俺は大声で高らかに宣言する。


 外の廊下から小さな悲鳴みたいな声が聞こえた。あまりに大きな声を出し過ぎて、通りすがりの人に聞かれてしまったようだ。


「ただの惚気かよ……お前が王になった方が、レイラスは動きやすいはずだ! 臣下だって女より男に従う!」


 なおも食い下がるアイガーク王。だがな、お前の魂胆はお見通しなんだよ!


「そんなわけないだろ。何の権威もない俺が王になってみろ、貴族たちは従わなくなる。そうすれば国が割れて内乱が起きる。それで得するのは誰だろうな? 現敵国に近いアイガークさん」


 アイガーク王はしばらく黙り込んだ。そして俺に対して愉悦とばかりに笑いかけてきた。


「へぇ、言葉は一丁前じゃねぇか。だがな、言うは簡単だが言葉には責任が伴う。お前が王にならないなら、俺はレーリア国と徹底抗戦するぜ? お前はその責任を取れるのか?」


 …………確かにな。ただ口先だけの奴など信用されるはずもない。


 だが俺の主戦場は口じゃない。この腕であり造ったゴーレムで語る。


「……なら見せてやるよ。お前が戦う気も失せるモノを、荷台ゴーレムの力をな」


 元からアイガーク王に対して、レイラスが荷台ゴーレムの力を見せるつもりだったのだ。俺がやったところで変わりはないだろう。


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立場がややふわっとしてたベギラが、正真正銘自分で宣言しました。

世界の半分を(ry


ちなみに内緒ですが、裏でコッソリ誰かいます。

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