第96話 耐久的課題


「なん……じゃと……!?」


 俺は庭でゴーレムを触っていたゴーレム師匠を発見し、例のゴーレム長車の件を話した。ところで今更だけどゴーレムがゴーレム触ってるのなかなかアレだな。


 ロボットがロボットのメンテナンスしてるみたいな、何というか人智の外感がある。


「弟子よ、それが実現すればゴーレムの天下じゃ! ワシも全力で手助けしよう! 実は日々の訓練の結果、僅かじゃがワシもゴーレム魔法が使えるようになってきた!」

「えっ!? ゴーレムになった師匠がゴーレム魔法でゴーレムを製造するんですか!? というかよくできましたね!?」


 師匠はサムズアップして嬉しそうな声で語り始めた。


「元々ゴーレムコアは魔力の塊じゃ! お主もそれは身をもって体験しておるじゃろ?」

「はい、ずっと魔ゲロはいてきましたから」


 俺の少年期は魔ゲロとゴーレムで構成されてるからな。字面で表すと無惨で悲しい少年時代……め、メイルがいつも隣にいたからセーフ!


「ならばワシの内臓されたゴーレムコアから魔力を少し摘出して、ゴーレム魔法を発動するのも理論上は可能なわけじゃ。実際にできるようになるまで苦労したが」

「言われてみれば確かに……」


 ゴーレム自体が魔力で動くのだから、動力分のそれを消費することで魔法を発動することも可能そうだからな。ただし普通のゴーレムでは無理だ、コアの魔力も魔法発動技術もないからな。


 師匠ゴーレムだからこそ出来るというか、師匠ゴーレム以外では無理だ。例えばフレイアがゴーレムになったとしても、おそらくゴーレム魔法は扱えないだろう。

 

「それでですね。まずはゴーレムで普通の荷台を何台までひけるか試してみようかと」

「よし任せろ! ではワシが荷台を運べばよいのじゃな!」

「いや師匠だと全く参考にならないですが……」


 師匠は普通のゴーレムの百倍以上は馬力があるので、ゴーレム馬車の実用性のテストには無意味である。師匠量産の暁にはいっそ船に荷物詰んで、持ち上げて運ばせた方が色んな意味で楽だろう。


 二足歩行なので悪路でも問題なく歩けるし、陸上船とかいうロマンが爆誕してしまうな。


「仕方ない、じゃあ馬車ゴーレムと荷台をいくつか集めるか。テストはどこでやるのじゃ?」

「とりあえず屋敷の庭でやりましょう。広いからある程度走らせることはできるでしょう」


 こうして師匠がゴーレム馬車と三台と、荷台を十ほど持って来てテストが開始されたのだが……。


「あー……まず連結部分に不安が残りますねこれ」


 荷台をロープ結んで二つ連結させてゴーレム馬車を走らせたが、何というか後ろ側の荷台が左右に揺れまくって怖い。

 

 いや普通の馬車だって馬と荷台をロープで結んでるから、耐久的には大丈夫な気もするのだが……こういうのは専門外だからなぁ。


「これなら最初から荷台を長くした方が良い気がするのう。別に連結する必要もあるまいて」

「ゴーレム馬車用の荷台ということですか? 俺としては馬車の荷台を流用できれば、より扱いやすくなるメリットがあると考えてるのですが」


 互換性というやつだ。


 ゴーレム馬車用の長細くて大きい荷台を造ったとしよう。普通の馬は間違いなくひけないだろう、馬力不足だ。


 ゴーレムの量産には限度があるので、できれば既存の製品を使いまわせた方がよいと思うのだが……。


「弟子よ、無理にゴーレムと馬で互いに流用できなくてもよいじゃろ。なにせワシら想定のゴーレム長車が完成したら、それこそ馬車馬のように働かされるし重宝される。ほぼ稼働率百パーセントになるじゃろ」

「あー……馬ゴーレムと荷台をセットで扱うことにすればよいと」

「そうじゃ、いっそくっ付けてしまえばよいまである。そうすれば結合部の強度とか考えなくてよいしの」


 師匠は顎部分に手をあてながら考えている。


 その馬と荷台をセットで扱って取り外し不可にするの、もう動力が馬なだけで自動車なんだよな……。自動車を知らない師匠が思いつくなら、やはり人類の行きつく先は似通るということなのだろうか。


「ならいっそ馬的なのもなくしますか。車輪をゴーレムが回すようにして」

「そうじゃの! それで荷台自体を本体にしてしまえば、連結とか気にしなくてよくなるからの! 荷台の強度に関してもゴーレム化すれば、魔力コーティングなどで強化される! 劣化もせん!」

「まあ問題は実現できるかですけどね」


 以前、車ゴーレムの製造は考えたことがある。俺がメイルと一緒にツェペリア領から旅立った時辺りだな。


 その時に造らなかった理由は簡単だ、純粋に作成できなかった。当時は四足歩行のゴーレムですら画期的だったからな……ゴーレムと言えば二足歩行しかいなかったのだから。


 ようは足部分を車輪にするというのは難しいのだ。ゴーレム作成時にそのゴーレムがどう動くかを埋め込んでいるのだが、車なら車輪の回転という動きを魔力でイメージせねばならない。


 これが足ならば簡単だ。ようは地面を踏んで上げての繰り返し。それに俺も常に歩いてるからイメージしやすいし、強度に難があれば足を太くすればよいだけ。馬車ゴーレムも足太めにしてるし。


 でも車輪となると話が大きく変わる。人間の基本動作にないのでイメージが難しい。


 試しにゴーレムコアを手元に出して四輪を持つ荷台に埋め込んでみた。荷台の車輪はピクリとも動かずに、車輪部分を足のようにして四足で歩き出した!


 これなんだよなぁ! どうしても歩くイメージに引っ張られるんだよなぁ!? 

 

「これは時間かかりそうだなぁ……」


 思わずため息をついてしまうのだった。


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まだベギラは引っ張られてますね。いつ気づくのか。

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