第102話 アイガーク国へ


 荷台ゴーレムが完成してから三ヶ月。


 その間に俺はずっと荷台ゴーレムを作成し続けた。


 今は立ち入り禁止区域の平野にいる。俺の目の前には都合六台の列車荷台ゴーレムと、馬車荷台ゴーレムが一台揃った。俺と三人の妻は馬車荷台ゴーレムに乗って、アイガーク王国へ向かうことになる。


 流石に領地の代表が荷台だと見栄えが悪すぎるのが理由だ。アイガーク王城に入城する前には見栄のために馬まで買うらしい。車輪ついてないから違和感凄いけど。


 三ヶ月の間が空いたのはレイラスの都合だ。彼女曰く、他との調整があるからと。詳細を聞いたが頑なに教えてくれなかった。


「七台も揃うと壮観だな。こいつらでアイガーク王国に乗り込むのは胸が熱くなる」

「乗り込むというより殴り込むな気がするです……」

「見た目とは裏腹にすごく速いから驚くだろうなぁ……」


 メイルとミレスは荷台ゴーレムを見て遠い目をしている。何も俺達は戦争を仕掛けにいくわけではないのに。

 

「ふわぁー、眠いですー。荷台ゴーレムに乗っている間は眠らせてもらいますねー」


 レイラスは眠そうにしている。というか彼女は最近ずっとこうだった。


 すごく忙しそうなので何か手伝うことはないかと聞いたが、「手伝う気があるなら手伝わないでくださいー」と言われてしまったのだ。戦力外にされているみたいで悲しい。


 なお俺達が乗らない荷台ゴーレムたちに関しては、パンや干し肉などを積めるだけ積んでいる。アイガーク王国に向かうついでに長距離運搬の実施テストをやるらしい。


「なあレイラス、本当に三ヶ月の間に何をしてたんだ?」

「内緒ですー。それよりもあなたはー、アイガーク王とのやり取りに備えてくださいー。私があいつと話してもどうせ決裂するだけなのでー」


 レイラスは俺にニコリと微笑みかけてくる。


 アイガーク王を篭絡してアイガーク国と和平、もしくは従属させること。それが俺に課せられた任務だ。来たるべき王家とエルフ公国との戦に備えて、無駄に戦力を消耗したくない。なのでアイガーク国とは和平を結びたいと。


 俺としても戦争は嫌いなのでよいと思う。元々戦争で手柄をあげて出世した俺が言うのも何だが。でもそれだって戦があったから出陣しただけで、なかったら他の手段で頑張っていただろう。


『ワシは横で走りながらデータを取るからの』


 師匠ゴーレムが準備体操をしながら告げてくる。


 師匠も俺達の護衛としてついてくるのだ。なお彼は荷台ゴーレムには乗らず自力で走って並走する。


 荷台ゴーレムは相当速い、だが師匠はその倍以上のスピードを出せるので余裕だ。今なおゴーレム界最速は断トツで師匠なのである。何ならパワーも頭脳も魔力もトップは全部師匠だ。


 今後何かひとつの能力だけでも、師匠を越えるゴーレムは生まれるのだろうか。仮に造れても百年後とかそんな気がしている。師匠はゴーレム界のオーパーツでありロストテクノロジーなのだ。別に失われてないけど。


『もし盗賊が出てきたらワシが蹴散らしてやるからの』

「出てきたとしてもこの荷台ゴーレムを止める手段がないような」


 80kmで走るゴーレムだからな。よほど事前に待ち伏せておかないと、そもそも追い付くことすら困難だ。


「ではー、そろそろ向かいましょうかー。馬車に乗り込みましょうー」

「ねえレイラス。馬がひいてない馬車の荷台を馬車って言うの?」

「分かりやすさの関係で馬車でいいのですー」

「そもそも車輪もないんだけど」

「……馬車でいいのですー」


 そうして俺達は馬車? に乗り込んだ。


「じゃあ出発しますねー」


 御者台に乗ったフレイアが叫ぶと同時に馬車ゴーレム改は動き始める。ドタドタと揺れはするがそこまで酷くない。おそらく自動車とあまり変わらないだろう。


 これはゴーレム魔法によって馬車が過剰強化された結果、揺れもダメージ換算となって無効化されているという仮説を立てている。実際の理由は目下解明中であったりする。


 そうしてガタゴトと馬車たちは動いていく。


「すー……すー……」


 レイラスは疲れがたまっていたらしく、座席に横たわってメイルの膝枕で眠ってしまっている。いいなぁ、そこは元々は俺の特等席だったのに。


「レイラスちゃん可愛いのです……! 普段は凛々しいから余計に可愛いのです……! す、少しイタズラしちゃいたいのです……!」

「ぼ、ボクも……少しくらい触ってもいいよね?」

「あ、俺も……」

「「あなたはダメ(です!)」」


 ひ、酷い!? 何で俺だけダメなんだよ!?


「な、なんでだ!? 俺は夫だぞ!?」

「その卑猥な手の動き的に、レイラスちゃんの胸を揉む気なのです! ダメです!」

「そ、そ、そ、そんなことしないしっ!?」


 俺達が団らんしている間にも馬車は進んでいく。普通の馬車なら一ヵ月はかかる道のりだが、この馬車なら二日~三日で到着予定だ。ヤバイ。


「待てい! 我らエルフがお命ちょ……えっ、はや……!? 風の障壁が

抜け……」


 ん? 今なんかゴンッ! みたいな音が聞こえた気がするけど。


「フレイア、今何か妙な声と鈍い音がした気がしたんだけど」

「気にしないでください。道端に石ころが落ちていただけです。粉微塵に砕けましたので」

「うむ、やはりこのゴーレムはかなり丈夫じゃ。幸いにもよいデータがとれたわい。こういうのは実験しづらいからのう」


 何かあったんだろうなぁと思いつつ、まあいいかと流すのであった。

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