第99話 ゴーレム革命の光


 荷台ゴーレムの移動手段を車輪ではなく足にする。そう決めてから二ヶ月が経つ。その期間は色々と試行錯誤をして荷台ゴーレムの調整をしていた。


「うーむ。こりゃ重さに比べて足が弱い気がするのう」

「もう少し太くて丈夫な方がよさそうですね。象みたいな」

「象?」

「ああいえ何でもありません。もう少し太くして、そもそも足の素材も木ではダメかも。足の部分は鉄にしてもらいましょう」


 ゴーレム荷台を一台作るのには十日かかる。大きい荷台を速く動かすには、コアに多くの魔力を注がなければならない。


 元々ゴーレム馬車は通常のゴーレムよりも多い魔力を込めたコアが必要だ。


 だが今回ゴーレム化する予定の荷台は、普通のゴーレム馬車より大きくて重い。より多くの魔力が必要だった。他にも動くが揺れすぎて人が乗ったらマーライオンなど、数々の問題が現れたのだ。


 それをモグラたたきのように潰していった結果、今の荷台ゴーレムは六号機、マーク6、Ver6……言い方は何でもいいが六体目だ。


 屋敷の庭に集まる俺と師匠とフレイア。そして目の前には象のように太い鉄の八足に見立てた棒で立つ、天井だけ開いた箱型長方形の荷台。足以外はさながら貨物列車の一両分みたいだ。


 今回はゴーレムコアに魔力を貯める日を、十日ではなくて十五日にしてさらに馬力も高めた。これでうまく行って欲しいところだ……!


「じゃあゴーレム化します」

「うむ」

「頑張ってください、師匠!」


 俺はゴーレムコアを手のひらに出して荷台に埋め込んだ。それを固唾をのんで飲み込む俺達。


 すると荷台の色が変色して、魔力光のような桃色の光を纏ったのだ!


「お二人の師匠!? これはいったいなんなんですか!?」

「これはたぶん……」

「ああ、間違いないのじゃ」


 フレイアに対して俺と師匠は顔を見合わせて頷いた。


「ゴーレム化する荷台の大きさに比べて、コアに過剰に魔力を込めすぎた……ですよね?」

「うむ。身体に行き渡らせてなお余った光が、漏れ出るように光っておるのじゃろう」


 コアに多めに魔力を注ぐことで、ゴーレムの身体はより強化されて丈夫になるし運動能力なども向上する。だがそれにも限度があったということか。


 原理的には俺がゴーレムコアを食べたら、魔力過剰で吐くようなものだろう。あれ、つまりあの光はゴーレムの魔ゲ……考えないようにしよう。


 何となくだが今回はいけそうな気がするぞ! というかこれでダメなら魔力込めすぎて強化は無理だから頼む!


「よし、ゴーレム歩け!」

「ゴオオ!」


 荷台ゴーレムはゆっくりと歩き出した。安定感のある歩きでまったく揺れず、しっかりと地に足をつけている。


「じゃあ次は走れ! でも建物にぶつかるなよ!」

「ゴオオオオオ!」


 荷台ゴーレムは八つの鉄の足を動かして凄い勢いで走り始めた! 


 速い! 庭が狭いのですぐに停止してしまったが、今の瞬間スピードはゴーレム馬車を軽く凌駕したように見えたぞ!?


「師匠! これはやったのでは!」

「うむ! まだ実際に走らせてみなければ断言はできぬが、きっと相当な速さのゴーレムになっておる!」

「すごいです! お二人とも!」

「いやまだだ! すぐにレイラスに相談して実地試験だ!」


 俺は思わずガッツポーズしそうになるがこらえる。まだだ、まだ笑うな……ぬか喜びになったらダメージが大きい!


 急いで屋敷に入って執務室へとダイブする。レイラスが着替えていたら嬉しかったけど、普通に仕事していたそりゃそうだ。


「どうしましたー? そんなに慌ててー?」

「荷台ゴーレムが完成した! 庭だと狭すぎてスペックが測れないから実地テストを行いたい!」


 俺の叫びにレイラスは目を細めた。


「つまりすでにかなりの速度が出るということですねー? だから庭ではまともに走れないとー」

「そうだ!」


 流石はレイラスだ、話が早い。もう庭を一周させてーとかそんな次元ではないのだから。


「この街の少し西に部外者立ち入り禁止区画の平野があります。強い魔物がいて危険だから冒険者ギルドからの依頼を受けた冒険者しか入れません。そこの依頼を三日後に取り消させて、かつ現在受けている依頼も無効。誰も入れない無人にします」

