第97話 よく考えたら車じゃなくてよくね?


「ぐぬぬぬぬ! くそぅ、やはり車輪がうまく動かない!」


 俺は屋敷の私室のベッドで寝転がりながら悩んでいた。


 荷台ゴーレムの車輪移動がうまくいかないのだ。どうしても車輪を使って四足歩行で歩く謎ゴーレムになってしまう。どうしてもゴーレムの移動方法が足を使う動きになってしまう。


 ゴーレム魔法の発動者、ようは俺の歩くイメージに引っ張られるのだ。ダメ元で真昼間からベッドの上で寝転がって車輪イメージできないかなと足掻いている。


「どうじゃ? 行けそうか?」


 師匠がベッドの側で立って告げてくる。ゴーレムの実験最中に文字通り寝転がれる場所がなかったので、仕方なく屋敷のベッドに戻ってきたが効果は薄そうだ。

 

「いや厳しそうですね……とりあえずまた庭に戻ります」


 こうして俺は庭に戻ってまた荷台をゴーレム化した。荷台ゴーレムは僅かに車輪を回転させようとしたが、すぐに諦めて足に見立ててゆっくりと歩き始めた! 


「そこで諦めるなよ!? お前ならやれるって!」

「いやまともに動かないから歩き始めたのじゃから無理じゃ。こうなったらワシがお主を振り回してみるか? そうすれば回転感じるやも」

「俺の身体がミンチになりかねないのでやめてください」


 師匠にジャイアントスイングされたら、俺の血液とか泡立つんじゃないかな……。


「お、お二人がゴーレムのことで悩むなんて……」


 フレイアが俺達の様子を見て驚いている。彼女はようやくツェペリア領から呼び戻して、ゴーレム長車の量産を手伝わせる予定だった。


 なお肝心のゴーレム長車はまだオリジナルが完成してないので、彼女は少し手持ちぶさたになっている。そういえばこの娘を逃がさないために寝ろとか言われてたが、俺としては可愛い弟子だからなぁ……。


「むしろワシは昔から悩みまくりじゃぞ。試行錯誤繰り返してようやくばかりで、綺麗に出来たことなんてそうそうないわい」

「俺も何だかんだで少年期はずっと下積みしてたからな」


 ゴーレム魔法は試行錯誤なしで新たな物は作れない。ゴーレム馬車だってツェペリア領を出るまでに色々と苦労したからな。とはいえこの車輪に比べればかなり簡単そうだが。


 四足歩行なら人間だってできるからイメージしやすいのだ。何なら赤子の時はハイハイ移動してただろうし。 

 

「ゴーレム長車は何としても開発したいのじゃがなぁ。これが発明出来れば真の意味でレーリア国でゴーレムの評価が見直されるはずじゃ」


 師匠が真剣な声を出す。


 ゴーレム長車が開発成功すれば、物流の根底が覆る可能性が高い。民衆にも大きく知れ渡るし生活に影響を及ぼす身近なものになるだろう。


 そしてそれを叶えたのがゴーレムともなれば、間違いなくゴーレムの評判は跳ね上がる。師匠はゴーレム魔法が復権するのが望みだったので、一番弟子として彼の夢を叶えてやりたい。


 だが……やっぱり車輪が動かないんだよな。四足歩行の時は時間こそかかったものの、徐々にゴーレムがうまく歩けて行く手ごたえがあったのだ。


 でも今回の車輪はてんでそれがない。いくらやっても無理なのではと思えてくる。


「仕方ない、お主らは少し休め。ワシは新しく荷台を持ってくる」


 師匠はそう言い残して去っていく。彼はゴーレムのために休養がいらないのだ。


「はぁ……どうするかなぁ。無理じゃないかなこれ」


 俺は失敗作の荷台ゴーレムを眺めながらため息をつく。弟子であるフレイアの手前恰好つけたいがそんな余裕はない。


「師匠大変そうですね……飲み物を取ってきます!」


 フレイアは屋敷の中に入ってしまった。そうしてこの場には俺、そして車輪で歩こうとする荷台という悲しき失敗作のモンスターが残ってしまった。


 荷台ゴーレムは俺の方にたぶん頭だろう御者台を向けながら、必死によちよちと車輪で歩こうとする。


「もうやめろ、流石にそれは無理だ。身体に比べて足が短すぎるのでロクに歩けない。また作り直してやるから……」


 車輪はやはり回転してなんぼである。荷台ゴーレムは俺の命令に従って制止した。


「ゴオオオオ」


 そして悲しそうな叫び。もっと歩きたいと訴えているようにしか聞こえなかった。


「いや本当にごめんって……ちゃんと車輪を回せるようにして、長車に相応しく走れるようにしてや……」


 俺は荷台ゴーレムを見たままフリーズした。こいつが荷台という車ではなくて、まるで大きな動物のように見えたからだ。その瞬間に背筋に何かが走った。


 ……待てよ。俺はなんで車にこだわっているんだ? こいつ――荷台ゴーレム――に車輪ではなく足をつけて、四足歩行で速く走らせればいいのでは?


 ようは荷台を車ではなくて生き物みたいに見立てるのだ。


 荷台が自走できるなら本体に荷物を積めるし、それに長細い電車みたいに作った荷台ゴーレムでも、足をいっぱいつけて走らせる方が簡単だし速く走れるならデメリットはない?


 いやむしろ車輪よりも大きなメリットがある。車輪はある程度整備された道じゃないと走れないが、足なら悪路だろうが道がないところだろうが広ささえあれば走れる……!? 


 まだ他にもメリットがあるぞ!? 荷台ゴーレムに普通の荷台を運ばせるなどもありだ! そうすれば普通の馬車との互換性まで得ることが!?

 

「こ、これだ!? 師匠! フレイア! 話が!」


 俺は急いで二人を探して呼び寄せて、荷台ゴーレムの案を話した。


「ふむ。確かにその方がよさそうじゃな! 言われてみれば荷台自体をゴーレムにするとしても、そっくりそのまま車にする必要はない! 荷台に足をつけるのは賛成じゃ!」

「流石師匠です! やっぱりすごいです!」

「よし早速やるぞ! 荷台ゴーレムに足をつける!」



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電車のサイズの荷台となると、足の数が何本になることやら。

ちなみにこの足とは動物っぽいのではなくて、普通の丸太みたいなのでも可能です。

車輪でも超鈍足ですが歩けますからね。歩ける形のものであればよい。


新連載の宣伝です。

『チートビーム魔法使いは超紙耐久!? ~攻撃全振りのキャラで異世界転生してしまった。超高火力で敵を蒸発できるが、俺も敵のワンパンでやられかねない件について!?~』

https://kakuyomu.jp/works/16817330651711978953

 

カクヨムコンももうすぐ終わるので、ひとまずこの作品で新連載投稿は終わりの予定です。

(一作はもうすぐ完結予定ですが)

何卒よろしくお願いいたします……!

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