第95話 連結馬車?


「馬車を繋げるー? 荷台部分を連結させて運ぶということですかー?」

「そうだ。そうすれば連結させた荷台の分だけ多く運べる。荷台の耐久力が持つかは断言できないが」


 俺はレイラスに対して頷く。


 馬車が横に大きいと街道の幅が足りないので運べない。なら縦に長くなるように連結してしまえばよいのだ、電車みたいに。何なら最初から長細い馬車を造ってもよい。


 思いついてみれば物凄く簡単なことだが、既存の馬車の常識に囚われて発想が出てこなかった。コロンブスの卵みたいなものか。


「……あ、そうか。ゴーレム馬車ってゴーレムのパワーが余ってるんだっけ。普通の馬ならとてもひけない重さでもゴーレムなら」


 ミレスも気づいたようで手をポンと叩いた。


「そうだ。ゴーレムは本来ならもっと重い荷物を運べる。でも荷台の都合で普通の馬がひくのとあまり変わらない量しか運べなかった。なら荷台をそれに合わせればよい」


 ゴーレムのパワーは馬よりもだいぶ強い。それに疲れ知らずなので常に全力を出せるから、重い荷台を運ばせるデメリットは大してないのだ。


 それこそ馬車をひくゴーレムを増やせば、列車みたいに大量の荷台を運べるかもしれない。そうなれば本当の意味で物資の運搬に革命が起きる。


 ゴーレム馬車のひく荷台を大量に増やせば、蒸気機関車ならぬゴーレム機関車も生まれてしまうやもしれない。しかもこちらは線路いらずなので、走れる道さえ存在すればよいのだから。スピードでは劣るが利便性では上かも。


「おそらくだが今のゴーレム馬車ひかせたゴーレムなら、三台くらいの荷台は運べるはずだ。更に強化して製造すれば、それこそ五台や十台を一体で運ぶのも可能かも」

「……なるほど、すさまじいですね。それだと少数のゴーレムで既存の物資運搬の前提が崩れかねない。もし出来てしまったら一気に王家を消滅まで狙える……? 予定を大幅に早めることも……」


 レイラスは真剣な表情で何かを考え始めた。


 どうやら彼女の頭の中にはすでに具体的なイメージがあるようだ。こういうところが本当にレイラスは優秀だよなぁ。


 この案がもし実現すれば、大量の物資や人員をこれまでより遥かに迅速に送れるようになる。軍事であれ経済であれ、国が動かす単位のそれを扱えるのだから。


 アイガーク王国からすれば悪夢だろう。レーリア国が機関車で運搬やり取りするのに対して、奴らは馬車で対抗するのに近くなってしまう。何をするにも後手を強制されるのだから。


「どうだ? これならアイガーク王でも驚くんじゃないか?」

「驚くどころの話ではありません。このゴーレム長車が実現したのを知ったら、その時点で間違いなくアクションを起こしてきます。私があいつなら即座にレーリア国を攻めます」


 レイラスは馬車連結ゴーレムに名前をつけていた。ゴーレム長車か、そのまんまなネーミングだがそれでいいか。呼び名がないのは不便だからな。


「ベギラ、この存在はアイガーク王国に見せしめるまで気取られてはなりません。彼らだけではなくてレーリア国内においてもです。隠れて実験しなさい」

「いいけどそこまで秘密にしなくても……」

「これは劇薬です。まさかこんな簡単なことで、レーリア国が亡ぶのを確定させる致命の一撃になるとは」


 見た者を底冷えするように笑うレイラス。


 どうやら彼女の中ではすでに方程式が作成されてしまったようだ。レーリア王家を打ち倒す式が。


 そんな彼女は俺の方を振り向くと。


「ベギラ、このゴーレム長車が実現できたらすぐに教えなさい。そこからは全てが急転直下に動きます。覚悟もしておいてください」


 レイラスはそう言い残すと早歩きで食堂から出て行った。軽い思いつきだったゴーレム長車がなんかヤバイことを巻き起こしてしまいそうだ。ちょっと現実感が薄くなってしまっている。


 機関車に近い物が出現すれば運搬が激変するのは分かるが、それでもなおレイラスの言葉を完全には飲み込めなかった。


「……ミレス、お前はこのゴーレム長車をどう思う?」

「ヤバイよ。ゴーレム馬車は多くの物を運べない欠点があった、でも長車はもう物資運搬を戦略レベルに影響力持ちかねないもん。持ってないと困るじゃなくて、持ってなかったら致命的になりかねない」


 やはりゴーレム長車ヤバそうだな。

 

 本当にさっさと誰か思いついておけという話かもしれないが……この世界の荷台は大きさの上限が決まってるからな。それ以上大きくして積載量を増やしても、馬が運べなくなるので無意味だった。


 なので荷台を大きくするという発想を誰も持っていなかった。俺も電車の存在知らなかったら出てこなかっただろう。


「まあいいか。とりあえず普通のゴーレム馬車で、荷台いくつまで運べるか実験しよう。三台くらいはいけると思うが……いや待て、今の俺なら車みたいなゴーレムも造れるかもしれない」

「どんどん改良していくね……」

「こういうのは一度頭が回り始めると止まらないんだよ。いっそ本当に電車を造るのもよいかも……線路なしで走れる感じで」


 発想が無限に湧いてくる。どうやら俺のゴーレムも産業革命の波に飲み込まれる時が来たようだ。


 こうなると俺一人ではダメだ。やはりここは師匠の助けを借りて頑張っていく必要がある。もしこの長車が成功したら……まず間違いなくゴーレム魔法使いの量産が試みられるだろうな。


 何なら普通の魔法使いよりも、ゴーレム魔法使いの方が優遇される未来になるだろう。


 つまり師匠の望みであったゴーレム魔法が国に認められるのが成せるわけだ。


 だがこの時の俺は知らなかった。最終的にゴーレム長車は実現不可で、よりゴーレムらしいブツになることを。

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