「いいのか? 冒険者ギルドから不満とかあがらない? それに三日だと冒険者からも文句出るんじゃ……」


 冒険者は依頼を受けてすぐにやるとは限らない。例えば必要な物資を揃えたりで、依頼を受けてから三日目に開始するなんてザラだ。


 つまり現時点で依頼を受けて、準備している冒険者からすれば理不尽過ぎる。物資を購入したのに肝心の依頼がこなせないのだから。


「荷台ゴーレムの早期完成のためなら些事です。成功した時の報酬を渡します」

「酷いゴリ押し……」

「金の使いどころを間違えるつもりはありません。これからしばらくその区画は立ち入り禁止なので、貴方達の実験場にして構いません。危険な魔物がいますが貴方なら問題ないでしょう」


 レイラスが微笑みかけてくるので頷いた。


 危険な魔物? それは人間基準の話であって、師匠ならワンパンでぶちのめせる。優秀な攻撃魔法の使い手であるフレイアもいるからな。


「じゃあ早速だけど行かせてもらうよ。荷台ゴーレムは歩かせていくが大丈夫だよな?」

「歩かせる以外の移動手段があるのですかー? 車輪がないので引っ張ってもいけないでしょうー?」

「チッチッチッ。俺はゴーレム使いだぞ? ゴーレムを何体か用意して持ち運べる」


 忘れがちだがゴーレムの最大の得意分野は力仕事、特に運搬である。本当に忘れがちだし今まであまり役立てた記憶がない箇所だが。


 力仕事は対抗馬が多すぎるんだよな。人もだしそれこそ馬にひかせたりとかもできる。なのでアイスゴーレムとかフィッシュタンクゴーレムとかの方が有用に見えてしまう。


 …………待てよ? 荷台ゴーレムの身体を雪にしたら、冷蔵庫みたいに運べるんじゃ……。


「そうでしたねー。でも持って運ぶ方が目立ちそうなので、ゆっくり歩かせての移動でお願いしますー。期待していますよー!」

「おう!」


 そして俺達は立ち入り禁止区画に入った。師匠が大暴れして危険度最高ランクのドラゴンとかぶちのめした後に、荷台ゴーレムの実験を開始する。


 結論から言うと荷台ゴーレムは大成功だった。馬車どころか馬車ゴーレムよりも速い、おそらく時速80kmは出ている。本当に汽車に近い運用ができてしまうぞ。


 更に荷台ゴーレムに普通の荷台をつけて走らせても大丈夫そうだ。この場合は普通の荷台は車輪なので街道でしか走れなくなる。それと荷台の耐久力が少し不安だ、使用するたびにメンテが必要だろうな。


 そうして実験が終わると師匠ゴーレムが震えていた。


「これは革命じゃ! ゴーレム革命じゃ! ワシが生きている間にこのような光景が見れるとは!」

「師匠って生きてる判定なんですかね?」

「そういや人間としては死んでおったわ! じゃあ死んでからこのような光景が見れるとは!」

「おめでとうございます! これで完成ですね!」


 フレイアが俺に笑いかけてくる。はて? この娘は何を言っているのだろう?


「いやまだこれからだぞ? 改良点も大量にあるし、足を六本にしたらとか試したいことはいくらでもある」

「えっ」

「ゴーレムは奥深く限りがない。ここで終わりと決めつけてはならぬのじゃ! まだ荷台ゴーレムは生まれたばかり! 逆に言えばいくらでも可能性があるということじゃ!」


 俺と師匠は燃えていた。こいつはひとまず実用に耐えるというだけで、まだまだ未完成なのだから。


 まずは致命的な問題があるので改修が必要だ。

 

 こいつ、頭がどちらか分からない。なんか目印つけないと頭側に荷台を取り付けたりしてしまいそう。


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モンスターが生まれてしまった感。

時速80kmで八足歩行自走する荷台とか怖い。まあ師匠は二足歩行で時速200kmくらいは軽く出せそうですが。

ちなみに荷台ゴーレムの大きさは貨物列車の貨物くらいです。


以前に建築ゴーレムの最適解はハ〇ルの動く城とか言いましたが、本当にその通りになりましたね(建築じゃないけど



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現在10話目まで投稿しています!

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