第98話 そして前提条件から覆っていく
長車ゴーレムは車輪ではなくて、四足歩行にすればよい。その話になった瞬間に議論は爆発的に進みだした。
「四足なら普通の荷台より遥かに大きくても問題ないのでは? 街道の上を走れなくても大丈夫ですし」
「たしかにそうじゃのう。いっそ大型船に足をつけてゴーレムにするというのも手じゃ」
「ダブルお師匠様! でもあまり大きすぎると不便だと思います! 人を踏みつぶす事故とかありますし!」
俺も師匠もフレイアも生き生きと意見を出し始めた。そうだ、やはりゴーレムと言えば歩行なのだ! 車輪つけるとゴーレムというより車っぽいもんな!
それに車輪でなくなることによって、道を通る必要があるというデメリットが消えた! 車輪だと悪路を走らせるのは不安だが、足ならば道がなくたって走れる!
やはり足こそが最も汎用性のある移動手段なのだ! 人は地に足をつけて歩いていくべき!
「とりあえず普通の馬車につける荷台サイズで作成してみましょうか」
「そうじゃな。そのサイズのゴーレムで速く走れるか次第じゃ」
俺は手のひらの上にゴーレムコアを作成する。師普通のゴーレム馬車を造れるだけの魔力を込めたコアだ。
「おお、弟子よ! お主、かなり魔力が増えておるな! それにムダな魔力を込めてもおらぬ! 成長しておる!」
「もうツェペリア領を出てから二年以上たちますからね!」
俺はツェペリア領を出てから日々ゴーレムを生み出したことで魔力がだいぶ増えている。更にゴーレム作成に必要な魔力も少しずつコストダウンしているのだ。なのでゴーレム馬車を一日に何台か作成できる!
俺はゴーレムコアを握って振りかぶると、匠が持って来た馬車の荷台に対して投げる!
コアは見事に荷台から外れる!
「皆さんー、ゴーレム長車作成の調子はど……」
そしていつの間にかやってきていたレイラスの顔面に直撃!? やべえ!?
「…………」
ゴーレムコアがポトリと地面に落ちて、こちらを見ながら無言で笑っているレイラス。やばい、これほど笑顔に圧力を感じたのは初めてかも……!?
「ち、違うんだ! これは手が滑ったとかそういうわけではなくて!? ただ純粋にクソコントロール過ぎただけでな!?」
「そ、そうじゃ! 弟子は昔から本当に玉投げが本当にひどいんじゃ! ワシも保証するしメイルちゃんに聞けば分かる!」
「ご、ごあんしんくださいレイラス様! 顔に跡はついてないです!」
師匠ゴーレムもフレイアもあわあわしながら俺に援護してくれる! だって今のレイラス超怖いもんな!?
「なら最初から投げなければよいのでは?」
「「ごもっともで!」」
違うんだ、ついボールを握ると投げたくなるというか誰か分かって!?
「はぁ。とりあえず様子を見る限り、うまく進んでいるようですね」
「え? これで分かるの?」
「すごいのう、流石は風の識者じゃ」
「あわわ……すごいです」
レイラスは顔面にボールを食らっただけなのに、何故俺達が順調に進み始めたと分かるのだろうか……。
「ここまで賑やかに騒いでいて、私に玉まで当てておいて、進んでなかったら逆に神経を疑いますが」
「確かに……」
レイラスはニコリと笑って圧をかけてくる。これで進んでないなんて言ったら、どうなっていたか想像したくもない。
「では話を聞かせてもらいましょうか」
俺たちはレイラスに対して今までの流れを簡潔に説明した。長車はやめて荷台に足をつけるゴーレムにすると言うと、彼女はブツブツと何かを考え始めた。
「悪路でも走れるゴーレム……速度もありますし馬がひいてるわけでもないので獣の類も襲ってこないでしょう。つまり街道を通らなくも比較的安全。更に平坦な道でなくてもよくて、新たな交易路すら生まれる可能性も……」
流石はレイラスだ。俺達が考えつかないことをどんどん思い浮かべて行く。言われてみれば街道は馬車が走れないと困るので、基本的に平坦な場所が選ばれている。
だが俺達の想定しているゴーレムならば急な坂でもいけるかも。何なら山を登って降りることすら可能かもしれない。
レイラスは「コホン」と咳払いすると、明らかに作っている満面の笑みを浮かべた。
「あなたー、レイラスはあなたのことが大好きですー。期待しているので頑張ってくださいねー」
いつもよりだいぶ猫なで声で告げて来た。なんかぞわっとしたぞ、背中。
「……レイラス? 何か悪い物でも食べた?」
「…………食べるわけないでしょう。あなたがメイルさんから言われて喜んでいたので真似しただけです」
少し不機嫌そうになるレイラス。確かにメイルにこう言われたらすごく嬉しい、でもレイラスの場合は嬉しいよりもまずは違和感が出てきてしまう。
いったいどんな裏があるのだろうかと……いかん、レイラスが不貞腐れ始めている気がする。顔は笑ってるけど。
「いいですー、余計なことをしましたねー。頑張ってくださいー」
「ちょっと待ってくれ! 大好きと言われるのは素直に嬉しいから! ワンモア! もう一度言ってくれ!」
「お断りしますー、もう言いませんー。それと荷台などに困ったらメフィラスに伝えてくださいー」
レイラスはそう言い残して去って行ってしまった。
これはミスった、せっかく彼女が大っぴらにデレていたのに。
「弟子よ、お主もう少しこう。レイラスちゃんの心を分かるべきではないかの?」
「そう言われましても……あまり見せてくれない顔なので」
「お師匠様なら大丈夫です! きっとゴーレム魔法みたいにうまくいきますよ!」
こうして俺は地面に落ちていたコアを拾って、荷台に手で押し込んでゴーレムを作成していくのだった。
口は災いの元というが、俺の場合は投げは災いの元かもしれない。もう少しコントロール上げる練習をすべきだろうか。
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そもそも投げるな。
ところでこの作品のメインヒロインは誰だと思いますか。
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