第101話 ヤバイ代物


 私は屋敷の執務室で急いで手紙を書いていた。


「お館様、少しお休みになられては」

「ダメですねー。もし荷台ゴーレムの存在が知られたら取り返しがつきませんー。それまでに何としてもやらなければー」


 手紙の送り先はアイガーク国の更に西に位置する国と、レーリア国の東にある国の王たち。記載した内容は三年の停戦協定の要求だ。


 ベギラの完成させた荷台ゴーレム、あれはあまりに劇薬過ぎた。私はだいぶヤバイ代物と思って計算していたのに、更にそれよりも一回り上で来たのだから!


「ああもう! 何でベギラは私の予想を毎回斜め上回るのですかっ! いくら何でも荷台ゴーレムはマズイです! あんなの知られたら周辺国家が一斉に同盟を組んで、私たちを攻めてくる可能性までありますよ!」

「確かにあれは脅威ですからなぁ……」


 元々予定していた長車ゴーレムも相当な代物だった。だがあれならまだ他国も許容できただろう、だが荷台ゴーレムはダメだ。私が他国の王だとしても、あのゴーレムを持った国が相手なら間違いなく攻めを選ぶ」


「道でなくてもどこでも歩けて、かつ大きくて高速で走れて丈夫……もうただの突撃兵器じゃないですか!? しかも運搬能力も極めて高い!」

「防衛側はどうしようもないですからなぁ……」


 荷台ゴーレムが最悪な点。それは敵軍や街への突撃能力が高すぎることだ。敵に壊滅的な被害を与えられる上に、迎撃が困難なことであった。


 まず馬車よりも巨体で、かつゴーレム化して丈夫な荷台が突っ込んでくる時点で脅威だ。しかもそれが凄まじい高速で突進してくれば、魔法使いであろうが迎撃は不可能だ。


「何で! 運搬用ゴーレムの開発で! 戦争でのゴーレムの弱点を消すどころか長所にするんですかね!?」


 元々ゴーレムの評価が低いのは戦争で扱いづらいからだ。そしてその理由は硬くはあるが足が遅く、魔法使いの攻撃魔法で簡単に迎撃して潰せたから。


 荷台ゴーレム、弱点だった箇所がないどころか超高速。つまりもうただの強力過ぎる兵器だ。特に攻めにおいては強すぎる。


 なら他国が思うことはひとつだ。攻められたら負ける、ならばその前にこちらから攻めようと。ライラス領はアイガーク国とレーリア王家との戦いに勝って領土を広げるだろう。


 だが間違いなく弱るのでその隙をつくのだと。それは間違っていない、私だって他国の王ならそう判断する。


 だがライラス辺境伯としてそうさせるわけにはいかない。なので攻めれないように情報を隠したまま、停戦協定を結んでしまうのだ。


「アイガーク国とレーリア王家と万全に戦うために、停戦協定を結びたいと騙すのです! 数年時間を稼げば後は圧倒的な力で従属を迫れます!」

「しかし向こうが言うことを聞きますかな? 荷台ゴーレム抜きにしても、我らが戦って弱るところを狙うでしょうし」

「停戦協定のまないなら、アイガーク国やレーリア王家と組むかもとハッタリきかせます! そして今なら貴方達に有利な条件で停戦協定結ぶと書いてます! だいぶ向こうに有利な条件でね!?」


 メフィラスの意見など想定済みだ。向こうだって渋るので、かなり譲歩した停戦協定にせざるを得ない。最悪で劣勢で停戦結んだ時の賠償金くらい払うのも覚悟している。


 荷台ゴーレムは強力過ぎる兵器なのだ。突撃兵器で運用しなくても脅威だ、高速で大量の兵を載せて陸地ならどこからでも侵攻できる時点でおかしい。


 これがまだ街道しか運用できないならば、そこで待ち伏せするポイントも多くある。だがどこでも歩けるので、防衛となると戦える場所が物凄く限られてしまう。


 挙句に移動に時間がかからないので、兵士に必要な兵糧も少なくて済む。つまり軍を編成するのも短時間なので、敵が軍を整える時間を与えずに攻め滅ぼせる恐れもある。


「ああああああ! 荷台ゴーレムを使った強い戦法がいくらでも頭に思い浮かんでくるのです!」


 悪夢だ。速攻で対立国の王都に侵攻して、王の首をとって勝つという戦法が成立する。


 そして王は国の決定権を持つ。当然殺されてたまるかと先に仕掛けてくる。


「いいですか!? 御者に我々は弱者を装うように徹底しなさい! 何としてもこの停戦協定を結ぶのです! そうすれば攻めてこれない!」

「もし破って攻めてきたらどうされます?」

「攻め滅ぼすしかないでしょう! 一国だけなら簡単に勝てますよ! 荷台ゴーレムがあれば!」


 数年の時間があれば荷台ゴーレムを量産できるので、複数から攻められても全ての戦場に投入できる。だが今はそれができない、ましてやアイガーク国と争った後では流石に厳しい。


 レーリア王家はそこまで相手にならないのが救いか。


「アイガーク王に荷台ゴーレムを見せたらどうなりますかな」

「分かりません! あいつは苦手なんですよ! しかも交渉するのはたぶんベギラになるのでもう予想つきません!」


 予想できない人物と予想できない人物が話し合って、予想できるわけがない! でも私がアイガーク王と話してもどうせ戦争になる!


 ならベギラに話させた方が幾分マシなはず!


「お館様、胃薬はいかがですか?」

「……もらいます」

「ちなみにいっそ、荷台ゴーレムは生まれなかったことにするという選択肢も」

「それはダメです。あれがうまくできれば、国の経済は比べ物にならないほど潤って民が喜びます。それに他国が生み出してしまったら一緒です……!」


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